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源氏物語 5

『源氏物語』第九帖「葵」は、物語として誠に素晴らしい一巻で、いつ読んでもうっとりさせられる。この春も中止となった今なお続く葵祭(賀茂祭)を背景にした車争い、六条御息所の切ない想いと生霊と化して葵の上を取り殺してしまう怨念、光の葵の上への思い、紫の上の成長と婚姻、禁断の子夕霧の誕生などなど、どこをとっても王朝物語然とした申し分ない品揃えである。原文を典雅な気分でたどりながら、ふと思い立って谷崎、円地、寂聴三人三様の訳本を読み返してみると、いずれも名筆ながら、原文を堪能している今の自分に聴こえてくる紫式部の文体の調べは、谷崎源氏が最も近しいなと感じる。3回も訳し直したことによる達成なのかも知れないが、個人的には同じ誕生日であることの感性の近似値という、全く何の根拠もない親和性を抱いて小躍りしてる。2021/05/30

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