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【香港新界】よその村の告示板がうちの村にある謎

私の住む香港新界の小さな村には、何故かよその村の告示板(掲示板)がある。

何故だろうとずっと思っていたんだけど、香港のGoogleは検索数が少ないためにこの手の情報は落ちておらずよくわからなかった。その後村に住むうちに村人からの情報を小耳に挟み、そういうことか……となりつつもでも誰がこの情報欲しいかよとなり特に呟いたりはしなかった。

しかし先日この事を強く伝えなければならない事態が起きて、香港の小さな村の片隅の情報も人類にとって有益なんだなぁと強く感じたので記録する。

まずこの二つの告示板、ひとつは龍丫排村でこの辺りでは最も山側に位置するとても小さな客家の村。もう一つ小菴山村は名前の通り山に位置する村でありうちの村の裏山にあたる。

龍丫排=伝統的な客家建築で、龍のように家が連なっている。日本で言うと長屋に近い。

龍丫排建築

小菴山=かつて山の中にあった集落で小さな小屋が点在した(山の名前でもある)。

小菴山の廃村
小菴山古道
http://www.hkhikers.com/Siu%20Om%20-%20Tai%20Om.htm より

どちらも村の形状を名前で示しており、素朴な名前です。

では何故うちの村によその村の掲示板があるのか。まずは以前のこの辺りの村の状況について↓

昔の客家の人は水の近くに住みたがる傾向があり、そうなるとどうしても山とか山の麓に住む事になる。実際に今でもこの付近の水質はとてもよく、村人の中には今でも近くの水塘から水を引いて濾過し中国茶を淹れている人がいる(私も使わせてもらっているが軟水で美味しい)。

村の水塘

しかし現代に於いては山の麓に住むのは山の湿度のせいで家はカビやすいし、市内に行くバス停からも遠い。次第に少しでも便利な隣の村に越してくる村人が増えてきた。私の住む村はもともと何もない場所だったけれど周辺の村の移民によって栄えた新興の村といえる。…しかし……栄えたといっても……来たことある人ならわかると思うけどうちの村も村でしかない。つまり新界のある地域の中でとても小規模な移住が行われたという事だ。

この二つの告示版はうちの村に住みつつも、かつて龍丫排と小菴山に住んでいた村人に向けたものだ。告示版では村の代表選挙の投票日やイベントの案内など見ることができる。村の代表選挙があるという事は、香港政府が認めている(黙認している)村の特権が今だにいきているという事で、今や別の場所に住んでいるというのに優遇されているとも受け取れる。特に小菴山はもう誰も住んではいないというのに村長が存在したり丁權がある。(丁權:700尺三階建の家を長男が継げる権利。家賃の高い香港では家を持っている=家賃収入で暮らせる事を指す)

龍丫排告示版
小菴山告示版

最近、龍丫排に参加者を集めてご飯イベントをやったのだが、参加者の一人が「案内してくれた道の途中に龍丫排告示版があるから、龍丫排ってここやろ?もう暑いし動きたくないワ」と電話してきた方がいて困った。「ちゃうねん。違うんです。龍丫排告示版があるもののそこは龍丫排ではないんです」と言っても話が通じず、ここの地域の近距離の移民の話しをしないと説明がつかなかった。こんなの、実際には龍丫排や小菴山村人しか意識してないだろうし……。

この辺一帯は単一姓ではないと言われるが、告示版がある村を調べることで小菴山は溫姓、龍丫排も溫姓だとわかる。この辺は溫さんなのである。実は小菴山の村人が山、めっちゃ不便と思って山から降りてきた先が龍丫排で、龍丫排もやっぱ不便と思って越してきたのが我が村なのだ。

龍丫排はかつて寺子屋があり教師が村に来て教えていた。こども達は村立の分校に行かずに済んだのだ。現在寺子屋は文化財に指定されている

また隣の大菴山村はこの地域のマジョリティの鍾姓だったりしてやはりこの辺り一帯は概ね鍾姓の客家の村なんだろう。

香港人も全然知らないし知るはずもない村のプチ歴史と地理トレビアをみんなと一緒に話すのがおもしろく、皆興味を持って聞いてくれる。香港のインターネットで記録されていない事実を発見して皆と共有するのが今の香港の最大のお楽しみの一つになってきたし、これこそが「新しい香港」なんだと思う。2023年の香港観光に悲観的になるのもよくわかるけれど香港新界にはそれ以上におもしろいことがたくさん転がっている。

龍丫排
龍丫排では70年代に村人が英国に集団移民して以来ストップしていた本土米の栽培を実験的に再開している。当時のコメはタイの大学で見たかったらしい
7月は蛍の季節

よその村の告示版が何故うちの村あるんだろうと思って気にしてたら、やはり村の歴史や生活様式にたどり着いてしまいますね。軽く告示版の謎って感じでメモしとこうと思ったたけなのに。

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