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四国とスペインの巡礼日記 <四国四章> ② ぽかぽか陽気のダブル迷子

第四章 四国遍路 涅槃の道場 2002年3月
第二話
「煩悩アリ」「ぽかぽか陽気のダブル迷子」「同じ道を歩いている」

人間が一人では受け止められない事を、大自然は黙って包み込んでくれる。川がそれを流してくれる、潮騒がそれをかき消してくれる、山がそれを受け止めてくれる。そういうことが本当にあることを遍路道で会った方々が自らの体験を通して教えてくれた。一人の人間として自分の小ささと弱さを心底知っている人が本当に大きな人に見えたなぁ。

3月9日
 川の流れる音が聞こえる山道で、落ち葉が蜘蛛の糸に引っかかりクルクルと宙を舞っていた。そんなことがとっても愛おしく思えるのが不思議に感じられた。

 かっぱ道場という所を訪ねて坐禅を組ませて頂いた。四国遍路をして何か違った気持ちで組めるかと思っていたが、なんのことはない眠くなって20分くらいでやめた。

 この日の夜は善根宿を始めたばかりだというYさん宅へお世話になった。夕食とお風呂を頂き奥さんと話しをした。まず僕が遍路道中で会った不思議な人達の話をした後、奥さんがポツリポツリと亡くなった娘さんのことを話し始めた。

 Yさんの娘さんは4年前、24歳の時に癌の告知を受け、あっという間に亡くなったのだという。高校時代の一時期アメリカへ留学し、帰国後受験勉強の遅れを取り戻し志望校に入学、卒業後は金融の会社に入った。次のステップとして英語の先生になろうとしていた矢先のことだったという。

 天井をみつめながら「私の人生なんだったんだろう」とつぶやく娘に何もしれあげられない苦しみ。互いにイラついて喧嘩になったこともある。 でも日常の中の、朝起きて「おはよう」、夜寝る時の「おやすみ」、そんな当たり前のことが本当に幸せだった。

 Yさんご夫婦は、二人で車遍路を続けていた。人の言葉でなく、遍路道の風景、道端の草花に励まされて、少しずつ自分達の体験を整理している。

3月10日
 早起き宣言をしていたけれど、布団の心地が良くて9時過ぎまで寝てしまった。手作りのパンとコーヒーを頂き、なんだか久しぶりの休日の朝モード。お仏壇に般若心経を上げさせて頂き、出発した。

源平合戦の舞台だとかいう台形の山に向かって歩いた。途中迷って、おばあちゃんに道を聞いたら、なんとおばあちゃんも迷い中だと言う。一緒に「ここどこだろうね~」と。おばあちゃんは自分の住所も電話番号も分からないらしい。いや~、困った。おばあちゃんの記憶と僕の地図をフル活用するが、現在地が全く分からん。するとパトカーが通りかかりお巡りさん二人が僕とおばあちゃんに別々に道を教えてくれた。帰れたかな~、あのおばあちゃん。

ぽかぽかしたいい日和だ。

国道11号線と合流する道で歩き遍路のSさんと道連れになった。東京で国語の教師をしていた息子さんが2年前に、くも膜下出血で急に亡くなり、心の整理がつかず、歩き始めたのだとおっしゃっていた。

息子さんが子供の頃の写真を持って歩いている。
悲しみよりも、なんでそんなに早く逝ってしまったのか、という怒りの方が大きかったと言う。しかし歩いていて、息子と対話が出来た。山道で辛い時にふとザックが軽くなったり、ふと応援する声が聞こえた気がしたり、今では息子への愛おしさが抑えきれず、山道を泣きながら歩くことも少なくない、と言っていた。

八栗寺門前の旅館に泊まった。ご飯の後、Sさんの部屋に行ってずいぶんと長く話し込んだ。抱えている人生や年齢は全く違っていても、同じ道を歩いているもの同士、あるはずの壁を簡単に超えて人とつながれる。

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