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愛を謳えど 愛は唄わない


昔からラブソングが嫌いだった

外に向けているようで
実際は全部 自分自身に向けた愛情
自己満足の愛

私物化されたパーソナルなラブソングに
どうして共感するのか分からない

他人が他人に向けて唄ったものなんて
暑苦しいだけ

何で 数多くある題材の中で
わざわざ愛を唄うのか

全くもって意味が分からないと

愛されることもない

愛することもない

私はそう思っていた




がやがやと、人と空気が賑わう一間

「あ、これ。廣瀬が嫌いな曲じゃん」
「あーうん。嫌いだよ。飲み会じゃなかったら、店から出てたわ」

この曲はラブソングの中でも一番嫌いな曲
店内のBGMで流れていると、即座に退店する

「何で、そんなに嫌いなん?普通に良い歌じゃん」
「どうしても受け付けないんだよね」

「他には、嫌いなラブソングあんの?この歌だけが嫌いなん?」
「あー、一年の頃に流行ってたアレ」

それは、二番目に嫌いなラブソング

「あれも普通に良い歌じゃん。ちゃんと聴いたことあんの?ちゃんと聴けば良さが分かるって」

「同じことを中敷に言われたわ。入学してすぐの頃、中敷からアルバムを渡されて、ちゃんと聴いたよ。悪いけど。それでも、やっぱり良さが分からんかった。やっぱり共感できなかった」

「まぁ、結局は好みだから、そういう人も世の中には居るわな。あ、次は何、飲む?」
「じゃあ、梅酒ロックで」

「また、それかよ。つまみは?他はいい?」
「あーあと、エイヒレ」

「本当、廣瀬はいつも枝豆とエイヒレばっかだな」
「飲む時はあんまり食べ物は要らないから。逆に食べる時は飲めない。今日は飲む日だから、枝豆とエイヒレがあれば十分だよ」


早く次の曲にならないかなぁと思いながら
氷を揺らして 聴覚を塞ぐ




初夏の日差しが差し込む
学科棟から少し離れた講義室

「なぁ、廣瀬ー。同じ学科でこの講義を取ってるのって、数人しか居ないじゃん」
「まぁ、選択科目だし、単位が足りていたら、わざわざ取る必要ないからなぁ」

「で、そういう田中は何でいんの?こういうの苦手そうじゃん」
「俺は単位がまだ足りてなくて、これしか取れるものがなかったんだよ。廣瀬がいるなら、何とかなりそうだ」

パタンとドアが鳴り
他の学生も講義室に入ってくる
まだ席は埋まりそうにない

「廣瀬は何で取ってんの?単位は足りてるだろ?」
「単位は足りているけど、登録できる講義に空きがあったから」

「普通は単位が足りていたら、わざわざ取らない科目だろ。成績を下げないように、難しい講義や苦手な講義は取らない奴も居るだろ」

「まぁ、確かに専門外だから、成績は下がるかもしれないけど、何か面白そうだったから」



今日は剪断応力の項目だ
何となくで取ってみた講義だけど 結構面白い
まぁ 確かに使うことはないけど

黒板が埋まり、上に上げられる。誰も質問もせず、静かに時間が流れていく。チャイムが鳴り終わると、田中が机に伏せる。

「あー疲れた。何で廣瀬は、そんなにすらすら理解できんの?」
「教授の説明と教科書を読めば分かるよ」

「分からんから聞いてんの。俺らの学科は、進路的に機械を使うことはあっても、機械は作らんだろ。機械科でもないのに、何で理解できてんの。俺、この単位を取り終わったら、τの計算なんて、一生する機会がないと思う」

「それは私も同じだよ。使うことはないけど、面白いから良いじゃん」

OHPフィルムが きらきらと反射している




いくつかの本を抱えて、図書館の奥の暗がりの席を目指す。この時間はこの席が落ち着くから。

数百ページに及ぶ本から、該当の項目を探して、すらすらとレポートにまとめていく。この辺りは人も少なくて静かだから、レポートが捗る。

深く息を吐き、背中を伸ばす。荷物をまとめて、持ってきた本を順番に棚に戻していく。

--- 夕方になり 少し人も減ってきたな

最後の一冊を戻しに、いつも人が集まるテーブル近くに向かう。


--- あ あの人知ってる

「もしかして、この本ですか?私は見終わったんで、次どうぞ」

「あ、ありがとうございます。同じ講義を取ってますよね?もうレポート終わったんですね。私はいつもギリギリになっちゃうから、今日は早めに借りようと思ってたんです」

「そうなんですね。あと、その2冊もあれば、レポートに必要な項目は書いてあるから、すぐにまとめられると思いますよ」  

何度か同じ講義を受講していて、お互いに顔を知っているが、学部が違うので話をしたことはない。本棚の前で小声で話した後、小さく会釈をして、いつものテーブル席に向かう。

この時間になると日差しの向きが変わって光量が減るから、テーブルに光が当たらない。窓から見える新緑を見て、ぼーっとしてから読書をする。レポートをまとめた後の恒例になっている好きな時間だ。


--- 今日はSF小説にしよう

小説も恋愛ものはあまり読まない

好きな作家の作品なら、一通り読んでみてはいるが、それ以外は好んで手にすることはない。小説に限らず、映画もラブストーリーは苦手だ。嫌いではなく、苦手。ラブソングだけは嫌いだけど。

さまざまなコンテンツがある中で、小説も映画も恋愛ものをわざわざ選ばない。小説や映画は、他の要素も練り込まれていて、恋愛要素が薄れるから、まだいい。

ラブソングだけはダメだ。5分間に恋愛要素がこれでもかと込められて、感情が濃縮され過ぎていて、胃もたれする。共感もできなければ、時に不愉快でさえある。


小説に栞をはさみ、鞄にしまう。

--- そろそろ、帰ろうかな。


図書館もほとんど人が居なくなっている。図書館を出て、イヤホンを耳に押し込む。今朝、聴いていた曲を最初から再生する。


--- ラブソングは嫌いだけど この歌は好き


好きとか 愛してるとか
直接的な表現が一切無いから暑苦しくない

プレゼントのラッピングのように
ひとつひとつ丁寧に内側に折り込まれている

こういう繊細で美しい表現が好き
内に秘めていく感性と熱量が凄い
分かりやすいラブソングは暑苦しいだけ





--- だから私は

愛を謳えど

愛は唄わない





私が謳う愛は視覚での愛だ
見える形の愛だ

でも 綴っているのは 愛とは云えないもの
でも 形になっているものは 正しく愛だ


何故か?


それは細部に織り込まれていて
分かりやすく捉えることはできない 


形の無い 愛を 形にする

見えない 愛が 見える


--- 今にして思えば

このとき私が謳っていたのは
愛ではなかった


愛もどき




今年もまたこの季節がやってきた。正直に言って、一年でもっとも苦手な季節。夏休みを目前にして、周りは浮き足立っている。声や表情がオレンジを彷彿とさせる。

「お!お疲れー、廣瀬」
「田中もお疲れ様」

今期最後の試験が終わり、田中が声をかけてきた。
凝り固まった肩をほぐしながら、田中へ挨拶をする。

「毎度のことだけど、うちの学部は夏休み入るの遅すぎ。経済のやつらは、1ヶ月前から夏休みに入ってんじゃん」
「まぁ、羨ましくなるよな。でも、2ヶ月はあるんだし、十分じゃん?研究室に配属されたら、夏休みなんて無くなるんだし」

「だからこそ、夏休みがある今を楽しまねーと」
「そうだなぁ」

田中にそう返事をしたものの、夏休みだからといって、何かが変わるわけではない。講義は無くなるが、その分、バイトのシフトが増えるだけ。日常生活は変わらない。周りもそうだろう。


--- 今年は暑くなりそうだ





息が苦しい

足元が覚束ない


ふらつきながらも、何とか台所へ辿り着いた。


どうしよう

どうしよう

どうしよう どうしよう どうしよう


--- とりあえず薬を飲まなきゃ

食器乾燥機から、コップを取り出す。水を入れようと、コップを蛇口に向けて傾けたら、ゆっくりと身体が横に倒れていった。


ガタンと音を立てて、丸椅子が転がった。






しばらくして、目が覚めた。
肘をついて、ゆっくりと身体を起こす。


「いたっ」

脇腹に痛みが走り、右手で肋骨の辺りを抑える。
かなり痛いけど、折れては無さそうだ。辺りを見渡すと、丸椅子が倒れているのが目に入った。

--- あぁ、これに打ちつけたのか。



確か 薬を飲もうとしていたんだ
コップは何処だろうか

足元を見ると、ガラス片が散らばっている。


--- コップ割っちゃった。

割れたコップのカケラを集めて、新聞紙に包んでいく。後で、お母さんに謝らなきゃ。

また、食器乾燥機から、コップを一つ取り出して、蛇口を上げて、水をそそぐ。上を向いて、口に薬を放り入れて、水で流し込む。

--- バイトに行く準備をしなきゃ

コップを洗って片付けた後、着替えを取りに行こうとリビングを歩いていく。


足が重い。 
視界の端から、少しずつ黒く染まっていく。

--- あ だめだ

ゆっくりと身体が後ろに傾いていく。バターンと大きな音を立てて、フローリングに沈んでいく。





しばらくして、目を覚ますと、隣に母親が居た。
仏間に寝かされているようだ。


あぁ 今日って

こんなに空

綺麗だったんだ





仏間の窓から見えた青空。
今日がとても綺麗な青空だったことに気づいた。




お風呂から上がって、台所でお茶を飲んでいたら、父が帰ってきて、珍しく声をかけられた。


父と話すのは久しぶりだ。


父から質問されて、夜ご飯に食べたものを答えると、父は自分の部屋へと向かう。朝も夕方も、父とは顔を会わせることは少ない。父と一緒にご飯を食べることも、ほぼない。

だから、父のことはよく知らない。
見える範囲で知っていることだけ。





翌日、母に怒られた。
父に食べたものを素直に答えたから。

--- 次からはちゃんと食べていると言おう

朝も起きたら、誰にも会わずに支度をして、お茶漬けをかきこみ、学校へ行く。お小遣いも貰っていないし、自分のものは自分で支払っている。

母は料理が苦手だ。
レパートリーも少ない。

昨日は母も家を空けていたから、一人で簡単に済ませた。母から、ちゃんと食べていると、父に嘘をつくように言われる。

全ては父の機嫌を損なわないため





色々な記憶がよみがえる

パッ パッ パッと シーンが切り替わり

過去の記憶が自動再生されていく


何の意味があるのだろう

分からない


随分と昔の記憶

遠い記憶



全部 私の記憶





高校生になると、進学校でも周りは恋愛に興味を持ち出す。進学組と就職組で温度差はあれど、勉強や恋愛を楽しんでいる人が多かった。

誰と誰が付き合っているとか、誰が誰を好きだとか、興味ない。声をかけられるのも面倒くさい。

学校行事で近くの席に座った先輩に、勝手に私の連絡先を教えるクラスメイトも鬱陶しい。


恋愛には興味ない

誰かを好きになることは無い

好きになれそうな人も居ない


きっとこの先も

好きでもない人と結婚して

好きでもない人を受け入れて

好きでもない人の子供を産むことになる



--- 私が望まなくても

だから恋愛なんてしない方がいい




キミに出会ったのは夏

キミにさよならしたのも夏

キミに二度と会えなくなったのも夏


最初に私を救ってくれたキミ

愛を伝えてくれたのに 信じられず

愛を認識していながら 受容できず



二人が怖くて 一人を選んだ

そして 私は独りになった


--- 何で思い出してるんだろう




ずっと キミを諦めきれず
半信半疑で 時折泣いて

何でもない振りをして
笑って過ごす日々


このまま一人でいたかったけど
やはり自分の意思ではどうにもならなくて

諦めて 受け入れて
祈りを込めて 縋るように

命を繋いだ


そして 当たり前のことに気づく
あぁ 何てことをしたのだろうと絶望する

自分の浅ましさと 馬鹿馬鹿しさに絶望する
そして やっぱり独りだと思った


虚しさが消えない


それでも

この小さい手は

あたたかい





ラブソングは嫌い

他人が他人に向けて唄ったものなんて
暑苦しいだけ

だから私は愛を謳えど 愛は唄わない
そう思っていた



--- でも本当は

唄わないんじゃなくて
唄えないのだと気づいた

愛し方も知らない 愛され方も知らない

だから 唄に想いをのせられないのだと
唄うことは叶わないのだと




母も兄も 祖父が苦手だと言う
とっつきにくい人だと

だから 母と兄は祖父を避けていた
私も同じように祖父が苦手だった

でも 祖父とちゃんと話をした
祖父の話をちゃんと聞いた

そしたら 兄に
私は祖父に可愛がられているからと言われた


--- そうではないのに

以前、私が祖父になんて言われたか
知らないでしょ?

祖父が何を抱えて
どうやって 生きてきたのかを
知らないでしょ?

同じように

優しい祖母が何を抱えて
どうやって 生きてきたのかを
知らないでしょ?


みんながみんな

自分が一番

自分が一番可愛い


そうしたら 社会は回らなくなってしまう




何でもない振りをして生きる
今日も笑って話をする


何もないよ
何でもないよ

普通を装う
もう それでいいと思っていた

虚しさを抱えながらも
そうやって 生きていくのだと


そうして
君に出会った

君に出会ったとき
どうしたらいいか 分からなかった

怖くて 怖くて 堪らなかった

何で?
どうして?

疑問がたくさん


それでも 向き合わなければと突き動かされて

導かれるように
ひとつひとつの軌跡を辿り

巡り巡って
君に出会ったあの日


惹きつけられて

引きつけられて


ふらふらと 夜の公園を彷徨うように歩いて
何かを振り切るように重い身体を動かして


剥離する意識を揺り動かして


家路に着いた





愛し方も分からない
愛され方も分からない

愛したいの?愛せるの?
欠陥品のわたしに?



ねぇ 君は何もしてくれなくていいから
何も与えてくれなくていいから

ただ 君と同じ空間にいれたら 嬉しい


椅子とかも要らないよ
何も要らない

わたしは床でいい

ソファーに座る君の足元で
ブランケットに包まって眠りたい


それだけで 十分


君の邪魔はしないから
君に迷惑をかけないから


だから ほんの少しだけ
君のスペースと時間を分けてもらいたい


それだけでいい
それだけで十分


ダメですか?

--- あぁ でも

こんなわたしではダメだ
君を汚してしまうし

何か役に立たないといけない
何か供与しないといけない

そうでないと そばには居られない


その前にわたしは
幸せになる権利も資格もないから

欲しがってはいけない




素直に甘えられる女の子が羨ましかった

甘えられる人が居て
頼れる人が居て

弱いままでいられて 

辛いのって 弱音を吐いて
人前で泣ける
泣いても許される


女の子は か弱い
か弱くて 可愛い


--- わたしとは全然違う

わたしが愛されるわけがない

わたしが愛していいわけがない




君のそばにいたいと思った

何も求めないから 何も要らないから

ただ ただ 一緒に居たいと


だから そこに存在する無機物と同じで構わない
でも それは きっと許されない

きっと認められない


--- だって わたしは厄病神だから

きっと 関わらない方がいいと思われている
碌なことにならないと

きっと 恨まれている


だから 君に近づいてはいけない
君には近づけない





弱音は吐けない
誰も助けてなんてくれない


辛いといっても流されるだけ
言うだけ無駄だ

頑張らなきゃ
全部 自分でやらなきゃ

自分で自分を見捨てたらダメだ

今よりもっと
もっと もっと 頑張らなきゃ

そうしないと 君に会えない
君に一目 会うために


今 頑張らなきゃ
でも 身体がいうことをきかない


制約があって 自由にも動けないけど
自分よりも 守らないといけないものがあるけど


それでもやっぱり 

一目でいいから君に会いたい


だから 自分の持てるもので
自力で何とかしなきゃ



--- でも それはわたしのエゴだ

君に迷惑をかけるだけだ
会って何になるのか?

迷惑になるだけ

わがままは言えない
前と同じだよ


迷惑だって しつこいって思われてる

わたしなんて要らないよ
必要とされてないよ




離れなきゃと思っても 離れられない
惹きつけられてしまう

やっぱり 好きだなぁって思ってしまう

こんなはずではなかった
こんなのわたしではない


恋愛なんてしなくていいと思っていたのに
いつのまに こんなに弱くなってしまったんだろう

いや 強くなった気でいただけで
本当は ずっと 弱いままだったんだ


素直に好きだと言える子が羨ましい
素直に好意を伝えられる子が羨ましい

そんな女の子たちを眺めては羨ましいと思い
嫉妬してしまう自分が嫌になる

わたしは言えない 言ってはいけない


--- だからね

いつか図書館で思ったように
内側へ折りたたんで 包み隠していくしかない

いつか 包みを開けたとき
中には何が残っているのだろう

何色になっているのだろう





今日は良い風が吹いている
お花もふりふりと揺れて喜んでいる

少し冷たい空気の間を吹き抜けていく風
久しぶりに見上げた空は

薄くて 儚い 水色


空の高さが変わっている
この数ヶ月 空を見ているようで
ちゃんと見ていなかったのかもしれない


風が撫でる頬も

左足首も

ほんのりあたたかい


--- もう少し 頑張るか

君も何処かで 同じ空を見ているのだろうか





もし 何も気にせずに
君に会うことができたなら

何も気にせずに
君と話すことができたなら

何も気にせずに
君と一緒にいられたら


そんなこと 考えたって仕方ないのにね


何のために頑張るんだろう
何のために頑張っているんだろう

この先に何があるのか
何が待っているのか

分からない

先があるのかも


もう疲れたなぁ
しんどいなぁ




子供の頃は夢あったのかな
何になりたかったんだっけ

しばらく考えても全然思い出せなかったのに
ふとした時に思い出した

あぁ そうだ そうだった
ふふ 笑える


皮肉だね


小学校は良い思い出はない
中学も高校も同じ 学校は苦手だった

友人は数人居たし 良い先生も居たけれど
どうしても学校には馴染めなかった

年々 浮き彫りになっていく
他の人とは違うのだと

頑張って調整したけれど
埋まらない

普通になれない


--- わたしも普通の家庭に生まれたかったな

あたたかい家庭に
優しいお母さん お父さん


そんなものは幻想だけれど


母である前に 一人の女性であり 一人の人間
父である前に 一人の男性であり 一人の人間

だから 母も 父も

自分の人生を生きる権利がある
自分の人生を生きていい

幸せになっていいんだよって


母が家を出て行った後に
私は父に手紙を書いたんだ


もう18歳になった
自分の力で生きていかなきゃって

あのとき そう思ったんだ




好きな人には好きと言えない

言えば迷惑になるから
迷惑をかけたくないから

自分の人生に巻き込みたくないから
人と深く関わらないようにしなきゃ

だから一人で頑張るの
そうやって生きてきた


一人は楽 一人は気楽

まだまだ 自由にはなれないけど
おそらく 自由にはさせてもらえないけど


蛙の子は蛙

母と同じことをしないように見張られている
逃げるつもりはないのに

逃げたらどうなるか分かっている
それなら逃げずに耐えた方がいい

良い子の振りをする
良い娘の振りをする


頭では分かっているけど 本能が邪魔をする

母の味方はできない
母には会わない 連絡を取らない

祖父と祖母のことを思うと 
母とは完全に縁を切らないといけない
そうするべきだ そうするしかない 

だから 時折届く母からのメールも
ふいにかかってくる電話も無視をした


そしたら 毎年届いていた私の誕生日のお祝いメールも数年で届かなくなった

母も私のことなんて もう忘れたのかなって
もう新しい生活に慣れたのかなって
少し寂しくなった

母の面影がある この顔が嫌で堪らなかったのにね
どうしたいのか 自分が分からなくなった


父に自由にさせてと言ったけど
ダメだった

それに きっと父は認めてくれないだろう
私に医者になれとか 手に職をつけて稼げと言う人

人の命を預かる仕事はしたくない
興味があることは認めてもらえない

だから 父が許してくれる範囲で
興味を持って取り組めるものを探した


元から恋愛には興味がない
恋愛なんてしている暇はない

それに 父になんて言われるか
遊ぶために進学させたわけではないから


父は人に対する偏見も激しい

結婚するなら ◯◯は止めてくれとか
色々と言ってくるから

絶対に隠さないといけない
絶対に知られてはいけない

良い子の振りをするの
良い娘の振りをするの


--- そうやって

自分の中にしまい込んだ


笑って話しをした
何でもない素振りで

でも 瞳は誤魔化せないから
なるべく瞳を見ないようにして

そんなキミとの記憶




今 どうだろう

今 どうしたいんだろう


自分の気持ちは分かってる

本当はどうしたいのか
どうありたいのかも

だから 辛いんだ
だから 苦しいんだ

頑張っても なかなか上手くいかなくて
頑張っても どうにもならなくて


それでも 重い身体を引き摺りながら
もう諦めて楽になりたいと思いながら

ずるずると進んでいる
這い上がろうとしている


何でかなぁ

それだけ 今はただ
ただ ただ 君に会いたいんだ




あぁ 分かった

言えないから 謳うのか
言えないから 唄うのか


今なら 私も唄える気がする

やっと分かったから


でもね やっぱり私は

愛を謳えど 愛は唄わないんだ


だって 君だけに


君のためだけに

唄いたいから


愛とは 愛する誰かのために

愛する 誰かのためだけに

唄うものだと思うから



だからね 

私は

愛を謳えど 愛は唄わない


いつか 君のために唄うの

いつの日か きっと


Lullaby を





愛しい 愛しい 君へ

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