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【江戸ことば その19】差乳(さしぢ)

≪ 2011年、Facebookへの投稿 ≫
講談社学術文庫の『江戸語の辞典』(前田勇編)は1067ページもある大著で、約3万語を収録しています。
私は4年前(注:2006年秋)に「端から端まで読み通してみよう」と一念発起し、4か月半かけて何とか通読しました。今も持ち歩いては、「江戸の暮らしが目に浮かぶ言葉」「現代語の知られざる語源」「色っぽい言葉」を楽しんでいます。
1日に1語程度、ツイッターで紹介してきた江戸語を、Facebookのノートにまとめて採録してみます。
なお、カッコ内は私の感想・コメントで、編者の前田勇さんとは関係がありません。

「差乳(さしぢ)」

前方へ突出した乳房。
椀を伏せたような形で、乳がよく出る。

(…特に胸を隠さない時代なので、機能面だけの評価!)

文例・文化10年(1813年)
「てめえのは垂乳(だれち)だナ、差乳なら乳母奉公でもいい金にならぁ、惜しいこった」
2011年2月7日 Twitter投稿


乳房を見せることは恥ずかしいことである、という感覚は、庶民と、朱子学を学ばなければならない武士階級とでは、違ったように思います。

背負った子供に公衆の面前で乳をやる姿は、私の子供の頃でもありました。自然、お前のおっぱいの形はどうだ、という会話は(上品なものではないですが)、文例のように、普通にあったと思われます。

乳をやることは、人工の代替物がないのですから、女性にしかできないことでした。性的な役割分担は当然のこととして考えられていた時代です。

そう思うと、男女の平等という概念は、近代の大きな成果だということがよくわかります。
例えば、江戸期までは、離婚には男が書いた離縁状「三行半」が必要でした。
しかし、男尊女卑的な感覚は、近代・明治以降の所産によるものが大きいと思われます。江戸期の離婚は、形式上は男が決めて三行半を書くものであったとはいえ、現実には嫌がる夫に女性が強引に三行半を書かせているケースも散見されます。

着物の下で弾けそうなお勢ちゃんの胸の張り具合を見るたび、自分の胸板を見下ろし、おきみはため息をつく。
おせいちゃんは、あたしと二人になると「与平のおっさん、目つきが気持ち悪いのよ」と愚痴を漏らす。それは嫌だろうな。でも、あたしは、そんな目で品定めされたことがない。
与平に怒るお勢が、つんと突き出した差乳をさらに張っているように見えてしまうのは、あたしの心根が卑しいからなのだと、分かってる。

写真は去年4月、自宅の庭で私が撮ったものです。

19差乳


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