林檎狂青森

函館の夜景なんかより青森のねぶたのほうがおもしろいやいっ
(ふてくされている理由はこちら↓)
試される大地北海道

というわけでやってきました青森。
本州のガオーの部分だし県民もガオガオしてたらどうしようと思ったけれど、目が合った人はみんなにこにことリンゴを差し出してくる。なんだ優しいじゃん。ワタシ、アオモリ、スキ。

そう思ったのはほんの5分。私はこの県での初動を完璧に誤ったことに気付いた。一歩進む度に差し出される林檎。断ろうとすると笑顔はそのまま眼光だけが失われ、ひどい時は林檎の数が倍増する。「食え。うんめがら、食え。」私の鞄は既にりんごでいっぱいだ。もう誰とも目を合わせてはいけない

観光地しにきたのに気分はまるで指名手配犯。みんな余所者だとわかると鞄からポケットからカツラから林檎を取り出しては音もなく距離を詰めてくる。やめてくれ…!

私は震える声を振り絞り、少し大きめの独り言を発した。「あ〜、青森来たからには林檎食べたいけど、アレルギーだしなあ〜。」

その瞬間、半径2メートルから人が消え、私の先に道ができた。一瞬モーセになっちゃったかと思った。快感だけど少し寂しい。

無事第一関門を突破したところでランチといこう。デザートは絶対林檎以外にしよう。

青森といったら大間のマグロだな。よし
それっぽい暖簾につられて海鮮屋に入った。

「ご注文は」
「この、大間のマグロ丼お願いします。」
「あいよ、ランチセットあるよ。潮汁とデザート付き」
「あのデザートは「林檎、それかアレ」
食い気味できたな、林檎。「アレ」と指された方に目を向けるが、だだっ広い庭しか見えない。

「すみません。アレ、とは…?」

「アレだよほれそこ、ホノケノザ咲いてっだろ。アレの蜜でも吸うとけ」

酷い、酷すぎる。林檎を食べられないやつはまるで非国民だ。いやでもここで林檎を食べられることが知れたらそれこそもうこの旅は終わる。きっと私の死因は林檎の荷重による圧死になるだろう。

「じゃあセットで、ホトケノザで…」
「林檎じゃねえならセルフだ。勝手に捥げ」

あちらの席の人はデザートに林檎を選んだのだろう。おしゃれなグラスにレモン水を入れてもらっている。一方私は水すらいただけていない。

「あいよ」

早くも折れそうな心を立ち直らせてくれるどんぶりが私の目の前に置かれた。

丼鉢から溢れんばかりのつやつやとしたマグロ。
よかったー。林檎食べれなくてもちゃんとマグロは食べさせてくれるんだ!美味しそう

この後のホトケノザチューチューイベントは一旦忘れ、大間のマグロを頬張った。

わ゛ざびっっっ!!!

やられた…入念にミルフィーユされた大量のわさび。断面を見ると赤と緑の見事なコントラスト。しかも水はない。頼みの綱の潮汁にはこれでもかという量の骨。

なんとか気合いだけで食べきったが、全く大間のマグロを堪能した気がしない。もはやこれは闘いだ。涙をこぼし鼻水を啜りながら私は一目散に庭を目指した。

やさしい甘み…ありがとうホトケノザ。この林檎狂の世界で優しくしてくれるのはきみだけだよ。

会計時に受け取ったお釣りには林檎の香りが染み付いていた。


もうねぶた祭りをみたら帰ろう。私なんてちょっと振り向いてみただけの異邦人だもんな。林檎も食べれないんじゃあ非国民扱いされても仕方ないよな…

自己肯定感が地中にめり込んだ私を慰めるような優しい灯りが遠くで小さくともった。と思ったらやべえスピードで近付いてくる。あれはねぶただ。頭では理解していても足がすくんで立ち尽くすことしかできない。額からは冷や汗が溢れ出し、目をあけているのに走馬灯が見えた。

笑顔で差し出される無限林檎、わさびのマグロ添え、やさしかったホトケノザ

え、走馬灯って本日限定?もっと初恋とか家族との思い出とかそういうのみたかったんだけど

これでは散々な記憶のまま生涯を終えてしまう。そう我にかえったときにはもう、ねぶたの「目」がこちらを捉えていた。
あれは、なんだ?テレビとかでよく観る歌舞伎っぽい男性の形ではなさそう。なんか赤くて、そう

Annoying orange の林檎だ…!
(わからない人はググってね!)

え、え?ねぶたってそんなライトな感じなの??
伝統とか著作権とか大丈夫そ?


そしてねぶたは私の前髪をかすめる距離でビタ止まりした。心臓もビタ止まりするところだった。


「林檎が食えね人生、さぞつれぇだろけど強く生ぎでな」
ねぶたの傍から登場する青森県民たち。


「泣きたいときはワサビのせいにしてたんと泣け」
店主ぅ…!あれ優しさだったのか…!!



村八分で散々だと思っていた旅行は思いがけぬあたたかさと、アレルギーだと嘘をついた罪悪感で幕を閉じた。青森を出てから齧った林檎は甘く、荷物はめちゃくちゃ重たかった。


良いところだったね、青森。


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