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【江戸ことば その15】安本丹(あんぽんたん)

≪ 2011年、Facebookへの投稿 ≫
講談社学術文庫の『江戸語の辞典』(前田勇編)は1067ページもある大著で、約3万語を収録しています。
私は4年前(注:2006年秋)に「端から端まで読み通してみよう」と一念発起し、4か月半かけて何とか通読しました。今も持ち歩いては、「江戸の暮らしが目に浮かぶ言葉」「現代語の知られざる語源」「色っぽい言葉」を楽しんでいます。
1日に1語程度、ツイッターで紹介してきた江戸語を、Facebookのノートにまとめて採録してみます。
なお、カッコ内は私の感想・コメントで、編者の前田勇さんとは関係がありません。

「安本丹」(あんぽんたん)

「あほ太郎」を薬の名に似せたしゃれ。
阿呆。
宝暦13年(注:1763年)頃から流行しだしたという。
上方語(宝永期=1710年ごろ)の移入。

(…子供の頃使っていた言葉ですが、こんなに歴史が古いとは!)

文例・宝暦13年(1763年)
「それ馬鹿の名目、一つならず。(略)また安本丹の親玉あり」
2011年1月25日 Twitter投稿


おじいさんやおばあさんが、笑いながら「このアンポンタン!」と言うのを記憶しています。「仕方のない子だねー」という意味で使っていました。小学校の友達同士では、「このばかやろ!」という罵声語でしたが。

上方で使われるようになってから、50年後に江戸で流行りだしたんですね。テレビも電話もない時代、言葉の伝播は僕らが思うよりも遅いです。

「丹」は、練り薬、丸薬の名に付ける接尾語です。「漢方」「丹」で検索すると、現代でもたくさんの漢方薬が出てきます。明治になってできた仁丹も、語源は明らかに薬です。
伊勢の「万金丹」や越中の「反魂丹」(はんごんたん)は当時有名な薬で、『江戸語の辞典』にも登場します。
用例に、「壱人旅 反魂丹と連れになり」とありました。

反魂丹は今でも販売していて、なんとHPまでありました。
http://www.hangontan.co.jp/wakanyaku.html

歩きながら、おみつはだんだん腹が立ってきた。寺子屋の帰りはいつもいつも、龍八がまとわりついてきて、からかうのだ。
昨日、富山から薬売りがおみつの家を訪ねてきた。一年に一度、立秋のころに来て、使った分だけ薬を補充する。
それだけのことで、龍八はおみつの周りをくるくる回って、「越中富山の反魂丹、鼻くそ丸めて万金丹」と囃し立て、からかうように舌を出した。
「このあんぽんたん!」
おみつは言い捨て、走り出した。

あっと声にならない声を出して、龍八はうなだれた。
まただ。
どうして、いつも怒らせるまでやってしまうんだ、俺は。

写真は大絶壁で知られる荒船山。故郷の山です。
岩崎正春さんの撮影です。
蒼い空と翠の山、夏の青が美しいので、お借りしました。

15安本丹


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