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源氏物語 8

 寂聴御大が嫌なヤツと評していた玉鬘の美しさとそれを取り巻く光はじめ男たちの思惑が様々に交錯する第22帖から31帖「真木柱」までの所謂「玉鬘十帖」は『源氏物語』第一部を締め括るのに相応しい光源氏の隆盛をもあわせて描く典雅なひとまとまり。
 精緻な心理描写や六条院の季節の移ろひによって物語に奥行きがもたらされ、紫式部の筆の成熟を感じさせる。全体の通奏低音部と捉えるべき春秋優劣論は『万葉集』の額田王の長歌を筆頭に多様な先行作品を想起させ、作品が奈良時代以来の伝統、教養に深く裏打ちされていることを知らされる。物語そのものとは、やや離れるが、この十帖を読むたびに、そうしたことともにどうしても作品の構造論、という研究成果に関心を持たざるを得なくなり、若紫系、玉鬘系という近代の視点による大きな流れを考えて、あらためて1000年以上前の文学的奇跡に驚嘆する。 この十帖は、やはり後に加筆したのかなぁ。 
 そうとしか思えない屹立度、洗練さなのである。 2021/06/13

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