親に金をせびる

母を呼ぶ携帯電話のコール音がやけに鋭く耳に刺さる。

月末になり、クレジットカードの利用額が引き落とされた口座には、わずか2000円しか残っていなかった。

財布にも札はなく、とうとうここまできてしまったと、ATMを前に金澤の体はずっしりと重くなった。

どうにか歩きながら、アルバイト先の学童保育クラブに向かった。

クラブには同じくアルバイトとして勤めている同僚が数名いて、皆大学生くらいの年齢で身なりもよく、この世界に淀みなく溶け込んでいた。

金澤は、自分の生き方に甚だ疑問を持っていた。どうしていつも金がないのか。

結論から言うと、そう理由は明確なのだが、アルバイトをして生計を立てようとしていることと、そのアルバイトのシフトになかなか入れないことが挙げられる。

働きたくないというわけではないのに、それでも金がない。絶対的に金が足りていない。

5万円の、高いとも言い難い家賃を明日払わなければならないのだが、当然工面することはできない。

正社員になろうとも考えるのだが、職を探す期間を食い繋ぐためにまた新しいアルバイトを始める。

すでに掛け持ちしているバイトは3つに増え、昨年末まで渋谷でアルバイトをしていた時とは明らかに生活の疲労感が増えたように感じる。


消費者金融という最終手段に至る前に、親に電話をかけた。

意を決して電話をかける。27歳にもなって、親に金をせびろうとしている。

とても悲しいことだと思う。

母への電話はつながらずに切れてしまった。

少しホッとしている自分がいる。

申し訳ない、と心から思っている、らしい。

本当にそう思っているのならば、もっと違うやり方があるのではないかと思うのだけれど。


きっと数時間もすると折り返しの電話がかかってくるはずだ。

その時僕は、どんな顔で、どんな声で話をすればいいのだろう。


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