マイペンライ

雨が降りそうな空が広がると、
過去の記憶がふとよみがえる。

それはいつも苦しんでいたあの時の記憶で、
あの時は自分の苦しさしか見えていなかったのに
いまになって親や上司やパートナーや
私に振り回される人たちの顔が
ありありと浮かんでくる。
そのたび、胸はぎゅーっと締め付けられて
どうしようもできない悲しみに襲われる。

あの時、
私の親はどんなに心配したことだろう。
きっとどうにかなりそうな気持ちを抑えて
必死に無事を祈りながら
私のアパートへと向かっていたんじゃないか。
娘には何事もなかったかのように振る舞いながら。
そんな親の気持ちを、顔を想像すると
たまらなく胸が締め付けられる。

調子の悪かったあの頃の私の記憶。

きっと私は天気が悪くなるたびに、
そんな暗い過去を思い出すのかもしれない。
思い出すたびに、涙が流れて
心の中であの時の親にごめんなさいを言う。
見たくない自分の姿だけど、
消してしまうことはできない。
調子の悪い私がいた。
私の中に、そういう鬱々とした気持ちがある。
それは事実として認めるしかない。

でも、それだけじゃない。
調子の悪い私がいて、調子の良い私もいる。
それが分かっていれば大丈夫。

「マイペンライ」
これは、前の上司が私に教えてくれた言葉。
おおらかで、やわらかくて、お母さんみたいな安心感のある上司が、学生時代にタイで出会ってから大事にしている言葉だと言っていた。
気にしないで、まあいいんじゃない、大丈夫、平気だよ。
そんな類いの言葉らしい。

過去に暗い私がいても、マイペンライ。
雨の日に悲しい過去を思い出しても、
マイペンライ。
間違えちゃっても、マイペンライ。

私の宝箱にもしまっておきたいあったかい言葉。

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