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若者の物語を軽んじることなく描いた今年の邦画ベスト1です/【感想】『サヨナラまでの30分』

コミュ障で就活がうまくいかない北村匠海くんがたまたま拾ったウォークマン(カセットテープ!)を再生すると、その持ち主であった死んだバンドマン新田真剣佑が乗り移り、生前付き合っていた久保田紗友に会いに行く。という、予告編をみただけで剥き出しの地雷が目の前に現れて後ろから「踏むなよ!」と声をかけられているような作品(またかよ)。

映画の始まりからポップコーンをポリポリ口に放り込みながらチャラいバンドマンの話なんてミリメートルも共感できねえしミリリットルも感情移入したくねえと鼻ほじりながら見始めたがしかし!
だがしかしだ!
これがエモい!
エモくて面白い!

ハードルを膝下10センチくらいにしておいていざ飛んでみたらプレッシャーなく180センチくらい跳べちゃったような軽やかな驚き。

 予告編から漂う、「ほらほら、『ゴースト ニューヨークの幻』みたいな映画で一本作れないの?」とか飲み会で出た話が企画になったような、そんな鼻ほじり(2度目)ながら見るような映画ではない(邦画への信頼ゼロの発言)。そんなものではなかった。これは愛だの恋だので悩むでなく、北村匠海くんが人との関わりと居場所を獲得し、自己の喪失を受け入れるまでの新田真剣佑の二人が、それぞれ本当の自分というものを勝ち取る物語なのだ!
(音楽映画ということで3割くらい音楽でごまかされているかもしれないですが)

 まあ、カセットテープを再生したら持ち主の霊が乗り移るとか無理なプロットじゃないですか、しかしそんな奇想天外なプロットを力業で収める感じは90年代テレビ時代の岩井俊二を彷彿とさせます。
 なぜカセットテープなのかというのもちゃんと回収しているところが本当にエモい。素晴らしい。最高中の最高。
 また筒井道隆や牧瀬里穂が親として登場しているのですが、親(大人)が若者に向かってしたり顔でアドバイスするような、若者の意思決定に介入することがないのがいいですね。松重豊もどちらかというと見守るだけですし。映画は一貫して若者の物語を軽んじることなく描かれていることにとても好感が持てました。

あ、あと蛇足ですがバンドマンたちはタバコ吸っているんですが。今年見た邦画では初めてタバコ吸うシーンを観た気がします。映画が潔癖で漂白された世界じゃない感じがまた心地よくて、肯定的にみられました。
 
 そして音楽映画として劇中歌が重要なところですが、これがまた良い。ジョン・カーニーの映画『シング・ストリート』(15)がエモいのは楽曲の良さが多分にあるのですが、この『サヨナラまでの30分』も複数のアーティストから楽曲の提供を受けていて、その劇中歌がすんなりと受け入れられるんですよ。当世風でいい曲ですよ。
僕も買っちゃいましたし。

また萩原健太郎監督は初めて聞く名前でしたが、本作のインタビューを聞いてみると、映画の中での影のイメージや人物造形に気を配っているのが見て取れて、これは信頼できる監督だと思いました。萩原健太郎監督の今後は要チェックですね。

これは今のところ今年の邦画ベスト1の映画です。
オススメ。

鑑賞日:2020年1月27日

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「ちはやふる」の新田真剣佑と、バンド「DISH//」でミュージシャンとしても活躍する「君の膵臓をたべたい」の北村匠海のダブル主演による、オリジナルの音楽青春映画。バンド「ECHOLL」がメジャーデビューを目前に解散してから1年後、メンバーたちの前に突然見知らぬ大学生の颯太が現れた。バンド再結成をメンバーに迫る颯太の中身は、なんと1年前に死んだボーカルのアキだった。颯太が偶然拾ったカセットテープを再生する30分だけ、アキは颯太の体を借りて入れ替わり、1つの体を共有していく。人づきあいが苦手な颯太もアキや仲間たちと音楽を奏でる楽しさを知り、次第に打ち解けていくがアキの恋人カナだけはバンドに戻ってくることはなかった。カナに再び音楽を始めてもらうため、最高の1曲を作り上げようとするが、アキと颯太の入れ替われる時間はだんだん短くなっていく。アキ役を新田、颯太役を北村がそれぞれ演じる。監督は「東京喰種 トーキョーグール」の萩原健太郎。
公開日:2020年1月24日
2020年製作/114分/G/日本
配給:アスミック・エース


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