カミヲ勘デ

しがないサラリーマンをしながら、ショートショート書いています。 これからもよろしくお願…

カミヲ勘デ

しがないサラリーマンをしながら、ショートショート書いています。 これからもよろしくお願いします。

最近の記事

春ギター(#毎週ショートショートnote)

公園の桜は満開だ。   赤ら顔で缶ビール片手にはしゃぐ彼らは会社の仲間だろう。 とても楽しそうだ。   シートの上で二人の世界に入って語り合うカップル、とても幸せそうだ。 ゆっくりな足取りで散歩するおじいちゃんとおばあちゃん。 桜の花はみんなを幸せにしてくれる。華麗に咲いて、惜しげもなく散る桜。この世に未練を感じさせないのも桜の魅力かもしれない。 花見の喧騒の中、僕は毎年ギターを弾いている。 誰も聞いてくれるわけではないけれど。 やっぱり春はいい。 出逢いも別れも一緒

    • 深煎り入学式(#毎週ショートショートnote)

      桜が満開の入学式。 3人のピッカピカの一年生が15人のお兄さん、お姉さんに迎え入れられた。 この古びた木造校舎での最後の入学式。 翌年からは隣町の小学校に統合される。 「●〇小学校に入学したことをうれしく思います」 ボクが代表で読み上げた。 児童の数より、倍の数の大人がいる入学式。 1年間だけだったが、夏には蝉の鳴き声を聞きながら、汗だくで受ける授業。 冬には隙間風で寒かったけど、ヤカンをのせた薪ストーブの周りに集まり、食べる弁当。 授業中、犬が校庭を走り回る光景が年に

      • 三日月ファストパス(#毎週ショートショートnote)

        「亡くなったら、三日月様を滑り台のように滑って、飛んでお星様になるんだよ、そうあの星がおじいさん。」  小さい頃、三日月を見ながら祖母から聞いた話。  思い出はもっとたくさんあったけど。これだけは鮮明に覚えている。  今日、会社からの帰り道、見知らぬ男の人から「三日月ファストパス」を書かれた一枚の紙をもらった。 「お急ぎなら、どうぞ使ってください」  別に何も急いでいないんだけど・・・  とか思いながら、信号を渡っていたら猛スピードの自動車に突っ込まれ、意識を失った。

        • 洞窟の奥はお子様ランチ(#毎週ショートショートnote)

           半年に一度、百貨店のレストランでお子様ランチを食べ、屋上の遊園地で遊ぶのが唯一の贅沢だった。  しかし、その百貨店は10年前に閉店した。  都会ではITバブルやら、リーマンショックやら、景気に波があり、好況だった時もあるようだが、地方経済は40年失われたまま。  洞窟の中を歩くように毎日もがきながら生きてきた。  昔夢中になったロールプレイングゲームのように、黙々と仲間と作業をこなし、苦労を重ねながら、必死に家庭を育んできた。 ともに戦った妻は冒険の途中で旅立った。自

        春ギター(#毎週ショートショートnote)

          行列のできるリモコン(#毎週ショートショートnote)

          とある街の古びた電気店に長い行列ができていた。 どうやらリモコンを売っているらしい。 「購入の際には申込書に氏名、生年月日を記入の上、身分証明書をご用意してお待ちください」 看板にそう書かれていたので、気になって申込書を手に取り、行列に並んだ。 ようやく手に入れたリモコンを手に取ると1から86までの数字が書かれたボダン。 試しに27のボタンを押してみる。 15年前の結婚式の様子が頭の中に鮮明に思い出された。 次に16のボタンを押してみる。 河川敷のグランドで彼女とキ

          行列のできるリモコン(#毎週ショートショートnote)

          アメリカ製保健室(#毎週ショートショートnote)

          20●●年 体育の時間にけがをした生徒が保健室で手当てを受けながら保健室での会話 A:3年前に○○市にできた新しい高校はアメリカ製らしいぞ B:それはインターナショナルスクールってこと? A:いや違う、設備や教室、体育館、全てがアメリカ製らしいんだ、 教育方針もアメリカナイズされていて、将来の一攫千金を夢見て、 多くの学生が門をたたいているらしい B:へぇ~ A:ITもスポーツの教育も盛んで億万長者になった卒業生や メジャーリーガーやバスケの選手になった卒業生もいる

          アメリカ製保健室(#毎週ショートショートnote)

          ドローンの課長(#毎週ショートショートnote)

           テクノロジーの世界にも年故序列があるらしい。  1月からドローンが課長に昇進した。  社長はガラケー、専務にはスマホ、部長にはエコカーがそれぞれ就任した。  それでもドローンは誕生から管理職就任まで異例の早さと言われていた。  しかし、物事を俯瞰できる能力を持っているうえに、モノを運ぶことのできる機動性などを高く評価されてのことであったと言われている。  とは言えども20世紀に誕生したガラケーが社長に君臨していることに間違いはない。  「ドローン君、課長就任おめでとう

          ドローンの課長(#毎週ショートショートnote)

          会員制の粉雪(#毎週ショートショートnote)

           「クラブ雪(会員制)」  一代で身を興した成功者で、既存会員2名以上の紹介がないと入れないといわれるクラブ。このクラブの会員になると一生成功者であり続けることができるといわれている。   今日が俺の「クラブ雪」デビューの日だ。  生まれも貧しかったし、これまで苦しかった。やっと気合と根性でここまで来た。俺も一流の仲間入りだ。  いよいよクラブ雪の扉を開ける。  粉雪がパラパラ待っている。何故だ?屋内なのに、何かの演出か?  あれっ、畳に小さなこたつ?  これは小さい頃の

          会員制の粉雪(#毎週ショートショートnote)

          夜光おみくじ(#毎週ショートショートnote)

           事業を興して3年、全くうまくいかない。借金も返済の目処がつかない。この状態で年を越せたというのか、いや一般的には言わないであろう。  年末も会社に泊まり込み。この仕事が本当に金になるかわからない。3月までに動きがなければ、倒産かな?  元旦らしく雪が降ってきた。近くの神社に初詣とするか。 雪か降っているせいか、初詣の参拝客がいない。 ポケットに入っていた5円、賽銭箱に押し込んだ。今年はいい年でありますように。 振り返るとお守りを売っているテントに隅に「おみくじ無料」

          夜光おみくじ(#毎週ショートショートnote)

          台にアニバーサリー(#毎週ショートショートnote)

           1学年後輩のアイツはいつも表彰台で輝いていた。  練習している姿はほとんど見かけなかった、大会になるといつもずば抜けた演技で衆目を集め、颯爽と表彰台に登る。  それに比べ、オレはいくら居残り練習をしても表彰台にはかすりもしなかった。  最後の大会もいつも通りに終わった。今日でオレら3年は引退し、受験勉強に追われる日々になる。  「努力は報われる」それが嘘であったことを証明したような2年半だった。まあ、世の中は才能ということを示した2年半、それもまた良し。  ロッカーを

          台にアニバーサリー(#毎週ショートショートnote)

          白骨化スマホ(#毎週ショートショートnote)

          「デカ長、お疲れ様です」 若い刑事は、デカ長が現場に到着すると浅く敬礼し、黄色い規制線を上げた。 「マルガイは白骨化しているのか」 「はい、最後のシャットダウンから、半年は経過しているものと思われます」 全員で一度手を合わせてから、若い刑事が白い布をめくった。 「また、AI搭載型か、ここのところ続いているな」 「デカ長、やはりAI部分だけ取り去れていています」 「今月、うちの管内でこの手のマルガイは13台目です」 「スマホにAIが搭載されてから、そのAIに恋してしまう

          白骨化スマホ(#毎週ショートショートnote)

          助手席の異世界転生#毎週ショートショートnote

          君が助手席にいないクルマを運転してもう5年がたった。 服装もスカートからパンツスタイルが多くなっても「乗り降りに便利なクルマがいい」と譲らなかった君。 クルマの中ではいつもビートルズを流していた。 「A Hard Day‘s Nightの邦題が何でビートルズがやってくるヤァヤァヤァなの?」といつも文句を言っていた君。 君がいないから、今日はラジオを流しているよ。  「それでは最後の曲は、往年の名曲「Let It Be」、それではまた来週」 ラジオからは君の好きだった「

          助手席の異世界転生#毎週ショートショートnote

          強すぎる数え歌(#毎週ショートショートnote)

           営業店での頑張りを認められた僕は今日から本社人事部の配属となった。主に採用を担当しているが、ブラックな営業店とは大違いだ。特に畑次長は毎日机に座り、パソコンを眺めながら何かつぶやいているだけ。どんな仕事かわからないが、当社には相当稀有な存在だ。  営業店では相も変わらずブラックな指導が相次ぎ、会社も世の中の変化に合わせて「内部通報制度」が作られた。これは人事部員でもどのような運用がなされているのかわからない。    突然東京支店の五十嵐部長の転勤が発令された。以前から普段

          強すぎる数え歌(#毎週ショートショートnote)

          ごはん杖(#毎週ショートショートnote)

           2100年、日本は全人口の5割以上が70歳以上という超高齢化社会を迎えていた。それに伴い、身寄りのない高齢者による交通事故や凶悪犯罪が増えていた。この問題は「暴れる高齢者問題」と名付けられ、大きな政治課題となっていた。 「総理、年金の財源については増税でなんとか凌ぐことができましたが、“暴れる高齢者問題”はどのようにして解決しましょう?」 「私も頭が痛いところだよ」 「90年ほど前に民間で“こども食堂”というサービスがあり、孤食に悩む子供や収入の少ない家庭を助けたとい

          ごはん杖(#毎週ショートショートnote)

          親切な暗殺#毎週ショートショートnote

           21××年、地球上のとある国では高齢化社会に悩まされていた。65歳以上の人口が全人類の70%を超え、働き手は少なくなり、医療費や社会保障費が足りなくなり、国自体が存亡の危機に晒されていた。 「大統領、高齢化問題ですが、どのように対応しましょう。このままでは国家が破産してしまいます。何か早急に手を打たないと・・・」 「大統領補佐官、賢者は歴史に学ぶというだろう。よく考えたまえ。それが君の仕事であろう」 「社会保障費を上げましょうか?」 「何をいっている。それでは選挙に

          親切な暗殺#毎週ショートショートnote

          忍者ラブレター(#毎週ショートショートnote)

           積みあがった仕事関係の本を整理していると、その中に村上春樹。そうだ、高校時代に佳奈からもらった本。村上春樹が大好きだったんだよな。結局読まなかったけど。  高校時代、佳奈とはいつも一緒にいた。  佳奈は地元の医大、俺は東京の大学を目指し、毎日二人は図書館にいた。付き合っているというよりライバルであり、親友。でも本当は好きだったし、図書館以外にもいろんなところに行きたかった。  緑色のカバーの本を手にとり、めくってみた。 パラッ。 本の間から栞が落ちた。本を買うときに

          忍者ラブレター(#毎週ショートショートnote)