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スコットランド日和⑧ コミュニティのためのチャリティ・コンサート

 スコットランドのエジンバラで研究生活を送っている阿比留久美さん(早稲田大学、「子どものための居場所論」)の現地レポートを連載します(月2回程度の更新予定)。
 ★「子どものための居場所論」note はこちらから読めます。
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  12月になってクリスマスシーズンに入ると、街全体が浮き立つような雰囲気になってきます。色々なところでさまざまなかたちのイベントをやっていて、わたしもボランティア先のシタデルユースセンターのクリスマスのチャリティ・コンサートに行ってきました。

クリスマスマーケットの様子(エジンバラ、2023年12月)

 チャリティ・コンサートは、ここ数年このコンサートでピアノを演奏してくれているボランティアの若者と、地域の中高年のコーラスグループの人たちの演目が中心になっていました。ピアノを弾いた若者は、本当にたくさんのクリスマス・ソングを弾いてくれて、しかも途中でクリスマス・ソングをみんなで歌いながらちょっとしたゲームをしてくれて、八面六臂の大活躍でした。途中でピアノとクラリネットのセッションがあったり、コーラスの指揮をするプロのシンガーの人の演奏があったりして、このコンサートに(そしてふだんのユースセンターのかかわりの中に)いろんな人がかかわっていることが伝わってきました。

 日本でチャリティ・コンサートというと、寄付を募ってお金を集めるのだから、ということで、プロやセミプロの人のコンサートのようなものを想像してしまいます。一方、このユースセンターのチャリティ・コンサートでは、ピアノではつまづいたり間違うこともあったり、コーラスグループの人たちの歌は自由奔放で、プロの演奏という感じではありませんでした。

 ピアノの曲も、コーラスで歌う曲も、クリスマス・ソングだけでなく、自分たちの好きな歌も(たぶん)選曲していたようです。コーラスグループの人たちはBette Midlerの「The rose」を歌っていたのですが、わたしはそれを聴いていてとても心が動かされました。メロディも素敵ですが、歌詞も人をエンパワーしてくれる「The rose」は、コーラスグループの人たちにとって大切な曲だったから、聴く人の心を動かしたのではないかな、という気がします。

移動式の遊園地やツリー、クリスマスマーケットで
街中がクリスマスムードになる(エジンバラ、2023年12月)

 コンサートには地域のユースセンターを応援している人たちがやってきて、ノンアルコールのマルドワインやホットチョコレートを飲んだり、クリスマスのフルーツケーキやミンスパイを食べたりと、コンサートがクリスマスを一緒にみんなで祝う機会にもなっていて、地域の人たちの日常に花を添えてくれるイベントになっていました。

 スタッフと一緒に地域の人や若者が、ボランティアとして、受付や音響や飲食コーナーや販売を担当しているのですが、ボランティアはコンサートをサポートしているだけでなく、同時に、ボランティアをすることで社会にコミットして、感謝される出番を獲得していました。(特に、音響を担当していて、舞台の前方でパソコンを操作していた若者はとても嬉しそうでした)
地域の人は寄付をしてユースセンターを支えると同時に、チャリティ・コンサートに来ることで知り合いと会ったり、クリスマスのイベントに参加する機会をもつことができますし、ボランティアはイベントを手伝うことで、自分がかかわり、活躍する場所をみつけることができます。誰もが、ユースセンターのためだけにやっているのではなく、自分たちも楽しみながら、場がつくっている空気感に、わたしはとても幸せな気持ちになりました。

 日本の子どもや若者関係の活動や地域の活動では、子どもや若者の発表会だと無料か定額(かつ低額)のチケット制であることが多いですし、チャリティ・コンサートとなったらセミプロかプロの人を呼んでやらないといけないような雰囲気を感じます。

 でも、「チャリティ」であり、地域の人たちが集うことが目的だとしたら、プロのような演奏である必要はないんですよね……。それに運営側の指定した金額ではなく、好きな額を支払ってもらうのでもいいのだということを、シタデルのチャリティ・コンサートに参加して気づきました。

 イベントを支える人にとっても無理のないかたちで、互いを支え合えるような、そんなやり方や仕組みを共有していけたらいいなと思います。

阿比留久美『子どものための居場所論』
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