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【小説】不完全燃焼14

 通勤の行き帰りで最高にきれいなさくらスポットがある。毎年、きれいだなと思うが今年もきれいだけど満開の時期が早いような気がする。奥さんにそう話して何年か前に花見を家族でした記憶がある。でも花見の時期は毎回寒く、その時も寒かったので十分にさくらを愛でることなく早く上がった。

 大学入学時に舞鶴公園を通った夜にきれいだなと初めてさくらの美しさを感じた夜だった。感傷的な気分で一人暮らしのアパートに帰って部屋の中が真っ暗だった。そう、蛍光灯の設置をせずに外出していた。暗い部屋でどのようにして蛍光灯を設置したかさだかではないが結構大変だったような気がする。「これが一人暮らしか」と感じた初めてのときだったと。なんでも自分でするということがこういうことかと思ったが、今思えばそんな大したことではないが。

 何年かしてその舞鶴公園に彼女と花見にいったがその当時の彼女は初めて弁当を作ったという弁当を食べさせてくれた。実家暮らしはそんなもんかと思いつつ食べたがあまり記憶にないということはインパクトのある味ではなかったのかもしれない。

 ドリカムの「サンキュー」が似合う花見のシチュエーションで「桃色」の匂いがするような日だった。決して「未来予想図」のようなしんみりとした感じではなかったし、楽しかったし、久しぶりに弁当を彼女に作ってもらった機会だった。

 まぁ、「未来予想図」のようなしんみりとした時もあった。それは、一番好きな彼女からバレンタインチョコと一緒にウイスキーのバランタイン30年ものをもらったときだ。その子の親が飲んでいたもので少し分けてもらったものだが最高に旨かった。酒の味がわからない学生が飲んでも旨かったのでやはり本物は旨いものだと実感した。でもすごい後悔したことがそのウイスキーをほかの瓶に移し替えて、そのことを分からずに飲み会から帰宅した時に飲み足りず何かとりあえずのアルコールとしてストレートで一気に飲んだ瞬間、後悔の念にかられた。「しまった、バランタインだった」と思ったときには全部飲んでいた。その彼女の親は数年前に亡くなっていたので形見みたいな酒を分けてくれたにも関わらず、味わうことなく飲んでしまった。すごいひどい飲み方をしたとかなり後悔した。

 もうその酒を飲むことはできないと思うとその彼女に申し訳ないと思った。結局、別れるまでその大事なものに対してその恩義を返すことはできなかった。ちょうど虎舞竜が流行った時期だった。「ちょうど1年前のこの道を〜」、もう28年か29年前になる。

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