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旦那様はサンタクロース(6)

 夕方、お姑さんと一緒に台所に立つ。

「じゃあ優子さんはそこの人参とゴボウを洗って皮を剥いて1センチ位の幅で斜め切りにしてくれる?」

「あ、はい。」

 言われたとおりに切る。切りながら、気になっていたことを思い切って訊いてみた。

「あ、あの…、お母さんはお父さんのお仕事について、どの程度ご承知で結婚されましたか?」

するとお姑さんは「フフッ」と笑いながら言った。
「ほとんど何もご承知じゃなかったわね。」

「お見合い結婚だったし、結婚が決まってから実は…って告白されたしね。さすがに驚いたわね。」

「ですよね…。」

「大体サンタじゃ儲からないっていうか、ほとんどこの仕事はボランティアだから、普段はどこのサンタもみんな別の仕事持ってるのよ。忙しくてすれ違いにもなったけど…。」

「あの、大変じゃなかったですか?」

「う~ん、別にサンタクロースじゃなくても、世間の夫婦は多かれ少なかれ、すれ違ったり、夫が仕事に精一杯で家庭を顧みる余裕の無い時期はあって、みんなどうにかそれを乗り越えたり、乗り越えられなかったりしてるんじゃないのかね…。」

 そう言ってお母さんは「ニシシ」と笑った。

(乗り越えられなかったら困るんですけど…。)
 内心そう思いながら、私も苦笑いする。

「それでもなくなったら困る仕事だし、誰かがそれをしないと…。必要とされる仕事があるって有り難いことでしょ。ホラッ、お煮しめ沢山作るわよ!次は蒟蒻ネジってくれる?」

 なんだかまだモヤモヤは晴れなかった。

 お煮しめ、唐揚げ、ポテトサラダ、クラゲとキュウリ・大根・人参の中華風漬け物を大量に作ってタッパーに詰めた。

「こっちは今日食べる分。こっちはまた明日以降ね。」

「…はい。」

 お父さんとお母さんと3人で囲む晩ご飯。
温かくて美味しかった。ゆったりした時間…。

 夕食後、お父さんは疲れたと言って先に休んでしまった。

 コタツにあたりながらお母さんと2人、お茶とミカンでくつろぎながら少し話ができた。その中でポツポツと聞いた話。

 彼は16歳で父親の仕事を聞かされたあとも、特にその仕事に興味を持つことはなかったということ。

 そして、お父さんは還暦を目前に腰を痛めてしまって、それでサンタクロースは引退する事に決めたこと。

 引退を決めてからからは彼に引き継ぎをするため、少しずつサンタクロースの仕事を手伝わせるようになったこと…などなど。

「結局ね、紺屋の白袴なのよ。」母は言った。

「自分のところの子どものために、というのがいつも後回しでね…だから、お父さんも16歳になったあの子に、この仕事のことを告げはしたけど、継いでくれとか、手伝えとか、すぐには言えなくて…。あの子もちょっと反抗期だったしね。フフッ…。」

「聖人さんが反抗期!?信じられない!」

「でしょう!?…あの子、すごく優しいでしょ。」

「はい…とっても。」

「基本的には優しい子なんだけど、やっぱりね、世間がクリスマスだって浮かれている時、いつも父親が不在だったっていうのは…やっぱり小さいうちは特に寂しかったんじゃないかしらね。」

「ふうん…。」

 私は小さかった頃の彼の姿を想像してみた。もしかしたら寂しかったのはお母さんだったかも知れない。今の私のように。そんな母親を見つめる小さな彼。…その姿はなんだかとても愛おしかった。

「あら!もう11時過ぎたわよ!あなた明日は仕事なんでしょ?私たちも休みましょう。」

「…はい。」

 翌日、翌々日と私はこの家から通勤し、25日のクリスマスの日も彼の実家に帰ったのだが、

「あら!アナタ今日もこっちに帰って来ちゃったの?今夜はアナタのお家にお帰りなさいよ。」

 家のドアを開けるなり母に言われてしまった。

「はぁ。でも多分今夜も聖人さん、帰らないだろうし…ここ、居心地よくて…。」

 私が「えへへ」とにやけながらそう言うと、母は「ちょっと待ってなさい」と奥に引っ込んでしまった。

 しばらくして戻ってくると、タッパーが入った紙袋と置いたままになっていた私の荷物を寄越して母は言った。

「お煮しめも、漬け物も、ポテトサラダも、全部あの子の大好物だから…チキンくらいはアナタが用意しなさい。1日遅れのクリスマスをちゃんとしてあげて。じゃね!」

 ピシャリと閉め出されてしまった。

 私は大荷物を抱えて自宅に帰ることになった。

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もう少しだけ…続きます(^_^;)

続きは(7)です。しばしお待ちを。

旦那様はサンタクロース(7)最終話
kanekyo12|note(ノート)

ありがとうございますサポートくださると喜んで次の作品を頑張ります!多分。