見出し画像

【読書感想】『久住昌之の終着駅から旅さんぽ』(著・久住昌之)

『孤独のグルメ』の原作者であり、数々のエッセイを執筆している文筆家でもある久住昌之先生。久住先生の散歩や酒に関するエッセイは不思議と惹かれるものがある。良い意味で気楽でゆるくて、するりと読める感じがなかなかに心地良いのだ。

以前、線路を主題にした『ニッポン線路つたい歩き』『線路つまみ食い散歩』という鉄道系の散歩エッセイを拝読したが、今回手に取ったのは「終着駅から気ままに散歩する」というテーマで散歩を楽しむエッセイである。

序文にて「力まず、肩の力を抜いて、目的も目標もなく、散歩に出てみようと」と書き添えてある通り、今回も著者の持ち味が存分に活かされた気楽でゆるい散歩紀行文になっている。訪れる場所は、東京近郊の路線から、遠くは大阪や長崎まで。それぞれの土地で、好奇心の赴くままに足を進めて、あえて寄り道を楽しみ、思わぬ発見に感動し、地元の食とお酒を堪能している様がとても楽しい。

今回は「終着駅」がテーマなので、駅についても描写が多い。終着駅は道の終端。”終わり”になったという事には理由があるわけで、そこには歴史やドラマがある。駅舎の造形や佇まいと合わせて、その積み重ねてきた歴史に思いを馳せる。駅そのものに視点を向けることの面白さを、改めて学ばせてもらった。

文中に挟まる写真や、自筆の色鉛筆イラストも散歩紀行の良い彩りになっている。本人はイラストについて「ヘタクソがバレるので色々とゴマカシをやっている」等と謙遜しているが、私の目から見たらとんでもない。たいへんお上手だ。散歩の情景をそのまま切り取ったような、ほんわかとした柔らかいタッチで味わい深い。

今回も著者が好んで入る居酒屋のごとく、不思議と気安くて居心地の良い雰囲気が漂っている。気負うことなく読みやすい、読むとぶらりと散歩に出かけたくなる、「散歩って良いなぁ」としみじみと思わせる良い散歩エッセイだった。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?