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【ワーホリ国際恋愛体験談】⑱あの日の続きをはじめよう 台湾の男inマーガレットリバー (後編)

☆前回までのあらすじ☆
29歳、初ワーホリでオーストラリアへ!
ワーホリ期間が間もなく終る頃、会いたい人たちに会いに行く旅へ出た私は、台湾出身のアレックスを訪ねてマーガレットリバーに。

※この話は『⑨まだ恋は始まらない 台湾の男inパース(前編)(後編)』の続きです。

☆用語解説☆
・ワーホリ: ワーキングホリデービザ(若者の異文化交流を目的とした就労可能なビザ)、またはその保持者。
・マーガレットリバー: 西オーストラリア州の南にあるブドウ畑が広がるワインの産地。

※この記事はほぼノンフィクションです。誰かに迷惑が掛からないようちょっとだけフィクションを混ぜてます。

***
(本編ここから)

言葉少なく、ぎこちなく手をつないでシェアハウスに戻る道中。
アレックスなのかもしれない、と考えていた。

酷い話だが、バイロンベイで出会ったロンの才能あふれる絵と共に、彼とのひと時を思い出していた。
というか、ロンのことはずっと忘れられずにいた。(『⑥ もしも、のはなし バイロンベイの男 』参照)

当然だ。
あれだけの才能を目撃してしまったのだから。

ロンには奥さんが居るし、これ以上あの人のことを考えるのは無意味だと分かっている。
だからアレックスで自分の気持ちにケリをつけようとしているんじゃないかとも考えていた。

自分はどうなりたいのか、どうしたいのか、分からなかった。


夜、一緒に歯を磨いているときアレックスが耳元で尋ねてきた。

「僕と一緒に寝たい?」

鏡越しに見つめる彼は困り顔だ。

私はとてもアホな子で、うっかり者で、英語を知らなかった。
行為を伴わない、添い寝だけのつもりだった。
だってみんな雑魚寝のシェアハウスだし。

なので、
「YES」
と答えてしまった。

明日は私もここを去るから、最後の夜だから。

ロンじゃない。
アレックスにしておくべきだ。
そう自分に言い聞かせていたのかもしれない。

アレックスはやっぱり困った顔で、覚悟を決めたような表情をした。

後でこっそり調べれば、英語の「一緒に寝る」は日本語同様に「行為を伴った寝る」を意味することもあると知り、愕然とした。
調べたのはだいぶ後の話。あのとき翻訳こんにゃくが欲しかった。

でも、そうか。
男と女が一夜を共にするのに添い寝で済むワケがないのか。
草食系が蔓延る日本が異質なだけなのだ。

ドキドキしながら、アホな私はアレックスの隣で一晩過ごせることがちょっと嬉しかった。

周囲が寝静まる中、こっそりキスをして、彼の手は私の体をまさぐり始めた。
もう遠慮は無く、やがて彼は布団の中に潜っていった。

あれ。

「待って!
待ってアレックス!」

そんなつもりじゃなかったと小声で訴えるけれど、彼は布団の中で忙しい。

真っ暗で、誰かが起きてるかもしれない中、私は必死に声を押し殺した。

ちょっとまって、ジェントルマン!
これなら私、まだ誰も居ない外の方が良かったかもしれない!

見つかったらどうしようという恐怖で集中できない。
何コレ、何てエロゲなの(泣)

恥ずかしさで、一体どうしたのか、どうしたら良いのか、グルグルした。

グルグルしてる内に、彼は布団から顔を出し、またそっとキス。
どっと疲れたと思ったら、あとは気づいたら朝だった。

目覚めてまずパンツをはいているか確認し、ほっとしてアレックスを見た。
彼はずっと腕枕してくれてたようだった。
きっと起きたら腕痺れてるんだろうな、なんてまどろんでいる内に周囲の目覚まし時計があちこちで鳴り始め、アレックスも目を覚ました。


オーチャードで働く者たちの朝は慌ただしい。
ぎこちなく私たちは挨拶をして、顔洗って、アレックスの出勤時に握手で別れた。
二人きりで語らい合うことはなく、お互いの目でサヨナラした。

アレックスが仕事に出た後、その日オフだったシェアメイトがバス停まで車で送ってくれ、私はマーガレットリバーを後にした。

町を出てもしばらく、パースに戻るまでの間は上の空だった。


2週間ほど経った頃だったか、アレックスからメールが来た。
最初に私と出会った頃からこれまでの正直な思いが綴られていた。

私に興味を持ったけれど、私が先に仕事を見つけ、男の自分がなかなか見つけられなくて焦っていたこと。
焦って探した末にやっと見つけた職場は、それほど仕事をもらえず稼げなくて、私にこっそり嫉妬し、なかなか連絡を取れないでいたこと。
今はただ私が恋しい。
今度は台湾か日本で会おうといった内容だった。

台湾と日本、ワーホリを終えた後、遠距離となって果たして私たちは続くのだろうか?

「君が居たいだけここに居れば良い」
シェアハウスでアレックスは言ってくれた。

だけど私は残りのワーホリ期間を考えて、彼ではなく予定通り旅を続けることを選んだ。

彼との関係を続けたい
ではなく、
続くだろうか
と、まるで他人事のように考えた。

彼と出来る限り一緒にいたい
でなく、
他の友人たちに会いたい、もっと旅がしたい、と考えたのだ。

彼とは別れがたかったけれど、彼を選ぶことは最初から自分の中の選択肢に無かったことに気づいた。


今回ばかりは完全に失敗だと思った。


会いに行かなければ良かった。
会いに行って、終った思い出を二人で温め直して、まるで今もまだそれが続いているかのように錯覚してしまった。

私の中では完全に素敵な思い出に変わっていたことを、そのときになってやっと思い知った。

最初に別れたあのときに、始まりそうだったものは終っていたのに。
続けるべきじゃなかったのに。


これは恋だろうかとどうしても迷ったときは、突っ走らずに、流されずに、立ち止まろう。

謝罪と、もう気持ちが終っていたことに今更になって気づいたことを告白し、私が終らせた。
アレックスからはその後も数年間たまにメッセージがあって、やがて途絶えた。

私は彼が言った通り、酷い女だった。

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