宇宙人のおじさんに会った話
先日、私のお茶会に参加いただいた方にプレゼントする絵を描いていて、思い出したことがある。
会社を突然早期退職して、無職な日々を過ごしていた頃。そう言えば、富士山で宇宙人のおじさんに会ったなと(唐突ですみません)。
その日、私は富士山の須走口六合目から吉田口六合目まで通っている登山道を歩くため、御殿場駅からバスに乗った。シャクナゲの季節のことだ。
当時の私は、久高島で不思議な体験をして、変わっていく自分を感じながらも、就職活動をしては敗退を繰り返し、悶々とした気持ちで生きていた。
自分の中にある矛盾や葛藤から逃れるかのように、よく山に登っていたのである。
須走口に着くと、そんな私とは正反対の、快晴の光が降り注ぐ。平日だったが、山登りの格好をした人であふれていた。
すると、突然、女子高生の制服を着た人が颯爽と現れた。上着もスカートも丈の短いセーラー服にハイソックス。黒革のローファーにカバン。
だが、よく見ると、その人はおじさんだった。長い髪に、浅黒い肌。引き締まった脚をしている。
でも、私が驚いたのは、おじさんが女装をしていたことではない。
女子高生の出立ちのまま、誰よりも速く、ものすごいスピードで富士山を駆け上がっていった姿に、何よりも圧倒されたのである。
あまりの速さに、その人は、あっという間に見えなくなってしまった。私は呆然と立ち尽くすばかりだった。
不思議なことに、周りに彼を見て騒いでいる人は誰もいない。
「この人は人間なのだろうか」
「私だけが見ているのだろうか」
という強烈な印象だけが心に残ったのである。
その後も、制限なんてどこ吹く風の、自由という言葉がぴったりの姿を思い出すたびに、思い悩む私は、胸のすく思いがした。
そんなある日のこと。
久高島で出会った本を読んでいたら、富士山とセーラー服を着たおじさんの絵が描いてある。
思わず見ると、その絵の下には「世界を平和にするために頑張る宇宙人の一例」「全国にいるとかいないとかの、セーラー服おじさん」と記してあった。
真偽のほどは明らかではない。
だが、「あの人は宇宙人だったのか」と思うと、ものすごく腑に落ちた。
あまりにも尋常な速さではなかったからだ。しかも、革のローファーで。
あれから5年あまりが経つ。
私は結局、神道の大学を卒業したものの、今はIT企業で働きながらnoteを書いている。ごく現実的な世界で私は生きているのだ。
思えば、あのとき宇宙人のおじさんに会ったのは、現実と非現実を行ったり来たりしている時期だったからなのかもしれない。
でも、今思い出したのも、何かの縁だろう。
宇宙人のおじさんに、久しぶりに会いたい。今度会ったら、話しかけられるだろうか。
インドでの瞑想三昧の旅を控えている今、私は改めてそう思っている。
おしまい
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