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#34『OPUS-地球計画』から学ぶゲームデザインの引き出し(1)「閉鎖空間を舞台に」

本記事は遊んだゲームから、一つのアイデアに注目してゲームデザインの実例を勉強していく連載記事です。

ゲーム開発のプランナーやプログラマー、ゲーム制作を志す方、アイデアのインプットのための引き出しとしてご活用ください。

前回:#33『フェアルーン』から学ぶゲームデザインの引き出し(3)「隠し通路のヒント」

今回勉強するのは「ゲームの舞台を限定する考え方です。

ゲームの紹介

『OPUS-地球計画』は、台湾のインディースタジオ「SIGONO」が開発した宇宙が舞台のアドベンチャーゲームです。雰囲気のある舞台設定と、しんみりと心を揺さぶるストーリーが魅力的な小作品です。

ゲーム要素としては、広大な宇宙から地球型惑星を探す探索パートと、宇宙ステーション内部での会話によるストーリーパートの2つを、交互にプレイしていきます。

形式としては、ストーリーを楽しむノベルゲームに近いかもしれませんね。

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『OPUS-地球計画』(© Sigono Inc)

2015年発売のスマートフォン版を皮切りに、Steam版、ニンテンドーSwitch版などが発売されています。ほんの1,2時間程度でクリアできる小品で、Switchのダウンロード版も500円とお求めやすい価格となっています。

宇宙ステーションが舞台

『OPUS-地球計画』はロボットの「エム」が主人公となり、宇宙ステーションを舞台として地球を探す活動を続けます。

宇宙ステーション内部での行動範囲(部屋)はゲームの進行に伴って少しづつ広がっていき、それによってストーリーの全貌が見えてくるという仕組みになっています。

行動範囲は少しづつ増えていくものの、道に迷ったり全貌が把握できなくなるということは全くなく、プレイヤーはストーリーの進行に集中することができます。

こういった限られた「閉鎖空間」を舞台として設定するのは、特に少人数開発によるインディーゲーム開発では重要な要素ではないかと思います。


大規模空間の弊害

私が子供の頃もそうでしたが、「広大なフィールドを舞台にどこにでも行って、何でも出来るゲーム」を作りたがるのはありがちだと思います。

大手ゲームメーカーによるオープンワールド型の大作タイトルは魅力的ではあります。

ただ、舞台を広げれば広げるほど、そこに詰め込むコンテンツ(街やダンジョン、アイテムや敵、森や山や湖など)を大量に用意する必要がありますし、プレイヤーが自由に行き来することによるゲーム進行の破綻などにも気を配る必要が出てきます。

また、遊ぶ側のプレイヤーにとって広大な世界を冒険するのは楽しさがありますが、一方で単純に移動に時間が掛かりますし、マップを把握し、次に行く場所を覚えて、道を間違えずに……とプレイ感覚が「重く」なっていってしまう危険性があります。(その重さに見合うだけの魅力を詰め込む必要があるでしょう)

広大な舞台のゲームを開発するには、それだけの開発人員と予算と時間が必要になる、ということは注意が必要でしょう。

「閉鎖空間」のメリット

舞台を閉鎖空間に限定することは色々なメリットがありますが、まず個人や少人数でも作りやすく、完成まで持っていきやすいことが言えるでしょう。

特に個人や少人数のゲーム制作では、風呂敷を広げすぎた結果収集がつかなくなり、労力に押し潰されてゲーム制作が頓挫してしまうことがあります。

そのようなリスクを減らすため、出来るだけ「作るのを簡単にしよう」ということです。完成しない大作ゲームよりも、完成した小作品、です。


「楽にする」ということは、必ずしも「手抜きをする」というわけではありません。舞台を小さくコンパクトにすれば、その分ゲーム要素を密度高く詰め込むことになり、クオリティを上げることも繋がります。

『OPUS-地球計画』でも、宇宙船内の各部屋にはパソコンや日記帳、写真などプレイヤーが調べられるモノが沢山置かれており、それらを調べることでストーリーの断片が想像できる仕組みになっています。

これがもし部屋数や移動範囲が大きく作られていたとして、その分、何も置かれていない空っぽの部屋も増えていたとしたら……、ゲーム体験の密度は下がっていることになります。

特にインディーゲームでは、短いプレイ時間の中でゲーム体験の密度を上げるのは重要な要素に思います。


また、ミステリ小説では「クローズド・サークル」という用語があります(※雪山の山荘や、嵐の孤島など、外界から断絶された舞台設定を表す用語)が、こういった舞台設定は小説と同様に、ゲームのストーリー制作上も都合がよいことが多いでしょう。

演出上のメリットとしては緊張感や雰囲気を演出できますし、制作上のメリットとしては、外界の設定を考える手間が省けたり、「なんで外に助けを呼びに行かないの?」といったプレイヤーの行動の矛盾なども説明しやすくなるでしょう。


こうした限定した舞台設定には、「脱出ゲーム」のように実際に閉鎖空間に閉じ込められている場合もあるでしょうし、「カフェの中だけでストーリーが進む」といったように、演出上の舞台設定を限定している場合もあるでしょう。

広大な舞台のゲームもスケール感や魅力があるのは事実ですが、本作のように閉鎖空間に限定したゲームを考えてみることも、面白いアイデアの鍛練に繋がるのではないかと思います。

(本連載はアイデアの鍛練を目的としていますので、どちらが良い・悪い、優れている・劣っているということはありません。何でもアイデアの糧としてきましょう)


考えてみよう

あなたの開発しているゲーム、構想しているゲームでは、どういう舞台設定でしょうか。必要以上に、風呂敷を広げすぎた舞台設定にはなっていないでしょうか。

新規にゲームを構想するときに狭い舞台設定を考えるとしたら、どういったアイデアがあるでしょうか。

既存のゲーム・アニメ・小説などで、閉鎖空間が舞台となっている作品にはどういったものがあるでしょうか。

学校の中、カフェの店内、列車の中、豪華客船の中、魔法の工房、洞窟、などなど。その中だけでゲームが展開するとしたら、どのようなストーリー展開が思い浮かぶでしょうか。

このように考えると、他のゲーム・アニメや日常生活で目にする全ての舞台がゲームのヒントになりそうですね。色々なアイデアを考えてみましょう。


プログラマーの視点

ゲームの舞台を限定することは、プログラム的にも管理がしやすくなるため、特にゲーム開発経験が浅い人にとってはメリットが多いと思います。

RPGのように、フィールドがあって街があってダンジョンがあってバトルシーンがあって……となるとシーンの切り替えをきちんと整理するだけでも難易度が上がってきます。

また、無駄なメモリ消費を抑えるためには、シーンごとに3Dモデルやテクスチャなどのリソース読み替えなどにも気を使う必要性がでてきます。
(近年の高性能なゲーム機(やスマートフォン)ではメモリが潤沢なため気にする必要性が減ってきてはいますが、気にしなくていいとはなりません)

その点、閉鎖空間が舞台のゲームであれば、シーンの切り替えに伴う諸問題が少なくなり、作品を完成まで持っていける可能性が上がるのではと思います。


皆さんも一緒に色々とアイデアを考えて、より良いゲーム作りのための鍛錬を積んでいきましょう。

本記事がゲーム制作をする皆さんのインプットに役立てば幸いです。

この連載が、ゲーム開発のインプットに役立つと感じていただけたら、是非評価やシェアをよろしくお願いします。


本連載の趣旨については下記記事をご覧ください。


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