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【ワーホリ国際恋愛体験談】 ⑬ その男、獣につき パースの男 (後編)

☆前回までのあらすじ☆
29歳、初ワーホリでオーストラリアへ!
いろんな出会いと別れを経験した後、パースの日本食レストランで働き始めた。
ある日シェアハウスのパーティーで、明らかに体目当てのオージーのベンに言い寄られ、今貞操の危機!

☆用語解説☆
・ワーホリ: ワーキングホリデービザ(若者の異文化交流を目的とした就労可能なビザ)、またはその保持者。
・バッパー: バックパッカーズホステルの略。安宿。
・パース: 西オーストラリア州の州都の美しい町。
・オージー: オーストラリア人、又はオーストラリアの○○。

※この記事はほぼノンフィクションです。誰かに迷惑が掛からないようちょっとだけフィクションを混ぜてます。

***
(本編ここから)

パーティーに集まった人々はほとんどが家の中かバックヤード。家の表側には私たちと庭を埋め尽くす車だけ。
既に近所迷惑になっているであろう音楽が響く中、私の叫びは誰にも届かなかった。

好き勝手に体を触ってくるベンから逃れるため、私の脳みそはこれまでにないくらいにフル稼働した。


一か八かで彼に抱きついてみた。
押してダメなら引いてみろ作戦だ。

「ホントに、ダメ。」
泣きついてみた。

火に油かもとは思ったけど、抱きついている間は胸を揉まれなくて済むし、キスも求められずに済む。

前か後ろかを考えて、後ろを捨てた。
もうお尻掴まれてるし、この男とのキスは考えただけで胸糞悪い。

胸は死守しようと、ぎゅうっと彼に押し付けた。
揉まれるよりずっとマシだ。背に腹はかえられない、というか、背に胸は変えられない。
ぎゅっと抱きつきながら、脳みそは未だ忙しい。

一呼吸おいて、
「お腹、へっちゃった。
やっぱり何か食べても良い?」

へへっと笑って日本の殿方が好むと話に聞く上目遣いとやらを試してみた。
アラサーだけど一世一代のかわい子ぶりっ子に挑戦だ。
果たしてこれはオージーにも効果があるのか…。

ベンはハッとして、
「そっか!やっぱりそうだよね。
よし、肉食べに行こう!まだ残ってると良いけど。」

良かった!
別の方向に注意を向ける作戦が獣に通じた!

正直、通じて私がびっくりした。
うまくいくと思わなかったけど、やってみるもんだ。
恐らく上目遣いは全く効果を成さなかったが何とか切り抜けた。

やっぱり食欲の重要性を本能的に知っているんだろう。
獣だし。


ボンネットから軽々降ろしてもらって、一緒にバーベキューをやっていたみんなのところに行った。
残っていたお肉を少しもらって、積極的にみんなに声を掛け、輪の中に入り、ベンと二人きりになることを避けた。

しばらくしてベンが友人たちと楽しそうに談笑しているのを横目に、私はコソコソと部屋に逃げた。

マッハで歯を磨いて、部屋のドアの内側にありったけの荷物を積み、明かりを消した。
それでもきっとあの獣の力ならドアを突破するのは簡単だろう。

しばらくして私が姿を消したことに気づいたようで、ベンはまたドアをノックしてきた。
返事もしてないのにやっぱりドアを開けようとした。が、ドアの前の荷物に邪魔をされた。

「カナコ?あれ?もう寝た?
ねぇ、君ともっと話したいな。」

荷物は簡単に押しのけられ、ドアは再度開けられた。
知ってた。

「もう眠いんだけど。」
私はあからさまに不機嫌な顔と声で返事をする。

部屋の中に入って来られるのを避けるため、私は仕方なくドアの外に出て行った。
獣を部屋に入れてはいけない。ここが絶好の密室だと気づかせてはいけない。

そのタイミングで、パーティーをしている1階からベースメントのベンに向かってふいに声が掛かった。

「おい、ベン!
何だそんなところに居たのか。」

正に天の声!

名前は忘れたけどもベンの弟だった。
ベンよりもずっと小柄で細い。
それはきっとエナジードリンクに侵されていないからに違いなかった。

ベンが弟くんを見上げる。
私はその隙にベンを連れてってという精一杯のジェスチャーを弟くんに対して送った。

弟くんはそれを見て吹き出し、ベンが不思議そうに私に視線を戻すが私はそ知らぬ顔を決め込んだ。
傍目からはコントのようだったのだろうが、こちらは己の貞操を守るため必死だ。

弟くんは私の意図するところを理解してくれてそのままベンを引っ張って行き、その夜の私の純潔は守られた。

持つべきものはエナジードリンクに侵されていない善良な飼い主だ。
弟くんには感謝してもしきれない。


それから数日経ってベンが彼女と一緒に私の職場の日本食レストランにいつも通り遊びに来た。

私は忙しくしてベンとの会話が始まらないように動き回る。
みんなに順々に挨拶し会話してまわるベン。
最後に私の隣にやって来た。

「この間は、ごめんなさい。」

大きな獣が体を小さくして私を覗き込む。
ベンの彼女は私たちに気づかず他のスタッフと談笑をしていた。

パーティーでのことをお酒やマリファナのせいにして誤魔化さず、言い訳が無かったのは評価した。
誤魔化すということが頭にないんだろう。
単純で真っ直ぐなのはオージーの好きなところだ。

「もうあんなことしないで、彼女と赤ちゃんを大切にしてください。」
洗っていた野菜に視線を落としたまま、不機嫌なトーンで返した。

「ハイ。」
強張った声で、日本語で返事が返ってきた。

窺うように、握りこぶしを私に突き出してきた。
一瞬彼を見て、仕方ないなと彼の握りこぶしに私の握りこぶしを軽くぶつけた。

安堵した表情を見せたベン。
困った表情を崩せないまま、ため息で無言の返事を返した。

「あのさ、カナコ」
調子に乗った獣はそのまま私の後をついて会話を続けようとしたけれど、無言で睨みつけ追い払った。


彼がきっと、ジャパ専と言われるものだったんだろうと思う。
ジャパニーズ専門の略で、日本人の女の子が大好きな外国人を言う。

外国人に弱い日本人は、片言の日本語で頑張って喋ってくる彼らが嬉しくて、ガードを外すのも簡単だったりする。
そんな簡単に落ちる日本人の女の子はジャパニーズとイージー(簡単)をくっつけた造語ジャパニージーと呼ばれている。

他にも、イエローキャブなんて言われ方もあったりする。
手を上げれば簡単に止まってくれるキャブ(タクシー)のような黄色人種ってことだ。

その後の彼女さんの苦労を思うと、胸が熱くなった。

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