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その09 おばあの料理が、目指すべき未来になったその理由。

【龍崎翔子と巡る『魔女活の旅』】ホテルプロデューサーの龍崎翔子さんは、上川町層雲峡の『HOTEL KUMOI』のリブランディングを機に自然の材料から衣食住アイテムをDIYする「魔女活」に没頭。このマガジンは、そんな龍崎さんが暮らしをアップデートするヒントを求め巡る「魔女活」の記録です。

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金城笑子さん/笑味の店/沖縄郷土料理

近年、スローフードやマクロビオティック、地産地消などの言葉はあたりまえのようによく耳にするようになった。その影響か、今注目を集めているレストランが沖縄県の大宜味村にある。店の名前は「笑味の店」。30年以上前から、地元の野菜をふんだんに使った沖縄料理を提供している。ジャンクフードや華やかなスイーツなど、食べ物にも刺激を求める若者たちも魅了するようになったその料理にはどのような仕組みがあるのだろうか?どのような思いで店を始め、続けているのか、「笑味の店」店主の金城笑子さんに話を聞いた。

店の前に広がる畑は、天然の野菜室。

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▲店の入口から見た畑。使いたい野菜をすぐに収穫できる。

龍崎:この畑ではどんなものを?

金城:適当に植えてるの。ここはニンジンとか、サラダ菜とか、イーチョーバ(ういきょう)とか、そういうのが植えられています。これはコリアンダー、パクチーとも言うね。好きだから。

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龍崎:これは何ですか?

金城:これはギシギシっていって、雑草だけど、料理の仕方によってはおいしく食べられる。

龍崎:あれ、これはヨモギ?

金城:そうそう。

龍崎:植えていない場所にもめっちゃいろんな野菜がある!しかも育ってる。

金城:いろいろあるよ。これはブロッコリーね。

龍崎:ブロッコリー大好き。これが大きくなるんですね?

金城:枝ブロッコリーといって、スティック状に育ったもの。だから大きくなる品種とは違う。何でこれを植えたかって、小鉢に盛り付けがしやすいから。

龍崎:たしかに、手間省けますね。意外と合理的なことなんですね。

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金城:これはセロリ。ほら、これ食べた方がいいよ。

龍崎:あ、ほんとに甘いです!セロリ嫌いの人も、克服できそう。

金城:玉ねぎも小さいうちから収穫できるの。新玉ねぎはみずみずしくてクセがないので結構おいしいよ。

龍崎:スーパーに行って野菜を買うことはもうないですか?

金城:あんまり行かないね。その代わりに畑に来るの。

野菜を買うより、畑を持つことが大事。

龍崎:どうして自前の畑で野菜を育てようと思ったんですか?

金城:私はここに嫁いできたんだけれど、元々公務員で名護市に通っていたのね。昼間はずっと働いているから畑とは縁がなくて。この辺りには共同売店があるんだけれど、そこには1年を通して玉ねぎとニンジンとジャガイモしか売ってないの。それ以外の季節野菜はみんな、自分たちの菜園で作ってるの。私は名護からわざわざ買ってこないと料理ができないっていう状態。でも、地元のおばあちゃんたちは自分たちで作ったものを食べてあんなに元気じゃないですか。そこではっと、自分も畑がないとだめだよねと。それで畑を分けて使わせてもらって育てたのが始まり。それが楽しくなって、もうやめられない。だからこんなに。

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龍崎:でも、何でこんなにたくさんの種類を植えたんですか?沖縄の伝統料理を残そうという思いもあったんですか?

金城:料理の材料を育てようと思ってやっていた家庭菜園が広がっていったの。最初はおばあちゃんたちに野菜をもらっていたけれど、それでは長続きしないから買おうと思って。でもお店にはなくて、どこどこのおばあのところにしかないの。それで、おばあと交渉して分けてもらって、あとは自分で育てるようになった。

龍崎:いろんなおばあから、いろんな野菜を集めたんですね。

金城:そう。最後は行きついたって感じ。今でもなるべくおじいちゃんやおばあちゃんと野菜をやりとりするようにしてる。そのうちに、どのおばあちゃんがどの野菜を育てているのか分かるようになったよ。それから、なるべく話もするようにしているの。たまに長生きの秘訣みたいなものも教えてもらえて、そこで自分の課題が見つかったりするの。伝統野菜も自分で育ててみると話しが通じるところがあるのでね。

龍崎:野菜を売ってくださいっていう人とかいるんですか?

金城:最近一人いたね。売る野菜はないから、畑から自分で好きなもの採って行ってよって。

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自分が魅せられた畑の野菜を途絶えさせたくない。

龍崎:いつ頃からこのお店を始めていらっしゃるんですか?

金城:平成2年ですね。きっかけは、おばあちゃんたちの食事の中にある食材。ここに嫁いだ時に、町ではあまり店に並ばないものがおばあちゃんたちの食卓に並んでいて、それに魅せられた。この食材はこれからどうなるのかな、おばあちゃんたちの代で終わってしまうのかなと思ったら、もったいなくて。私は大学で栄養学も学んでいたし、自分が野菜を育ててレストランで使えば、ちょっとは波及させられるかなと思ったんです。

龍崎:はじめから、おばあたちが昔から作っているような料理を出しているんですか?

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金城:最初は自分が楽しんでいける食堂をしようと思ったの。でも、このままでは伝統野菜が埋もれていってしまうという危機感を感じたんです。それで、伝統野菜を使って料理を作るという風に工夫して。工夫する楽しみと食べる楽しみを入れて食堂経営をしてきました。

龍崎:地元のおばあたちも食べに来てくれたんですか?

金城:来てくれました。集落で唯一のレストランだし、特別な日の料理も注文をしてくれる。でもおばあたちにとっては、畑と仲良くしながら台所と畑がつながる生活は日常茶飯事じゃないですか。あえてお金を出してまで食べたいレストランとなると、普段自分たちが食べていないものを食べたいわけね。最初はそこでちょっとズレがあったんだけれど、おばあたちのリクエストを聞いて、肉を入れたり、豆腐を入れたり、要望に合わせながらやっていました。

30年経った今、夢見たことが現実になった。

龍崎:今、東京とかでは、体にいいからって理由でそういう野菜中心の料理を食べ始めている人もいるんです。

金城:もうね、最近は感じが変わったよ。私の一番の目標は、若い世代が料理を食べに来てくれること。それを30年夢見てきたの。店を始めた当初は、本土や那覇なんかに暮らす人が「懐かしい味だね」っていってきてくれた。ところが今は全然変わったの。昨日は大学生のお兄ちゃんたちが4名来た。本土の大学生だってね。女の子も男の子も、こういう料理を見て、食べる前から「わぁ!わぁ!」って。

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龍崎:かなり「わぁ!」ってなりますよね。色とりどりだし、品数もいっぱいあるし。

金城:この「わぁ!」が嬉しくてね。最初は量が多くて言ってるのかなと予想したんだけれど、おいしそうの「わぁ!」が多いみたい。外国のお客さんは食器も楽しんでくれている。出発点では60代の人が懐かしい味って認めてくれる味だったのが、今は若い人が喜んでくれている。自分が夢見ていたことが現実になっている嬉しさを噛みしめています。

龍崎:若い人たちも、沖縄料理自体を食べる機会はあっても、結構定番化しているじゃないですか。本当に地元の人たちが昔から食べてきた料理を食べる機会ってほとんどないと思うから、沖縄の決して観光地ではないこの町まで来て、それを食べられるってすごい価値なんだろうな。

金城:最初はやっぱり心配だった。学校給食で市場に出回ってない野菜を大量に入手するところから課題があったから。だから出発点では、本当にお店が自分の思うような動きをしてくれるのか心配ではありました。だけど今は、自分の進む方向に世の中がついてきたのかなって。変な言い方だけど。

龍崎:いやいや、最先端ですよ。

金城:変な言い方よ、本当に。だけどそんな気持ちがね、だんだんしてきたわけ。振り返ってみても、あの当時こんなお店をやっている人は少なかった。でも、スローフードや地産地消が流行ったりしているのを耳にして、世の中は自分が目指しているところに向かっているのかなって感触はあったよ。それで前向きに進んでこられた。ここに来てヤングが来るから、もう嬉しいですね。もっと先まで頑張って、若い人につなげたいと思いますね。

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一時的ではなく、永続的な楽しみを提供したい

龍崎:笑子さんのお話を聞いて、今の若い世代の人がジャンクフードを食べていることの意味がすごく分かりました。自分が食べているものへの関心も低いし、そもそも自分で作れるものじゃない、買う物だって思っているなというところに気づかされました。与えられるのを待っているんですよね。ホテルクモイも例外ではなくって。お金を払って与えられる楽しみは一時的でしかないからこそ、作る側にまわることって大切ですよね。そういうニーズを満たすためにも、クモイの屋上でハーブとか育てたいなぁ。


食の本質はDIYにあると、感度の高い人たちを中心に世の中がますます気づき始めているのかもしれない。

■笑味の店
大宜味村の旬の野菜が美味しい「まかちくみそーれ」定食が人気のやさしいご飯の店。
HP https://eminomise.com

coordinate & photo セソコマサユキ

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