ハスラー拡大版開発中の報を知ったときはホントに大反対だった。
売れたからといって上のカテゴリに再登場させる考えはあまりにも安易な発想だし、あの絶妙なプロポーションが崩れて本家ハスラーの評判が落ちるなんて想像したくない。
ただ幅を広くしただけで登場したワゴンR"ワイド"のガッカリ感を、20年越しにもう一回味わうのはもうゴメンだ。どうにか中止にならないかと心に念じていたものだ。

しかし”ハスラー拡大版”たるクロスビーは「肥大」を感じさせないハツラツとしたプロポーションで登場したから本当に安堵した。
聞けば部品は「軽の方」とまったく共通ではないらしい。よくぞここまで似せたものだと逆に感心してしまった。
ミニクロスオーバーやレンジローバーに少し似(せ)ている部分はスズキのいつもの茶目っ気のなせる技だろう。

運転席周りの空調を含む操作系はスズキ・イグニスの日本車離れしたイカしたもの(個人的に大好きだ)に変わっているし、白いパネルも生活臭くなくて良い。

リアシートはスライド可能で、一番前にシート位置を変えても足の置き場には十分な余裕がある。上下方向は言わずもがな、開放感十分だ。
トランクスペースは深さがあるのでベビーカーがタテに積めそうだ(ただし持ち上げるには高さがあるので確認した方がいいかも)。
地味に便利な12Vのアクセサリーソケットもついてるのが素晴らしい。工夫次第で色々な使い方ができそうだ。

走行性能は必要にして十分。ターボエンジンであることも影響して静かだしスムーズだ。
ウーウー唸るだけで進まないCVTではなく、6速のATを選択したことも大きく影響していると思う。
街中のストップ＆ゴーはもちろん、高速道路の合流をイメージした加速にも気後れすることはなさそうだ。
牧歌的な乗り味のハスラーも魅力だが、クロスビーを味わったら「こちらの方がイイ」とほとんどの人が思うかもしれない。ボディも堅牢だし。
一つだけ気になるのは60km/h付近で必ず聞こえてくる「ブボボボボボボ……」というノイズ。
エンジンマウントかボディか、発生源はわからないけれどとても耳に付く大きめの音だ。
試乗する機会があったらぜひ確認してみた方がイイ。個体差であることを願いたい。

新年早々アレなのだが正直なところニュルブルクリンクが何分何秒だとか、600馬力だ700馬力だとか、セダン→低いセダン→クーペと4枚ドアのクーペ→それらをベースにしたSUV→その隙間を埋めるヤツ……といった具合で展開する「ニューモデルすごろく」が心底退屈に感じ、物心ついてから初めて(！)昨今のクルマ事情にホンット飽き飽きしている。
なにそれ、まだやってんの？ 面白いのか？ と思うこともしばしばだ。
それよりも手のひらで転がせるパワーとサイズで、サーキットのタイムでは表せない魅力を持ったクルマの方がぜんぜん価値があると思う。
これ、オッサンになった証拠かもしれないけれど。

そんなクサクサした気分のなか、所有することで新しい趣味の広がりや人生観が変わりそうな予感を感じさせてくれるクロスビーのようなクルマに乗ると、心底ホッとする。
過剰にネンピにうるさいワケでもなく、安全装備もしれっと付いている加減もイイ。
子育て世代はもちろん、スペックオタク生活に疲れたクルマ好きオッサンの世代にも十分オススメできる陽だまりのようなクルマだ。