かながわ

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短文事例問題集の意義 ロー入試・予備試験と司法試験で求められる能力の観点から

はじめに今回は、書評ではなく、受験生が短文事例問題集を扱う意義について考えたいと思います。 いきなり短文事例問題集といってしまいましたが、“短文事例”という概念はあくまでも相対的・主観的なものです。私はイメージとしては、学者本でいえばロープラシリーズ、予備校本でいえば伊藤塾の試験対策問題集、これぐらいの事例の長さの問題集を“短文事例問題集”と考えています。 短文事例問題集を扱う意義は、一言でいえば、“規範を使えるようにすること”にあると思います。短文事例問題集を通じて養うべ

    • 書評『判例から考える憲法』

      小山剛ほか編『判例から考える憲法』法学書院・2014 初学者おすすめ度:★★★☆☆ 星3 既習者おすすめ度:★★★★★ 星5 本書は憲法の演習書です。 各問題はそこまで長くない(ロー過去ぐらい)ですし、解説で言及されている判例は百選判例が大半です。判例が解説の軸であるため、判例を一切知らないという状態では本書を扱うのは難しいですが、百選の重要判例の概要だけでも知っていれば十分に読めると思います(むしろ、概要レベルの理解度の段階で、一度本書で「判例をどう使うか」という視点を

      • 書評『コンパクト版 基礎からわかる民事訴訟法』

        和田吉弘『コンパクト版 基礎からわかる民事訴訟法』商事法務・2015 初学者おすすめ度:★★★★★ 星5 既習者おすすめ度:★★★☆☆ 星3 本書は初学者向けの民訴の教科書です。 企業の法務部の人や非法曹志望者といった人を読者として想定しているとのことで、非常に分かりやすい内容になっています(そのため、初学者おすすめ度星5です)。 以下の3点が、私が思う本書の特徴です。 ①図が多い 文字だけのページがほぼないです。民訴は抽象的な概念を扱うことが多い科目なので、図や表が

        • 書評 『刑事訴訟法判例ノート[第3版]』

          前田雅英・星周一郎『刑事訴訟法判例ノート[第3版]』弘文堂・2021 初学者おすすめ度:★★★☆☆ 星3 既習者おすすめ度:★★★☆☆ 星3 本書は、刑事訴訟法の判例集です。 私が考える『刑事訴訟法判例ノート』の特徴は、以下の3点です。 ①判旨の大事な部分が太文字で強調されている どの部分が大事なのか分かりやすいです。私は判例百選だとダラダラ読んでしまうので、この点はありがたかったです。 ②判例数が多い 約200判例ほど載っており、択一メインの判例もカバーできています

        短文事例問題集の意義 ロー入試・予備試験と司法試験で求められる能力の観点から

          書評『事例研究行政法[第3版]』

          曽和俊文ほか編著『事例研究行政法[第3版]』日本評論社・2016 初学者おすすめ度:★★★☆☆ 星3 既習者おすすめ度:★★★★☆ 星4 本書は、行政法の問題集です。2021年に第4版が出ていますが、私が取り組んだのは第3版ですので、まずは第3版について書評を書きたいと思います。 第1部、第2部、第3部と別れていて、第1部が基礎的な内容の問題、第2部が行政の主要な領域ごとの紛争についての問題、第3部が総合問題という内容になっています。問題の長さは、問題ごとにばらつきがあ

          書評『事例研究行政法[第3版]』

          『新版 完全講義 民事裁判実務の基礎[入門編][第2版]』

          大島眞一『新版 完全講義 民事裁判実務の基礎[入門編][第2版]』民事法研究会·2018 初学者おすすめ度:★★★★★ 星5 既習者おすすめ度:★★★★★ 星5 本書は入門書として執筆されたものであるため、初学者でも分かるように書かれていますので、初学者におすすめの一冊です。 初学者おすすめ度星5としましたが、これは「民事実務基礎の初学者」に対するおすすめ度という意味であり、「完全な法律初学者」に対するおすすめ度という意味ではありません。というのも、民事実務基礎は、民法や

          『新版 完全講義 民事裁判実務の基礎[入門編][第2版]』

          書評『事例問題から考える憲法』

          松本和彦『事例問題から考える憲法』有斐閣・2018 初学者おすすめ度:★☆☆☆☆ 星1 既習者おすすめ度:★★★☆☆ 星3 本書は法学教室の連載が元ネタになった本です。 憲法の事例問題が全部で30問掲載されています。問題と解説のみで、答案例などはついていません。憲法はまず初学者は答案の形を把握してから勉強した方がよいと思っているので、自分が初学者段階ではやらないかなと思います。そのため、初学者おすすめ度は星1です。 本書は、一方当事者の立場から憲法論を論じるという問題の

          書評『事例問題から考える憲法』

          書評『刑事訴訟法[第2版]』(リーガルクエスト)

          宇藤崇ほか著『刑事訴訟法[第2版]』有斐閣・2018 初学者おすすめ度:★★☆☆☆ 星2 既習者おすすめ度:★★★★★ 星5 本書は、リーガルクエスト・シリーズの刑事訴訟法です。 “リークエ刑訴”とか呼ばれている本です。 まず初学者おすすめ度の方から説明します。 私は、自身が初学者段階で基本書を読んで挫折した経験から、初学者が基本書を読むことに疑問を持っています。ある程度論文で何が問われるのか把握してからの方が、学習効率があがるという側面もあります。そのため、基本書につ

          書評『刑事訴訟法[第2版]』(リーガルクエスト)

          書評『基本行政法判例演習』

          中原茂樹『基本行政法判例演習』日本評論社・2023 初学者おすすめ度:★★★★★ 星5 既習者おすすめ度:★★★★★ 星5 昨日1月13日発売の本書を早速購入しましたので、さしあたっての書評をしたいと思います。 本書の中身について、レイアウトや内容については、日本評論社がツイートしているので、こちらを参照してください。 https://twitter.com/nippyo_law/status/1613094324480405505?s=20&t=Hku09Td5-7

          書評『基本行政法判例演習』

          書評『新判例から見た刑法[第3版]』

          山口厚『新判例から見た刑法[第3版]』有斐閣・2015 初学者おすすめ度:★☆☆☆☆ 星1 既習者おすすめ度:★★★★☆ 星4 本書は、法学教室の連載がもとになった本で、刑法の重要論点についての判例·学説を分析した本です。一から刑法について説明する本ではない(網羅性という観点では、出題可能性があるのに扱われていない罪もある)ので、初学者が読むものではないと思います。実際、本書の初版はしがきによると、法科大学院法学既修者等を読者として想定しているそうです。 本書は、重要判

          書評『新判例から見た刑法[第3版]』

          書評『実戦演習 民法―予備試験問題を素材にして』

          古積健三郎『実戦演習 民法―予備試験問題を素材にして』2021・弘文堂 初学者おすすめ度:★☆☆☆☆ 星1 既習者おすすめ度:★★★★★ 星5 予備試験考査委員経験者である学者が予備試験の解説をしている本です。 題材が予備試験であるため、初学者向きではなく、既習者向きでしょう。 具体的な内容としては、各年度につき、 問題→解説→出題趣旨の分析→答案例→事案から派生した発展的議論 という流れで記述されています。 解説は、民法の短文事例問題をある程度やったぐらいのレベル

          書評『実戦演習 民法―予備試験問題を素材にして』

          書評 『会社訴訟の要件事実』

          岩谷敏昭『会社訴訟の要件事実』新日本法規出版株式会社・2022 初学者おすすめ度:★★☆☆☆ 星2 既習者おすすめ度:★★★★☆ 星4 本書は、タイトル通り、会社法の要件事実を解説している本です。会社法上の主要な訴え·責任について、各当事者が何を主張·立証すべきかを説明しています。各訴え·責任につき、要件が列挙されて、各要件の記載例が書いてあります(イメージとしては、大島眞一『完全講義 民事裁判実務の基礎[第3版](上巻)』(民事法研究会·2019)の会社法版です)。 論

          書評 『会社訴訟の要件事実』

          書評 髙橋美加ほか著『会社法[第3版]』

          髙橋美加ほか著『会社法[第3版]』弘文堂・2020 初学者おすすめ度:★★☆☆☆ 星2 既習者おすすめ度:★★★★★ 星5 本書は、髙橋美加氏、笠原武朗氏、久保大作氏、久保田安彦氏の4名の共著です。判例·通説の立場から書かれているので、受験生ライクな教科書だと思います。はしがきによると、司法試験や予備試験の出題に応じて説明を追加したそうなので、司法試験や予備試験の受験生を意識して書かれた本であることは間違いなさそうです。 私は初学者段階で本書を使っていたわけではないです

          書評 髙橋美加ほか著『会社法[第3版]』

          書評 『憲法ガールRemake Edition』『憲法ガールⅡ』

          大島義則『憲法ガールRemake Edition』法律文化社・2018 大島義則『憲法ガールⅡ』法律文化社・2018 初学者おすすめ度:★★☆☆☆ 星2 既習者おすすめ度:★★★★★ 星5 憲法ガールは、司法試験の過去問を登場人物が解いていく物語形式の本です。司法試験が題材のため、初学者が読むことは難しい気がしますが、単に小説として読むのであれば、初学者でも読めると思います。そのため、初学者おすすめ度は星2という感じです。 私が思う憲法ガールの特徴は、以下の通りです。

          書評 『憲法ガールRemake Edition』『憲法ガールⅡ』

          書評 『会社訴訟・紛争実務の基礎―ケースで学ぶ実務対応』

          三笘裕ほか編著『会社訴訟・紛争実務の基礎―ケースで学ぶ実務対応』有斐閣・2017 初学者おすすめ度:★☆☆☆☆ 星1 既習者おすすめ度:★★★★★ 星5 本書は企業法務分野弁護士による法学教室の連載が書籍化されたものです。そのため、“実務対応”と銘打たれてはいるものの、学生が読める内容になっています。 本書は、会社紛争の事例文とその解説を中心に、適宜補足的な内容をコラムとして盛り込んだ本です。教科書·基本書の類ではないし、事例文も決して短くはない(長いと2頁以上の事例も

          書評 『会社訴訟・紛争実務の基礎―ケースで学ぶ実務対応』

          書評 『エクササイズ刑事訴訟法』

          粟田知穂『エクササイズ刑事訴訟法』有斐閣・2016 初学者おすすめ度:★☆☆☆☆ 星1 既習者おすすめ度:★★★★☆ 星4 本書は、1問に何個か論点が混ざっている長文事例問題が16問載っている問題集です。 本書の良いところは、判例・学説についての説明が簡明であるという点です。また、著者は検察官出身ということで、解説が実務に沿ったものであるという点に信頼が置けるうえに、司法試験考査委員も務めていたということで、受験生ライクな演習書だと思います。ただ、出版している有斐閣が、

          書評 『エクササイズ刑事訴訟法』