見出し画像

無関心という名の人間性喪失

 各自治体が「Live119」の導入を進めているというニュースがあった。
 これは、スマホで映した映像を送り、それを見ながら応急手当の方法を教えるシステムだ。
 車の運転免許を持っている人なら、救急救命の講義を受けているだろう。スマホを使わなくても、だれか人が倒れているときには対応しなければならない。

1 安全確認
・誰かが突然倒れるところを目撃したり、倒れている人を発見した場合は、まず車が走っていたりしないか、周囲が安全かどうかを確かめる。
2 反応確認
・肩を叩きながら、大声で呼びかける。
・反応がない場合は心停止の可能性ありと判断する。
3 119番通報をして、AEDを手配する
・「誰か来てください! 人が倒れています!」
と叫び、応援を依頼する。
・協力者を指し示して、
「あなた、119番通報をお願いします」、
「あなた、AEDを持ってきてください」
と具体的に依頼する。
・誰も協力者がいないときは、119番通報をし、近くにAEDがあれば取りに行き、心肺蘇生を始める。

 これが普通の対応だ。

 人通りの多い渋谷で刺傷事件があった。血を流している被害者に駆け寄った人が、上記3の対応をした。つまり、「誰か来てください!」「119番通報をお願いします」と声をかけたが、周りの人は誰も反応しない。みんなスマホで現場の撮影をしているのだ。テレビのニュース映像で、「○○さん撮影」と出る、あの映像を撮影しているのだ。こんな映像を撮影する前に、逃げるなり、助けるなりできるだろう、という映像だ。その映像を放送局はなんの説明もなく、「○○さん撮影」の文字を入れるだけで流す。
 ちょっと想像してほしい。
 もし自分が血だらけで倒れているとする。周りの人は誰も近づかず、少し離れたところから、みんながスマホを向けて撮影している。
 まるでホラー映画だ。たまらないぞ。そんな風景が現実になってきた。
 人間はひとりでは生きていけない。互いに助け合ってこそ生きていける生き物。

 人間なんて弱い動物だ。熊とケンカして勝てるわけない。猪にも勝てない。猿とケンカしても負ける。犬だって、小型犬ならともかく、普通の大きさの犬は恐い。昔は野犬がいっぱいいたけど、野犬に遭遇したら恐い恐い。
 牙も爪も持たない人間は、他の動物に勝てないので、武器を作り、仲間と協力して大型獣を狩りしてきた。一人では何もできない。
 赤ん坊も一人では育てられないので、家族で育てる。赤ん坊だけでも、子どもだけでも勝手には育たない。卵から孵化したら自分の力で海まで歩くウミガメとは違う。
 社会の中でしか生きられない生き物が人間。
 車椅子の人がいれば、「何かお手伝いすることはありませんか」と声をかけましょう、と駅のポスターにある。
 よけいなお世話はいらないけど、必要なサポートがあってこそ人間は社会で生きていける。
 それを忘れて、助け合わず、ただスマホをかざし、事件がなければ下を向いてスマホ画面を見続ける。

 周りに無関心になった人間に未来はなくなっていくだろう。
 「無視」することが、一番人間を傷つける。
 情けは人のためならず
 人助けは他人のためにするのではない。自分が困ったとき、自分が誰かに助けてもらうために、今、自分が他人を助けるのだ。
 人間は一人では生きていけない。

 社会の中で生きる人間として、もう一度自分自身を振り返ってみたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?