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放課後ランプ(#毎週ショートショートnote)

「神谷、ちょっと話あるんだけど、放課後理科室に来てよ」

中学二年の夏休み前、谷島智子に声をかけられた。矢島のことは前から気になっていた。バレー部のエースで運動神経がいいところ、誰とでもフラットに話すところ、でもクラスでは決して1軍ではないところ。

理科室にはアルコールランプが一つ。誰かが片付けるのを忘れたんだろう。引き出しからマッチをとり、火をつける。オレンジ色の炎が揺らぐのをしばらく眺めていた。

部活前のジャージ姿の谷島が来た。
「神谷、私夏休みに引っ越すの、今までいろいろありがとね」

「えっ。」

「アルコールランプ、危ないよ」
谷島が炎に透明のふたをした。炎はすぐに消え去り、少し焦げた白い芯が顔をのぞかせた。
「じゃ、またね」

「うん」
何か言いたかったのに何も言えなかった。
ランプのオレンジの炎も一瞬で消えた。




「神谷、いいランプ売ってたから買ってきたの、LEDだけどオレンジの炎みたいでしょ」
「もう結婚して3年も経つんだから名字で呼ぶのやめろよ」
「いいじゃん、別に」
神谷智子が隣で笑いながら、シャンパンの栓を抜いた。

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