20190305 懐炉

懐炉あり焔のような秘密あり

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もうすぐ本格的に春なのだけど、わたしはまだ毎日のようにあなたから懐炉をもらっている。あなたとは、小学2年生の男の子であるきみのことだ。

冬もずっと半袖で、元気に走り回っていた。よくみれば、腕は真っ白で、頰はとても紅い。わたしは知っている。あなたがとても我慢をしていることを。寒くっても、上着なんか着なくても、元気な自分を創っていることを知っている。

そんなきみは、いつも懐炉をポケットに入れていて、帰りのとき、わたしにいつもひとつ握らせてくれる。「先生、あげる!」「ありがと、」ってわたしは答えて、ぎゆっとひと揉みして返していた。

ずっと返していたら、淋しそうな顔をするようになった。その一瞬の表情に気がついてから、わたしはひとつ、もらうことにした。

1日彼のポケットをあたためた懐炉は、ほのおのように熱い。それをわたしのポケットに入れて、帰る。もうすぐ暖かくなるから、この秘密のプレゼントも、もうすぐおしまいかなと思う。

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