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【藝術日記2023】展覧会「浮世絵いろは」(北斎館)レビュー

「浮世絵いろは」

2024年1月14日まで、小布施町の北斎館で展覧会「浮世絵いろは」が開催されている。この展覧会で詳しく覧ることができるのは、葛飾北斎の『北斎漫画』だ。北斎館HPは、「浮世絵いろは」の魅力を次のように語っている。

北斎漫画の図には北斎ならではの創造力や洒落が表されています。人間に襲いかかる巨大蛸や変顔をする達磨、曲芸をする天狗、さらには旅好きの北斎が旅行先で写生したと思われる風景画もあります。本展では、北斎の巧みな筆づかいとユニークなアイデアがつまった図の数々をご覧いただきます。

信州小布施北斎館「浮世絵いろは」(https://hokusai-kan.com/exhibition/4004/

今までは漠然と、緻密な技法で写実的にものごとを描いているのだろうとイメージしていた。今回訪れたことで、『北斎漫画』を通じ、「巧みなアイデア」の意味に触れることができたと思う。北斎のアイデアは、人の表情や動きを通し、目に見えなかったものを見えるようにするものだと感じた。

見えなかったものを見えるようにする

「犬」に始まり、身の周りの動植物、遊び、長野県内の滝、古代の人物から伝説上の生き物にいたるまで、この展覧会では、『北斎漫画』に描かれた様々な事象が、いろは順に紹介されている。そのうちのひとつが、「風」であった。解説にあるように、風によってもたらされる周囲の動きを描くことで、北斎は目に見えない風の吹き付けを表現している。さらに目が引かれたのは描かれている人の表情である。布がはためくのを笑って楽しんでいるような人もいれば、恐らくだが、傘が飛ばされてしまい驚いている様子の人もいる。喜怒哀楽の豊かな描き方によってこそ、強風に対して抱く感情に今を生きる人が共感を覚え、「強い風が吹いてみんなびっくりしているのだな」と理解できるのではないだろうか。つまり、ものがどのように動くかという物理的な影響に加えて、関わる人々の感情の動きも、ひとつの現象を理解する上でとても重要な要素になるのだと感じられた。
 

挿絵に精力を注いだ過去

現象と人の表情との関連を、なぜこんなにも緻密に描くことができたのか。北斎が過去、文学作品への挿絵を数多く描いたことが関係するのではないかと想像した。諏訪春雄『北斎の謎を解く』(吉川弘文館、2001)は、北斎の挿絵執筆を次のように述べている。

かれは三四点あまりの読本作品に約一五〇〇図の挿絵を描いている。この読本の挿絵にこそ北斎の神髄があらわれているとたかく評価する美術史家も一人や二人ではない。

諏訪春雄『北斎の謎を解く』(吉川弘文館、2001)

物語を読解し、効果的な挿絵を描くためには、それぞれの現象に対し人がどのような思いを描き、どのように言動するのかを正確に理解する必要があったのではないか。その理解が、のちの『北斎漫画』においても存分に生かされ、人を描くことで目には見えない現象をも効果的に描写することに繋がった可能性があると感じた。

「浮世絵いろは」を訪れて

訪問時、北斎館の駐車場には県外ナンバーの車がずらりと並んでいて、北斎への注目度の高さが見て取れた。北斎といえば、学校の教科書にも出てくる代表的な日本の画家のひとりで、小布施町との歴史的な接点から生まれた観光スポットにも多くの人が訪れる。ただし、実際の作品や技巧、作風の魅力がどこにあるのか、私自身が自分から考えたことはあまりなかったように思う。今回『北斎漫画』をじっくりと観賞したことで、目に見えなかったものを見えるようにする上での、北斎の人物描写の効果性を感じることができた。(小古井遥香)

展覧会「浮世絵いろは」
2023年11月18日(土)~2024年1月14日(日)
開催場所:北斎館 (長野県上高井郡小布施町大字小布施485)
入場料:大人1,000円、高校生500円、小中学生300円、小学生未満無料
https://hokusai-kan.com/exhibition/4004/


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