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近未来では自分のカルテを持ち歩くようになる

社会の分散化、民主化の流れの中で私は医療システムも時間の問題で大きく変わってくる、もしくは変わらざるを得ない時代になってくると思っています。

その流れの中で、自分の身体や健康・病気に関してのカルテや医療情報は自分で管理する時代になると私は予想しています。

今日はそんなお話を書いていこうと思います。

他人に管理された今の医療情報

現在のところ病院にかかる人の個人情報や医療情報は病院で保管・管理されています。患者さんが自分の医療情報を手に入れようとすると、カルテ開示の請求をする必要があります。

辛辣な表現をするならば自分の身体のことなのに、他人に管理されてしまっている状態がずっと続いてしまっていると言えます。

さらに言うと場合によっては医療者側も、不都合な情報を出来れば開示したくないという心理状態にあります。

なぜそのようなことになっているのでしょう。

私はその背景には、患者さん側と医療者側の心理を配慮しての歴史の流れがあるような気がしています。

カルテ開示されないのが当たり前になった背景

昔は、癌といえば、すぐに死ぬこと、寿命が近いこととほぼイコールと捉えられており、本人にそのまま伝えることがあまりにも心理的インパクトが強く、はばかられていました。胃癌であるのに、患者さんには胃潰瘍といって手術したりすることも普通にまかり通っていました。家族も出来れば本人がショックを受ける情報は伝えないで欲しいと言うことも珍しいことではありませんでした。それがその時代の当たり前の価値観だったと思います。今でも家族の中には少なからず本人に病状を直接的に伝えないでほしいという価値観を保っている方も多いのが事実です。

また医療側も医療技術や診断精度、治療の質などが十分に発達していなかった時代においては、問題にならないようなミスから大きなミスまで多々起こっておりました。カルテの内容にもおそらく今から考えると不適切な記載も多くあったと思います。もちろん今でも医療を提供するのは人間ですからヒューマンエラーは確率的に絶対起きますし、全ての病院で、同じような質を担保するのは現実的に不可能です。マンパワーも限られています。

さらには医療者と患者さんで当然ながら医療の知識には差があり、そう言った意味で医療情報格差が前提になっています。それはまるで私たちが自動車の車検で整備士さんに言われるがままにお金を支払っていること同じだと思います。私たち素人にはどんな部品が問題があるのか、それがどうだとどうなるのかと言うのはよっぽど車好きではないとピンとこず、整備士さんと明らかに情報格差があり、甘んじて受け入れるしかないことと似ています。

カルテには医療用語ばかりが記載されていますが、それを患者さん側に説明する時には患者さんに分かるように情報を噛み砕いて翻訳して伝える作業が必要で、そうなると限られた時間の中で持ち得た情報を100%全て伝えるのは不可能です(整備士さんも車の仕組みから部品の名前や機能を事細かに説明している暇はありません)。さらにそこに相手側の心理的インパクトを配慮しながら説明しなければなりませんし、またこちら側も完璧な知識や技術をAIロボットのように備えているわけではないと言う前提もあります。

そう言った背景から、完璧ではない医療の中で全てを完璧に提供できるなんて本当はあり得ないにも関わらず、人の身体や心理・感情を扱っている仕事柄、当然ながら質の高い診療が求められます。

そう言った背景から、医療情報は機密性の高い情報となってしまい、本人にすら簡単には公開されないようなシステムになってしまっているというのが現状ではないでしょうか。

AI診療で医療自体が民主化される

以前、医療のAI化が進む中で近未来ではAI診療が一般化すると予想しました。

AI診療が一般化した場合、科学的もしくはエビデンスの部分に関してはAIが質を担保することになり、医療においての診断やガイドラインに沿った推奨されたマネージメントに関しては国や地域間や病院間において、ほとんど差がなくなり、一定の質が担保されることになると思います。

そうなると医療者側も患者側もAIのアルゴリズムによって判断された診断やマネージメントに関して、一定の信頼を置くことになります。

さらにはIoTの普及やデバイスの進化で、スマホやスマートウォッチなどのウエアラブルデバイスで自分自分の健康管理が少しずつ出来るようになってきています。体温や脈拍、呼吸状態、睡眠状態、運動状態、カロリー消費状態などはスマートウォッチなどでできるようになっており不整脈の検出もできています。私もFitbitを常につけて歩数や睡眠状態を定期的にチェックしています。

また技術的には声でも感情認識も正確に出来てきていますし、血糖測定もシールのようなものを貼るだけでモニターリングできます。少し前に米カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究者が心臓の動きを超音波画像で可視化する、胸に貼る薄型の切手ぐらいの大きさの皮膚パッチを開発したというのもニュースに出ており、どんどんと医療機関で行う医療デバイスが、私たちの身近なものになってきました。

医療側も患者さんがアプリで管理している患者さんの医療情報を参考に医療を行うようになっています。現に私も患者さんがスマホで管理している血糖や体重などの推移を患者さんから見せてもらい、それを診療に活用しています。

これまで病院に来て検査するタイミングでしか把握できなかったデータだけでは十分でなくなり、患者さんというか私たちみんなが24時間365日生活している中でリアルタイムで記録されたデータの方が医療情報として多くなってくる可能性が出てきています。

さらにはそのデバイスがAIと融合した場合、医療者側より一般の人の方が早く自分の医療情報にアクセスでき、かつリアルタイムに自分の状態を把握でき、最適なマネージメントが分かるようになり、医療情報は徐々に民主化していくだろうと予想できます。

そうなるともはや医療情報を医療機関だけで保管して機密化することに意味がなくなります。私たち医療者側は、より良い医療をするために医療情報を患者さん自身に全て管理してもらい、患者さんが病院に来るたびに、その情報をこちら側に提供してもらい、患者さんの必要なケアやマネージメントを患者さんに提供する。

私はテクノロジーの流れと時代の流れの中で必ずそう言う時代が来ると思っています。

情報開示における諸問題は大した問題ではない

私は以前の勤めていた病院が先進的な病院で、日本で最初に電子カルテを導入した病院でした。そこでは患者さんが申し込めば、自分のカルテを見ることができるカードを発行してもらえ 、24時間いつでも自宅で自分のカルテにアクセスでき、自分のカルテをチェックすることが出来ます。

医療側にも電子カルテ上で、患者さんがカルテ開示されているかどうかが分かるようになっております。その事で医療側は少しプレッシャーはかかるものの、患者さんの信頼を得る事もできますし、患者さんが自分の病気や健康についてより主体的になれます。

電子カルテの便利さはデータの統合が簡単にでき、患者さんの経過を経時的に追うことが容易で、またカルテ記載も紙で書くよりも簡単で修正も容易です。人間ですからカルテ記載も後から見返すと間違っていたり、考え直して別の方針に書き換える事は良くあります。より良い医療をするには、時間が経って熟慮した結果、あとからより良いアイディアが生まれてくる事は自然なことです。それも全て修正記録として残っているので改ざんしている訳ではないことになっています。(そう言った意味ではブロックチェーンとカルテは相性がいいのではないかと思っています)

おそらく電子カルテ導入した際もカルテ開示をほぼ自由化した時も相当抵抗があったと思います。しかし、私が働いていたころには、電子カルテが導入していたり、カルテ開示のシステムをとっている事を批判している職員は誰もいませんでした。先進的なことはどんなことも最初は心理的抵抗が生まれますし、批判する人は必ずいます。今では電子カルテシステムを採用していない病院では、不便すぎて誰も働きたくないと考えているように時代は変わります。

カルテ開示についても患者さんの中には、カルテ内容を見て医師や医療者を責め立てたり、批判してきたり、不信感を募らせてくる人が出てくると思います。現時点でも医療者のほとんどがまだまだ自由にカルテ開示したり、医療情報を患者さん側が管理する事が想像できなかったり、抵抗する人の方が多いと思います。

しかし、それは医療は医療者側が患者さん側に一方的に提供するものであるという思い込みが社会通念としてあるからだと思います。その背景には自分の身体を他人任せにして、自分が病気である事を誰かのせいにしたい、また病気は外から勝手にやってくるものであり、自分はただ単にその不運に当たってしまったと考える人が多いからではないかと思います。病気は医療者が治すもので、自分ではどうしようのないことという固定観念が社会で共有されてしまっているからでしょう。

今の段階では医療が完全に民主化するにはまだテクノロジーの進化がもう少し進む必要があり、CTやMRI、内視鏡検査などは医療機関でしかできないという問題があり、もう少し時間がかかるでしょう。

しかし、健康や病気は自分自身の問題であり、自分で主体的に改善していけるという事が社会で当たり前に共有され、病気にならず健康を維持できるノウハウがもっと社会で共有されるようになれば、大きく変わってくると思います。

そうなると情報を開示するしないという問題自体が、そう言う未来においては、完全にいにしえの古い考えになり、今の時代で採用しているこのシステムが笑い話になるでしょう。

10年後の医療システムは大きく変わる

私が予想する近未来の医療システムは、カルテに含まれる自分の医療情報は、病院が保管するのではなく、各個人が自分の責任で保管し、持ち歩く時代になるのではないかと思っています。

つまり、医療も中央集権管理体制が崩れ、医療の民主化・分散化が起こることになるでしょう。

一人一台ロボットのようなAIのお供がついて、常にウェアラブルデバイスから、もしくはロボットの生体センサーが健康をモニターして、AIによってフィードバックされる時代がくると思います。そうなると、医療は各人の手の中で主体的に管理し、それを医療機関が補助的にサポートするというように医療システムは大きく変わってくると思います。

私はそんな未来はそれほど遠い未来ではなく、10年後ぐらいにはそれが当たり前になっているのではないかと思っています。

最後までお読みいただきまして、誠にありがとうございます。


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