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その06 発酵させているのはパンだけじゃない?人と人が生み出す化学反応

【龍崎翔子と巡る『魔女活の旅』】ホテルプロデューサーの龍崎翔子さんは、上川町層雲峡の『HOTEL KUMOI』のリブランディングを機に自然の材料から衣食住アイテムをDIYする「魔女活」に没頭。このマガジンは、そんな龍崎さんが暮らしをアップデートするヒントを求め巡る「魔女活」の記録です。

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宗像誉支夫さん/宗像堂/酵母パン

地元の素材で作った天然酵母で、おいしいパンを焼く。沖縄では知る人ぞ知るパン工房『宗像堂』の店主 宗像誉支夫さんは、もとは微生物学の研究者であり、その後、陶芸家を経て現在の仕事に就いたのだとか。そんな彼にとって「楽しいことがすべて入っている」というパン作りの世界とはどのようなものなのか。龍崎さんとも意外なところでシンクロした、その独自の思想とは。

楽しいことが、全部ある。微生物にハマり、陶芸にハマり、気づいたらパン屋に。

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龍崎: どういった経緯でパン屋さんをやっているんですか?

宗像: 僕、沖縄にきて25年なんですけれど、最初は大学院で微生物を扱う研究生として来て、そのあと研究所にも勤めたんですけれども、ちょっとやりすぎて体調壊したりして、何しようかなっていうときに陶芸家の先生に拾ってもらって、3年間陶芸もやって。陶芸は、自分の作りたいものと作らせてもらってるもののギャップに悩んでるうちに喘息になっちゃったりして。

龍崎: なんというか、すごく集中してのめり込むタイプなんですね。

宗像: のめり込みすぎちゃうんです。で、困ってるときにたまたま知り合いが奈良の「パンを焼くお坊さん」を連れてきて、「お前食えてないらしいな。これで食え」って言われて。パンのワークショップに呼ばれて、その時は「陶器は焼く気あるけどパンはないわ」と思ってスルーしてたんですが(笑)、一回復習してみたら「こんなうまかったっけ?」って。で、2回目、3回目と自分でやってみて。そしたら「うーん…これ食べたい人いるんじゃないの?」って。それで、一緒にワークショップに参加した方々に作って持って行ったら、買ってくれて。という感じでいきなり始まりました。

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龍崎: 微生物を研究されていたのと、窯元でお勤めになってたっていうのというのがフュージョンしたんですね。

宗像: こねるのも楽しいし、発酵を観察するのも楽しいし、パン作りは楽しいことが全部入ってる。子どものときは粘土細工とか絵を描くのとかがすごい好きだったので。時間がなくなる感覚みたいなのがたまらなくて。

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龍崎:材料となる小麦はどのようなものを使われているんですか?

宗像:今は沖縄と九州産の小麦が多いんですけど、麦を自分で作ろうと思って育て始めています。せっかく育てたのに鳥に襲われて、3トン収穫する予定が2トン食べられたりして。で、「俺ら鳥の餌作ってんのか?」みたいにやる気が続かなくなったときに、知り合いの先輩農家に、鳥が食べない品種はないか相談して、そういう品種を作っている研究者の方に種を分けてもらったり。

龍崎:その育成に挑戦しているという日々なんですね。

宗像:今の品種っていうのは、6,000年くらいかけて加工しやすいように改良されてるんですよ。本来は中身を出すのは難しくて、エジプトの壁画とかでずっとつついて中身を出すみたいなのあるじゃないですか。だから鳥が簡単に食べれなくて。最近論文で発表されたんですけど、化石で炭化したパンのかけらが出てきて。それが1万6,800年前。その時代から小麦を平石で挽いて、こねて、焼くっていうプロセスをしていたってすごくないですか?

龍崎:すごい。

宗像:何をいまさらグルテンフリーとか言ってやがるんだみたいな(笑)。遺跡に残っているのはたまたまその年代だけど、もっと前からされている可能性もある。

龍崎: たしかに、その時点でだいぶ洗練されてる。

人と土地との出会いで生まれる発酵がある。

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龍崎:ところで、「発酵研究所」と名乗られていると思うんですが、どういう研究をされていらっしゃるんですか?

宗像:元々は今100歳超えたお医者さんが東洋医学研究で使っていた建物なんですけど、それを譲り受けて、どういう使い方をしたらいいかってなったときに、こもって研究して何かを発見する場所じゃなくて、色んな地域の人と知り合えて、その人と沖縄が出会う場所にしたいなと思って。その人たちと出会ったことによって新しい発酵の仕方が生まれたりだとか。

龍崎:ソーシャルイノベーションラボみたいな感じですね。

宗像:そうそう。オープンで、人が出入りして、化学反応が生まれて、という。まずはそういう出会いとアイデアとかが生まれる場所になったらいいかなって。

龍崎:酵素ジュースみたいなのを中で作られていて。

宗像:あぁ、あります。海外アーティストのごはんを長く作っていた友人がいて、彼女のレシピで沖縄の素材を発酵させてみたこともあります。いろんな出会いで新しいものが生まれていくベースみたいなものを僕らは整えたら良いのかなと。

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▲ニンジンやリンゴなどを混ぜ合わせて作った自家製酵母

龍崎:たしかに。パンってコラボレーションの余白がすごく大きいですよね。

宗像:何かを真似ることで出来上がる世界というよりは、地面から生えているようなものづくりの方が地域色があっておもしろいのかなって。そういう意味で麦の育成もやってみたり。固有種とか在来種って言われているやつを100年かけて作るとか、日本の端っこの沖縄でそういうのをやり続けていたら面白いかなって。

窯とパンと自分。生き物どうしが対峙するから、毎回違って面白い。

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龍崎:窯はどういう工夫がなされているんですか?

宗像:窯は自家製です。適度に保温してきちんと熱が抜ける、パンに一番いい状態が長く続くようにと思って素材の組み合わせと厚み、高さを工夫しています。素材は、沖縄の赤土や白砂、あと酵母も練り込んでいます。

龍崎:酵母が混ざっているのがすごく面白いなって思ったんですけど、どうやって入れるんですか?

宗像:普通に赤土を混ぜているところにドボドボドボって。水と一緒に。窯と生地とが共鳴するっていうのを大切に考えていて。そうすると新しいエネルギーが起きるというか。もっと言うと、僕と窯と生地の中間点をつかまえると、本当に生き物みたいに輝く瞬間があって。内側から光るんです。それっていうのは、何にも代え難い。

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龍崎:人間とも共鳴するんですか?

宗像:自分が入っていない現象っていうのは基本つまらなくて。自然現象に自分がどう介しているのか、どうやって関係性を変えていったりするのかっていう視点が大事だなと思っています。たまたま著名なカメラマンさんと話した時に、その人の写真も「つかまえに行く」、みたいな感覚だと言っていて。生け捕りっていう表現かな。やっぱり何か宿っているんですよ。そういうものに価値があると思っていて。

龍崎:その感覚はわかります。ホテルやってても、その時どんなお客さまがいるかとか、スタッフが誰だとか、それによって空間の空気が全然違うんですよね。そのすべてが気持ちよくハマった時、空間全体が生きているような感覚になります。

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宗像:宗像堂っていうものも生き物だし、生き物としてどうあるかっていう考え方の方が生き残るのかなと。共同体としての意識というのが、チームにきちんと存在すれば、ずっと輝き続けるだろうし。それは今とても強く思った。

龍崎:共感できます。ホテルも生き物だとすれば、そのバイオリズムを捉えて、良い方向に導いていくために、働き手としてできることをコントロールしていくっていうのが、自分たちの仕事なんだなって思います。

宗像:パン作りとか発酵って、生き物に対して、手先とか指先とかの感覚で、自分で見極めて判断して責任取るっていうプロセスだと思うんですけど、発酵にみんなが惹かれるっていうのはそういうところなのかなって思います。

世界が広がった

龍崎:私はパンが輝く瞬間を見てもわからないかもしれないけど、自分のホテルが輝く瞬間はわかるし、今回宗像さんの見ている世界を知ろうと思えたことで自分の世界が広がった感覚がありました。


感受性を研ぎ澄ませ、のめり込めば、世界がまるで生き物のように見えてくる。そんな対象物を慈しむ気持ちにこそ、魔女活の極意があるのかもしれない。

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■宗像堂
全国的にファンも多い天然酵母パンの店。パンの販売だけでなく、併設する「宗像発酵研究所」を通して、発酵にまつわるさまざまな活動をしている。
HP https://www.munakatado.com
INSTAGRAM https://www.instagram.com/munakatado/

coordinate & photo セソコマサユキ

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