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源氏物語 6

『源氏物語』第12帖「須磨」13帖「明石」は序盤の大きな転換点として興味深い所謂「貴種流離譚」。朧月夜との契りが引き金となり政情への懸念から光は須磨へと退く決意をする。今の感覚からすると、とても辺境とは思えない名勝だが、畿内を離れるということはそれほどに深刻だったということを読書体験させられ現代にも通ずる小説的展開となる。荒涼たる海浜であることもあり、おそらくは光にとっての経済基盤たる荘園だったのだろうと思われるが、愛しい紫の上は同道しない。侘しさにうち潜みつつ、歌を詠じたり琴を鳴らしたりするその様子に周囲は胸を痛め、そうした光を想い都の花散里はじめ何人もの女人たちも哀しみを晴らせない。そんな中、光は神託のごとき嵐に見舞われ明石へと移り、そこで明石の君と出会い、その情交が、物語を大きく動かし、この後、紫の上の苦悩に繋がっていく。 
 都では、先帝桐壺が朱雀帝の夢枕に立ち、後には眼病となり、右大臣の死、弘徽殿女御の病と次々厄災が発生し、光を都に戻す流れが確定し、権大納言として世の中心に復帰してゆく、という次第で、あらためていうまでもないことだが、面白さはどんどんと深まるばかり。 
 ところで室町時代の研究書『河海抄』は、大津石山寺で紫式部は『源氏物語』を「明石」から起筆したと伝えている。何故そうした説が唱えられたのか、という研究があるくらい、もはや俗説に過ぎないが、物語としての嘆賞すべき構えが秀逸であるが故の伝説だと思われる。※今回の画像は、コロナ前に妻と石山寺を参詣したときのもの。須磨・明石どころか、滋賀も今は遠いなぁ。     2021/06/02

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