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【私の100冊】No.3 理想と現実。「善き少女」になろうとしたけれど。「若草物語」

私のプロフィールとして、「私をつくってきた100冊」を選びました。
その中から順不同で本の内容、魅力、思い出などご紹介しております。

私の100冊
 3.若草物語 ルイザ・メイ・オルコット

南北戦争時代のアメリカ、従軍牧師として戦地に赴いた父の留守宅を守る優しく考え深い母と四姉妹のクリスマスから翌年のクリスマスまでの1年間を描いた物語です。

長女のメグ 
美しくお淑やかでしっかりものの総領娘。きれいなドレスやレースの手袋など贅沢品へのあこがれの強い16歳

次女のジョー
ジョセフィンという名を感傷的と嫌がって少年風にジョーと呼ばせている
読書好きで小説を書いている。おっちょこちょいで癇癪持ち。怒るのも愛するのもどちらの方向にも激しい情の持ち主の15歳

三女のベス
心優しく他人の世話をするのが好き。ピアノを弾くのが得意。お行儀がよく、従順。人見知りのはにかみ屋が欠点の13歳

四女のエイミー
良い素質はあるものの甘やかされてわがままになりかかっている気取り屋さん。絵が得意な12歳

彼女たちが、それぞれの性格的な欠点と向き合い、どのように克服していくかというテーマを底に、家庭を中心に起こる出来事を描きます。
・クリスマスの奉仕活動と家庭での劇
・隣家のローレンス家の少年ローリーとの友情
・ローレンス老人とベスとのピアノを通じたあたたかい交流
・エイミーが学校の規則を破って罰を受ける
・エイミーがジョーの原稿を焼いてしまい大喧嘩に
・メグが裕福な友人に誘われて上流階級のパーティへ
・ジョーの悲惨な食事会
・ジョーの小説が新聞に載る
・戦地の父が病気に。母は旅立つ。ジョーは自慢の髪を切って旅費の足しにする。
・ベスが慰問にいった先の家族からしょう紅熱をうつされ重体に。
・ベスは危篤状態から持ち直し、母帰宅
・メグとローリーの家庭教師ブルック氏とのロマンス
・クリスマス、父帰る。娘たちの成長を祝福する

ざっくりと出来事を記すとこんな感じです。
箇条書きだと魅力が伝わりにくいですが、四姉妹のそれぞれが活き活きしていて、時代も風習も違うのに身近に感じられるのです。

そして、私が「若草物語」を愛読していた小中学生の頃、「ベス」にならないといけないと本気で思っていました。
昭和50年代後半から60年代初めの頃、クラスの女子の大半が「将来の夢はお嫁さん」と本気で言っていた時代の話です。
地域性もあるのでしょうが、その頃の価値観で女の子に求められるのはベスのような家庭的でやさしく控えめな性質でした。

私自身は、四姉妹の中ではジョーに近かったと思います。
ジョーのような激情は持ち合わせていませんでしたが、本が好きなところも、小説を書いていたことも、男子に比べて行動の制限が多いことが不満で、いずれ自分の足で立ちたいと思っていたところも似ていました。

当時から「結婚しても仕事をするのが当然」と考えていた私はクラスの中でかなりの異端児扱いでしたから、そのジョー的な性質が社会で歓迎されるものでないことにも気付いていました。
だから、自分の性質を矯めてベスのようにならなければ、と思ったのです。

若草物語の主題として、各々の「荷物」すなわち人格上の課題を如何に克服して成長するか、ということがあります。

よって、大真面目に努力はしたのですが、本来生まれ持った性質はさして変らないままで、私に「ベス」の穏やかで献身的な性質があれば、もう少し良妻賢母になれたものを、と思いつつ現在に至ります。

さて、久々に「若草物語」を読んでいた私にさるちゃん(娘・小6)が寄ってきて、それは面白いか?と尋ねてきたのですが、勧めて良いものか一瞬迷いました。

四姉妹の母が語ることば、その価値観に貫かれた物語を令和を生きる娘がどのようにとらえるのだろう、と疑問を感じたからです。
逆に今の主流の価値観とは異なるものだから、物語の世界として深刻にとらえず受け流すのかもしれないとも思いました。

私はね、自分の子供たちが美しく、なんでもよくできる善良な人になって、人からほめられ、かわいがられ、尊敬されるようになってほしいのです。そして若い時代は楽しく過ごし、賢い結婚をして、神さまの思し召しにかなうならば、なるべく心配や苦労をさせないで生きがいのある楽しい一生を送らせたいと思うのですよ。
りっぱな男の人に愛され、妻として選ばれるということは、女としていちばんしあわせなうれしいことなのです。

19世紀のアメリカと昭和の日本の娘に対する価値観がほぼ同じってすごい。

私と異なり、ジョー的な性質よりも、むしろエイミーっぽいさるちゃんなので、私と同じ本を読んでも読み方は異なるでしょう。
どんな物語も「自分で読んでみてごらん、どんな本もどのように受け止めるかは貴女次第」ということなのだとあらためて感じました。

私が少女時代「若草物語」を読み、四姉妹のそれぞれの長所短所をわが身に引き比べて考え、自分の在り方を模索した結果として今があります。
そういう意味で、私の人格形成に良くも悪くも影響を与えた一冊といえそうです。

ところで、若草物語のエピソードの一つとして、エイミーが学校で禁止されている「塩漬けのライム」を持っていき、先生から罰を受けるというものがあります。
原文ではpickled limesとなっているようですが、これがなんなのかが昔も今もよくわかりません。
翻訳ではライムの漬物、とかライムの酢漬けとか塩漬けライムなどとされているようです。
子供の頃は、漠然とはちみつレモンをイメージしていましたが、12,3才の少女たちの学校で大流行りするようなものかしら?と首をかしげておりました。
大抵の日本人読者は疑問を感じていると思うのですが、こんなものではないのかなあと御存じよりのことがあれば教えてくださいませ。