日本百名山 雲かかる高峰と天使のハシゴ
西日本第二の高峰 剣山を登る。
剣山の山頂はミヤマクマザサの群生地。過酷な環境で生き抜く植物が見せる美しい風景を紹介します。後半には周囲に山々と合わせ、祖谷の多様な植生を紹介します。
剣山
奥祖谷の苔
奥祖谷にむけ、徐々に狭くなる道幅。路肩はびっしりと苔が生えている。深く暗い影の山道に、時より差し込む木漏れ日は、静かな緑色の苔を金色に輝かせる。
倒木を苔が纏う。その姿は、倒木の輪郭を残しながら、新しい地形へ。木が分解され土に還る神秘的の瞬間である。露出する岩もコンクリートの壁も、湿気の多いこの地域では、あっという間に苔が纏い隙間から樹木が生えてくる。
登頂開始
徳島県最高峰の山であり、西日本第二の高峰 剣山。古くから剣山信仰で訪れるものがいたとされる。30年ほど前、四国の真ん中、大歩危峡から東に向けて観光ルートが整備され、祖谷のある西から剣山に向かう道が、頻繁に使われる。しかし、古くは、徳島県の平地がある東側から来るのが主流だった。奥祖谷と呼ばれているが、当時は、今の西祖谷の方が奥地であったのだ。
剣山は、キレンゲショウマの群生地であり、見頃は夏。キレンゲショウマには遅く、紅葉には少し早い時期に登った。色づき始める樹木の先に美しい空が見える。
東北東へは視界が抜ける。その先50kmの山々が連なる。先は肉眼でも目視できないほど遠くまで望むことができる。
写真奥にはうっすらと集落も見える。昨日のnoteは斜面での農耕と暮らしを特集しているのでそちらもみてほしい。
山頂付近まで来ると植生が徐々に変化してくる。周辺の山々とは違う。松や色づく木々はまるで日本庭園のように美しい。この庭園のようなランドスケープは、山道の整備はしているものの、植物はすべて自生した植物である。
変化する植生
正確には、自然林の美しさを切り取ったのが庭園の解釈だが、我々は美しい自然の森が珍しくなってしまったゆえの表現である。
頂上付近にいくにつれ、樹木は減り、生き残った松が立派に天に枝を伸ばしている。
白骨化する樹木
四国山地は、西日本の最高峰の山々が連なっている。頂上は、雲にかかり初秋にはすでに日中でも気温が一桁となる。写真は白骨化した樹木。剣山には、遮る山もない。冷気を直に受ける。耐えうる植生も限られるのだ。
ミヤマクマザサの群生地
気づけば、あたりに木々は無くなっていた。足元のグリーンの絨毯が一面に広がっていた。ミヤマクマザサの群生地である。空気が変わる。雲にかかる山頂付近では突風が吹き付ける。陽の光は遮られ、気温も一気に低下する。
山頂の風景
真っ白の雲から少しやみ、隣の山が見えてきた。剣山に次ぐ高さを誇る山だが、おどごくべきことは隣山まで一体がミヤマクマザサの群生地である。航空写真でみると深緑の山の山頂は黄緑色で埋め尽くされているのがわかる。
分厚い雲の中に入り、パラつく雨。山頂に着くとピタリとやむ。祖谷の山に天使のハシゴが降り注いだ
祖谷の多様な植生
祖谷の山菜
過酷な環境に残る美しい風景。地形という凹凸は多様な環境を生み出す。過去にも祖谷の農耕や郷土料理を、紹介しているが、ゼンマイやイタドリなど多様な山菜がとれるのも祖谷の特徴といえる。
祖谷の薬草
また平家が入山した際、珍しい薬草が多く見つかったという記述が、平家屋敷民族資料館で展示されていた。医学的な観点からも発見がある祖谷の山。発汗や風邪に効く葛根。虫刺されに効くタデアイ。咳に効くイタドリ。 他にもオオバコ、ニホンハッカ、ツユグサなど、主な薬草でさえ、20種以上あるそうだ。
生態系に異変
祖谷の生態系も常に安定的とはいかない。全国各地で問題視される鹿の被害。限りなく自然のまま維持している剣山も、鹿の駆除に動き出している。増えすぎた鹿は集落を襲い、田畑を荒らし、ササを食べ繁殖を続けている。自然の安定的な生態系を崩しつつある鹿に対し、駆除した鹿を売る店もある。祖谷では、ジビエ料理を食べられる店があるのには、祖谷が抱える問題があったのだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?