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その10 美しい作品が、何かの犠牲の上にあるとしたら。

【龍崎翔子と巡る『魔女活の旅』】ホテルプロデューサーの龍崎翔子さんは、上川町層雲峡の『HOTEL KUMOI』のリブランディングを機に自然の材料から衣食住アイテムをDIYする「魔女活」に没頭。このマガジンは、そんな龍崎さんが暮らしをアップデートするヒントを求め巡る「魔女活」の記録です。

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早瀬泉さん/亞人/藍染め

ファッション業界はその華やかな見た目とは裏腹に、近年、環境問題とのつながりが取り上げられている。衣服においてデザインは重要な役割を持つが、でももし、その見た目の美しさのために、何か犠牲を伴っているとしたら…?今回訪れた「亞人」で、龍崎さんはそんな疑問と対面することになる。ジャパンブルーと呼ばれて多くの人を魅了する藍色は、沖縄でも伝統的な染色に欠かせない色の一つ。亞人のオーナー早瀬さんは、原料となる琉球藍の栽培から作品作りまで、すべて自分の手で行い、自分のことも誰かのことも傷つけたくないという優しい気持ちで藍染めを行っている。彼女の思いや考え方に触れて、龍崎さんは何を感じるのだろうか?

農業×ビジュアル的アウトプット=藍染め

龍崎:どのような経緯で藍染めを始めたんですか?

早瀬:4年くらい前、ここより都会の那覇にいたんです。でも、元々両親が有機農業をやっていたこともあって、「やっぱり農業やりたいなぁ」っていうのがあって。それから、以前はバンドTシャツのデザインをする仕事なんかもしていたので、ビジュアル的なアウトプットもしたいって欲もあったんです。そのふたつが両方叶うのが藍染めだった。それで、知り合いに藍染めの原料となる琉球藍の株を分けてもらって、教わりながら始めました。

龍崎:この辺にも藍の畑があるんですか?

早瀬:そうですね。そこを降りたところに300坪…少し縮小したから200坪くらいかな。その畑を管理しながら回しています。

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龍崎:200坪の藍って相当な量になりませんか?

早瀬:総量の15%くらいが染料のもとになるから、大体このサイズの藍甕(あいがめ)を管理するのに染料の素が30㎏くらい必要で。それを作るためには藍の葉が160㎏くらい必要だから、ある程度広くないと無理なんです。

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龍崎:この中に入っている藍の素ってどんなものなんですか?

早瀬:泥藍(どろあい)っていって、ヨーグルトみたいなペースト状のもの。藍の葉を水につけ込んで色素の成分が水に溶け出たところに、石灰を加えて色素を水に溶けないように沈殿させます。(その沈殿物を濾したものが泥藍)その後の工程は藍を「建てる」っていうんですけど。木の灰汁なんかを入れて、泥藍に入っている菌が好きなpH11~12くらいにしてあげるんです。そしたら発酵して大体1週間くらいで染められる体制が整います。菌なので、あったかい時しか活動しないんですが。

龍崎:今だとちょっと寒いですか?

早瀬:ここがギリギリ。朝、調子見たら大丈夫だったから。

龍崎:今朝、「藍が元気だからいけそう」って聞きました。

早瀬:そうそう。どっちかっていうと、藍の菌が元気。

龍崎:元気じゃないなっていう時はどう違うんですか?

早瀬:なんか、シーンとしてる。見た目で何となく分かる。元気だったらブクブクしたり、藍の表面がちょっとクリアだったりする。

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龍崎:昨日ちょっとあったかかったのも効いてるんですか?

早瀬:あったかいのが3日くらい続いてくれたら大丈夫かな。去年は藍甕のまわりにお湯を張ったり、熱帯魚用の水を温めるやつを入れたりしたんですけど、やっぱり人間が無理やり頑張って水温24度にするのと、気温で水温24度にするのとは元気度合いが違う。

龍崎:藍自体ともコミュニケーションしてるし、藍のペーストともコミュニケーションしてるんですね。

染めは瞑想状態に似ている。

早瀬:藍って染み込んでいるのではなくて付着しているので、こうやって板とかで挟んだらこっちは付着できない。その原理を利用したのが板締め絞りっていうものです。1回も藍に触れていない部分は真っ白で、2回触れた部分は濃く、1回触れた部分は薄くっていう感じですね。丸とか四角とか三角とかを利用して、自分の中で作図しながらやるんです。

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龍崎:なるほど。綺麗に折らずにやるのもありですか?

早瀬:はい。切絵と同じで、どうあがいても大体可愛くなるから。

龍崎:うーん…何となくイメージはできてきた。グラデーションにしたいんですけど。こっちを濃く、こっちを薄く。できれば白に近い感じにもできますか?

早瀬:もちろん。白があったら藍が対比で濃く見えたりするので。人によってはほとんど白にして藍をちょこちょこ、っていうデザインも。

龍崎:へー、そうなんですね。

早瀬:そしたらこれを、まずは水に浸けて。そして染めていきます。今日は3回くらい繰り返しましょうか。水中ではひたすら本のページをめくるようにやっていく感じです。3分くらいやりましょうか。

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龍崎:1回3分くらいでいいんですね?

早瀬:そうですね。特に考えることもなく黙々とやるので、決めた方が気持ちが楽。だから大体3分って決めています。

龍崎:瞑想状態だ。

早瀬:そうそう。

龍崎:毎度毎度、一つ作るのに結構かかりますよね。

早瀬:そうですね。すっごい濃紺にするときは18回とか。3分浸けて、酸化させてっていうのを1セットとしてそれを18回。

龍崎:でも1回は3分なんだ。

早瀬:染料に浸けて、酸化させて、っていう工程で膜ができていくので、何回も回数を重ねた方が色が濃くなるから、一回を長くするよりもいいんです。

龍崎:3回目、できました。このあとはどうしたらいいですか?

早瀬:しばらくお水で洗って、最後にちょっとお酢を付けて中和させます。5分くらいかな。そうすると色落ちがしにくくなるんです。

布を買うという罪悪感

龍崎:今日は手ぬぐいを染めさせてもらいましたが、普段はどんなものを作っているんですか?

早瀬:ほとんど家の中のものです。心が安定できるものを作っていたら、大体家の中のものに。

龍崎:具体的にどういう?

早瀬:小物入れとか、小箱とか。商品はセレクトショップに置かせてもらうこともあるんですけど、ビビリなのでクレームとかがこないやつがいいなと思って。布製品だと長時間置いていたら色が変わることもありますし。Tシャツとかは多分ハンガーにかけていたら肩の部分だけ太陽焼けをして美しくないし。だから心の健康を保てて、心地よく仕事できるかということを考えて作った結果、家の中のものになりました。最近は布を買う罪悪感があって。染められるものって身の回りにいっぱいあるはずなのに、それに目を向けていなかったなって気づいたんです。

龍崎:布だと心が痛むって何となく分かるんですけど、具体的にどういうところなんでしょう?

早瀬:例えばバイヤーさんから買っているインドのカディーって、手紡ぎ・手織りの布なんですけど、最近は農薬が散布された綿がほとんどで品質が落ちてしまっているみたい。そうしてでも布を作り続けないと供給が追いつかなくなっているらしくて。それを聞いて、私自身、無農薬・無化学肥料と謳っているのに自分だけ上澄み吸って何やってるんだろうって、心が痛い。だからできることから、脱・綿。

龍崎:なるほど。

早瀬:言っている事と、やっている事の筋をなるべく通したくて、ゆくゆくは布ものを卒業できたらいいなって思っています。

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ビジネスにも心身にも責任を持つ

龍崎:早瀬さんは、自分の作品を作るというある意味エゴなことのために、誰かが犠牲になるのをあまり良しとしないという価値観を持っていらっしゃる。それを事業の中で上手く実行されているのがすごいですよね。あと、いかに自分の心をヘルシーに保つかっていうハンドリングがすごい。日本人が軽視しがちな、ビジネスをやっているときの自分のストレス度合いを見積もった上で判断されています。難しいけれど、自分が気持ちよく生きていくっていうのをちゃんとベースに置いていきたいですね。


心も体もヘルシーにビジネスをすることに、売り手も買い手も共感する。そんな一つ上のビジネスが、これからのあるべき姿なのかもしれない。

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▲完成した染め物は京都出身の龍崎さんらしく、「新選組」モチーフの仕上がり。

■亞人
沖縄県今帰仁村で無農薬•無化学肥料で琉球藍を栽培、製藍、製品化まで一貫して行う。
INSTAGRAM https://www.instagram.com/ajin.ryukyuindigo/

coordinate & photo セソコマサユキ


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