【ワーホリ国際恋愛体験談】 ⑩ まだ恋は始まらない 台湾の男inパース (後編)
☆前回までのあらすじ☆
29歳、初ワーホリでオーストラリアにやって来た!
旅の中でいろんな出会いと別れを経験しながら、西オーストラリア州のパースに辿り着き、バッパーで台湾出身のアレックスと出会い…
☆用語解説☆
・ワーホリ: ワーキングホリデービザ(若者の異文化交流を目的とした就労可能なビザ)、またはその保持者。
・バックパック: リュック。
・バッパー: バックパッカーズホステルの略。安宿。
・パース: 西オーストラリア州の州都の美しい町。
※この記事はほぼノンフィクションです。誰かに迷惑が掛からないようちょっとだけフィクションを混ぜてます。
***
(本編ここから)
時期を同じくして別の部屋に滞在する香港出身のサムに言い寄られていた私(『⑧夢を見ているだけよ 香港の男inパース』参照)。
たぶん当時のアジア人には日本人ブランドなるものが存在していて、日本人というだけで男女関係なくものすごく重宝されていたのだと思う。
そのときは私の他に日本人が居なかったし、香港、台湾、韓国、あちこちのアジア人グループで私は彼らの輪に入ることを歓迎された。
ある週末、サムからパーティーへ一緒に行こうと誘われた。
大きなパーティーで、私自身も行きたいと思っていたものだった。
だけど二人で行って彼に期待させるわけにはいかない。
というか、内心彼のしつこい誘いにうんざり気味でもあった。
「サムに誘われて、断ってるんだけど、でもパーティーには行きたいの。
向こうで会ったとき面倒だから一緒に行ってくれない?」
その頃なんとなくバッパーに居るときはよく一緒に居たし、アレックスに尋ねてみた。
彼は一瞬ぽかんとして、
「君は悪い女だ」
困ったように笑った。
そんな彼の困り笑顔に、私も面白くなって笑ってしまった。
そうか、これが悪い女なのか。
パーティーへはアレックスと彼といつも行動を共にしていた台湾人グループのみんなが一緒に行ってくれた。
パーティーは踊って騒いで、食べて飲んで、それはもう楽しかった。
予想していた通りアレックスと一緒のときにサムとも会い、何ごともないように笑顔で挨拶した。
「酷い女だ。」
横からボソッとアレックスに言われたので、得意気な顔をして見せると、彼の方が声を出して笑った。
パーティーからそれほど日も経たない頃、私は仕事を見つけた。
バッパーを出て、パース中心部からは少し離れた職場のシェアハウスに引っ越すことに決めた。
それぞれで目的は異なるだろうが、やりたいことの多いワーホリの若者はとにかくお金がない。
多くのワーホリたちはまず仕事を見つけて生活費や旅費に充てたいと考える。
日々バッパー内のあちこちで仕事や旅の情報交換がされている。
1年という限られた時間しかない。
チャンスを見つけたらすぐにモノにしなければいけない。
情報を手に入れたらすぐに動けるかどうか、これは今後のワーホリ生活を大きく左右する。
私が仕事を見つけたことは、もちろんアレックスや他のみんなにも報告した。
「聞いて!私仕事見つけたよ!
それで職場の近くに引っ越すことにしたの!」
みんながささやかなお祝いをしてくれた。
彼等にも仕事も見つかるようにと祈った私は、無邪気で無神経だった。
私が仕事を得た陰で、チャンスをモノに出来ず仕事を得られなかった人がいるのだ。
報告から2日後の夜、私の引越しの日までもう間もない頃。
アレックスが突然一緒に散歩に行こうと誘ってくれた。
夜はだいたい部屋かバッパーのダイニングで過ごしていたから、外に二人で出掛けたのはこれが初めてのことだった。
急になんだろうと、ちょっとドキドキした。
何でもない話をして、ふと彼は本題を切り出した。
「仕事を見つけたんだ。ここから南のマーガレットリバーって町のファームで働くことにした。
明日の朝、ここを出るよ。」
マーガレットリバーとは、パースから車でおよそ3時間ちょっと南に下ったところにあるワインの産地として有名な場所だ。
私もアレックスも車を持っていなかったから、簡単に会える距離ではなかった。
距離もあるし、お互い仕事を始めてしまえば、もう二度と会うことはないかもしれない。
たくさんの出会いがあれば別れも必然。
私はパースで、彼はマーガレットリバーで、チャンスを見つけた。
私も彼も、仕事が無いと言われるこの冬にやっと見つけた念願の仕事だった。
「そっか、良かったね!」
と笑顔で言えたと思う。
頭の中は真っ白で、本当は寂しかった。
アレックスはてっきりパース近郊で仕事を探していると思っていたのだ。
この少し前、私には東海岸の小さな町で忘れられない出会いがあった(『⑥もしも、のはなし バイロンベイの男 (前編) (後編)』参照)。
あの人の才能に一目惚れしたのは確かだったけれど、それが恋と呼べるものだったのか、ずっと考えていた。
才能に惹かれてるだけじゃないのか、とか。
結婚している人だったから、そもそもそんな気持ちを抱くこと自体不毛だ、とか。
ほんの数時間一緒に過ごしただけの思い出が、ずっと頭をもたげていた。
アレックスに対して芽生えた小さな気持ち。
これこそが恋なのかもしれないとこっそり思っていた。
世界に目の覚めるような彩を持たせるあの人を、忘れようともがいているだけかもしれなかった。
自分が恋をしているかどうか、まだ分からなかった。
分かっていたのは、アレックスと出会えた偶然をそのまま終りにするのは寂しかったこと。
雰囲気に流されていただけかもしれない。
時間がない、もう二度と会えないかもしれない、という現実が、私の気持ちをせっついていた。
「寂しくなるなぁ。」
俯いたまま気持ちのままにそう言って笑った。
彼も少し笑って「Yeah」とだけ小さく言った。
翌朝の別れのことは実は正直覚えていない。
でもみんなの前でちゃんと笑顔でお別れをしたと思う。
「行かないで!」とか「あなたについて行く!」なんて言葉は想像もできなかった。
泣いたりするほどのモノはまだ何も始まっていなかった。
なんだか心に穴が開いたような気持ちがしたのは、きちんと始まる前に終わったからだろう。
拍子抜けというか。
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