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【江戸ことば その2】置候(おきそうろう)

≪ 2011年、Facebookへの投稿 ≫
講談社学術文庫の『江戸語の辞典』(前田勇編)は1067ページもある大著で、約3万語を収録しています。
私は4年前(注:2006年秋)に「端から端まで読み通してみよう」と一念発起し、4か月半かけて何とか通読しました。今も持ち歩いては、「江戸の暮らしが目に浮かぶ言葉」「現代語の知られざる語源」「色っぽい言葉」を楽しんでいます。
1日に1語程度、ツイッターで紹介してきた江戸語を、Facebookのノートにまとめて採録してみます。
なお、カッコ内は私の感想・コメントで、編者の前田勇さんとは関係がありません。

「置候(おきそうろう)」

食客を置くこと、
またその主人をいった戯語。

(…居候の反対語があった!)

文例・文化年間(1810年前後)
「勘当しられて今友達の居候、おきそうろうが裸にしてこの着たなりたった1枚」
2011年1月9日 Twitter投稿


「居候三杯目はそっと出し」
という有名な川柳がありますね。

宿場の木賃宿、旅籠に泊まるのは、旅の道中。
自宅に訪ね来た旅人に、部屋をあてがって泊め置くのは、普通の時代でした。
だから、若者を預かって、いそうろうさせることも、珍しいことではありません。居続けになってしまう若者も、何日も経って、行く宛てもないようだと、だんだん心細くなります。お代わりの腕を差し出すのも、次第にはばかられてくる、という状況を詠んだものです。

願人坊主(がんにんぼうず)の白雲齋は、「ちょぼくれ」の門付(かどづけ)芸人。もうひと月も、惣兵衛の家に居座っている。
最初こそ、歌と踊りで家人を賑やかし、名主の惣兵衛も「縁起ものだから」と喜んだ。諸国巡りで仕入れてきた白雲齋の話は尽きず、惣兵衛も妻のおみつも、囲炉裏端で毎晩聞き入ったものだ。
しかし……出て行くという雰囲気が、一向にない。

この家に居候しながら、僧形の三人は近くの村をめぐって門付芸を披露しては、夜にはまた帰ってくる。
今晩も、白雲齋たちは、不機嫌そうなおみつの顔色も気にせず、当たり前のように腕を差し出す。
「ご内儀、いつまでも申し訳ないとは思うとるんじゃが、次の宿場のご当主が、腰を痛めたとか。少々、時を置いて、癒えてから来てくれと。いやいや、いつまでも申し訳ない。それにしても、わしが居候なら、惣兵衛殿は”置き候”とでも呼べばよいのかな、ご内儀。わははは」

写真は2013年8月、父の撮影。
庭の敷石に散った落ち葉です。

2置候


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