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ソーシャルディスタンスで御慶申しいれます

 正月は文章も書かずゆっくりしようと思っていたが、私のつたない文でも読んでもらえているようなので、ちょっと大晦日のつれづれにそこはかとなく書いてみたい。

 つれづれなるままに、日暮らし、硯に向かひて、心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。 (吉田兼好「徒然草」序段)

 昔、無理矢理暗記したものがパッと出てくるうれしさよ。学ぶとは、まねることなり。創造が全てではない。


 大晦日(おおみそか)の晦日(みそか)は、三十日のこと。旧暦の月末になる。その一番大きい十二月の晦日を大晦日という。
 晦日は三十日とも書く。三十路(みそじ)の三十だ。
 三十路は、「三十歳」のことだが、「路」の言葉につられて、三十代全部を三十路ということもある。本来は十歳ごとに区切っていた年齢のことだ。二十歳(はたち)という特別の言葉がある。四十路(よそじ)、五十路(いそじ)、六十路(むそじ)、七十路(ななそじ)、八十路(やそじ)と十歳ごとに名前がついている。

 晦日は、「つごもり」とも読む。樋口一葉の小説「大つごもり」がある。「つごもり」は「月隠り」で、旧暦三十日に月の見えない新月となるので、月が隠れる意味だ。「大」がつき大つごもりとなれば、十二月末、年末だ。
 なにせ月末には月がこもってしまう。
 今年は、月だけでなく、人もこもらなければならない。コロナ禍なのでステイホームだ。三密を避けなければならない。
 三密は、密閉・密集・密接。

 ステイホームで家にこもってYouTubeを見ていたら、電波が急に止まる。みんなが見ているからなのか。おいおい、大丈夫なのか。
 YouTubeが見られないのはまだ我慢できるが、大学入試や入社試験のリモート面接で電波が止まればどうするのか。リモート授業で止まればどうする。GIGAスクール構想で学校に1人1台のコンピュータといっているが、本当に大丈夫なのか。
 今のままではいけないと、5Gで容量を大きくするというけれど、今でも大量の電波が飛び交っているのに、これ以上電波が出て大丈夫なのか。今でも、スマホでYouTubeを見ようと開くと、急にパッとテレビの画面がYouTubeに変わる。電波がなんらかの干渉をしているのだろう。んっ、それはウチだけか。家の中の電波状態がおかしいのか。
 でも、電波が飛び交っているのは確かで、その電波発信機のスマホをポケットに入れている人は、いつも下腹部で電波が飛び交っている。男性は、睾丸の近辺で電波が飛び交う。男性の精子の減少がいわれているが、四六時中電波を浴びていて睾丸は大丈夫なのか。

 閑話休題(それはさておき)。「つごもり」は隠るというように、昔は正月は家にこもり、門松を頼りに神様、歳神(としがみ)がやってくるのを待っていた。正月は、家で迎えるものだった。それがいつの間にか神社に行き、初詣をするようになった。
 コロナでステイホームしているのは、かつての日本と同じように家にこもり、神様を待つことになる。本来の日本の正月の過ごし方なのだ。

 今年は、神社も初詣を分散してほしいと、年末から「初詣」を勧めている。
 買い物に行くと、もう年末に福袋が売り出されていた。福袋は中身がなくて、目録が入っている。しかも何が入っているかわかる福袋。品物名が書かれている。これじゃドキドキもない。

 どうでもいい豆知識を言い、「えっ」と聞く人に思わせ、こっちを見たところで、本当に言いたいことを言う。ここでは、「正月は、初詣に行かなくてもいいですよ」というメッセージが言いたいのだ。
 そういうフリの言葉が私の文章はマイナーなものが多いので、あまり皆さんの興味を引かない。「閑話休題」は、江戸時代の作家、滝沢馬琴が「南総里見八犬伝」でよく使っていた。

 新年になると、江戸時代の商売人は、「御慶(ぎょけい)申しいれます」とあいさつした。これまた、あまり知る人の少ない、江戸時代の黄表紙という本に書かれている。

 黄表紙は、絵と文が一緒になった日本のマンガの原型のようなものだ。読者は子どもではなく、大人を対象にしており、内容も遊里が舞台になったり、スケベなものも多い。絵は葛飾北斎など一流の浮世絵師が描き、文も馬琴など有名作家が書く。有名な人でなければ本が売れない。作家は自分で絵を描く人もいるが、絵を描かない場合でも、絵の構図は浮世絵師に指定する。絵と文が一体で考えられなければ黄表紙は作れない。
 今のマンガと一緒だ。マンガだけではなく、写真と文を一体にするものなども、日本では黄表紙の流れをくんでいる。

 黄表紙は正月、初春に発売されるので、発売元の商売人が文中に出て、本の宣伝をすることがある。その時、正月なので、「御慶申しいれます」と言うのだ。(山東京伝・作画「御存商売物(ごぞんじのしょうばいもの)」の最終ページで言われる)

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社会思想社「江戸の戯作絵本」より


 コロナ禍で、直接会えないので、新年のあいさつを文字で。ソーシャルディスタンスなので年末ではあるが、「御慶申しいれます」。

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