見出し画像

明後日プロデュース『ピエタ』レビュー

 小泉今日子が主宰する「明後日」企画・製作の『ピエタ』の上演が発表されてすぐ直木賞作家大島真寿美の同名小説を一読し、この原作がどのような舞台になったのだろうと興味を持って、千穐楽直前下北沢本多劇場に出向いた。脚本・演出は、テレビドラマやドキュメンターも手がけるペヤンヌマキ。シンプルな舞台装置で、キーボードとヴァイオリン2丁、声楽を生で聴かせる仕立ては、物語の中軸をなすバロック音楽後期の雄、アントニオ・ヴィヴァルディその人を彷彿とさせるに十分な印象だった。

 登場人物は、全員女性。ヴィヴァルディも、原作では重要な役割を担う頬に傷のある大男もゴンドラの漕ぎ手ロドヴィーゴも登場しない。それで十分に物語が訴えようとすることは観る者に鮮やかに伝わってくる。舞台の下手高位置に出ずっぱっりの楽曲担当向島ゆり子の奏でる妙なる調べが素晴らしい。慈善院「ピエタ」の出世頭アンナ・マリーアに扮した会田桃子の弦やヴェネツィアの有名歌手ジロー嬢役の橋本朗子のソプラノが楽曲とともに物語を美しく彩り、出演者全員のけっして声を荒げることのない典雅な台詞回しとも相まって、原作が有するファンタジックなイメージをいささかも冒すことなくことなく醸し出すことに成功していた。

 主役の狂言回しエミーリアを演じた小泉今日子が、プロデューサーとしてなぜ本公演の舞台化、上演にこだわったのかは、舞台の最後で明らかになる。原作の結末部でもあらためて強調される作品主題は、座長小泉今日子と音楽人、そして石田ひかり、峯村リエ、広岡由里子、伊勢志摩、高橋ゆらこという実力派女優によって見事に体現されていた。

 よりよく生きよ、むすめたち。
 ・・・・
 よろこびはここにある。

 土曜夜の舞台がはねて表に出ると、折しも劇場のある下北沢は夏祭りの終わった直後の喧騒が消えゆこうとしていて、舞台で体感した心のゆらめきにふさわしい時空間だった。公演はこの後、愛知、富山、岐阜と回るとのことである。 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?