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【江戸ことば その10】ちょい色

≪ 2011年、Facebookへの投稿 ≫
講談社学術文庫の『江戸語の辞典』(前田勇編)は1067ページもある大著で、約3万語を収録しています。
私は4年前(注:2006年秋)に「端から端まで読み通してみよう」と一念発起し、4か月半かけて何とか通読しました。今も持ち歩いては、「江戸の暮らしが目に浮かぶ言葉」「現代語の知られざる語源」「色っぽい言葉」を楽しんでいます。
1日に1語程度、ツイッターで紹介してきた江戸語を、Facebookのノートにまとめて採録してみます。
なお、カッコ内は私の感想・コメントで、編者の前田勇さんとは関係がありません。

「ちょい色(いろ)」

ほんの一時的の愛人。
「ちッとやそッとのちょい色ぐれへは
当たりめへな訳だはネ」
=文例・天保4年(1833年)
(…こんな風に言い切ってみたいものですが!)


2011年1月21日 Twitter投稿

ちょい色。なんかよい言葉じゃないですか?
「ちょっといい女」というニュアンスもあれば、「ちょっとした遊びにすぎないのさ」という開き直りとも、言い訳ともつかない気分が含まれているような。
軽い恋ですね。長く続くものじゃない。楽しいばっかりのうちに終わらせようじゃねぇか、というような軽さです。

一夫一婦制を「清純」「戒律」のように見なすのは、西欧の文化であり、前近代の日本ではそのことでとやかく言う概念はありませんでした。民間では普通に3割が離婚していた、という歴史人口学の研究成果もあります。

武家の秩序とは違う、庶民階級の恋。男も、女も。軽い遊びと言ってもいいかもしれませんが、それが江戸時代の文化の一つの核をなしています。
語弊があるかもしれませんが、明治以降の狭量な男尊女卑の時代とは違う、豊かさがあるような気がします。

ただの浮気に、言いすぎですかね(笑)

お浜はぷりぷりしながら歩いていた。
幸吉が道端で悪い仲間と無駄話しているのを、小耳にはさんでしまったからだ。
「世帯はまだ持たねえのかい?」
「お浜ちゃんかい? まちっと先かねぇ。ちょい色の一つや二つ、片付けとかねぇとな」
「へっ、色男ぶりやがって。そんなんじゃぁ、元も子もなくすぜ、おい」

まったくだ。ちょい色の一人でも、連れて来てみろってもんだ。

写真は2013年8月、父撮影。

10ちょい色


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