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『ひっかきまわす』セルフ歌詞解説

『ひっかきまわす』は頭の中を引っ掻きますという歌。今回のアルバム『MIRACLE MILK』のゴチャゴチャしてる雰囲気を表すために必要なメッセージがいっぱい出てくる。
今回のアルバムでは12曲通してリンクするワードが歌詞の中に散りばめてあって、この曲から枝分かれしてリンクする曲たちも沢山ある。特に目立つ「スプーン」というワードについても今回少し触れて書いていきます。


ひっかきまわす歌詞

___以下歌詞全文(読み飛ばし可)___

アバダケダブラビビディバビディブ
ハクナマタタリーテラトバリタウルス
アリアロスバルネトリールあかん!
一瞬にして全部忘れそう

いいこと思いついた
ひっかきまわす

映画に例えるのなら(ビリリ)
クライマックスを超えて(ビリリ)
ハッピーエンド更にパート2までの
筋書きが一瞬でフラッシュバック

エンドロールが今流れ出した

頭の中じゃもう完成してんだ もう完成してんだ
何万個もの電球が チカチカ眩しいな 閃いて光った
完成してんだ 満足しねえな 嗚呼、またひっかきまわす

いただきますの直前にお邪魔します
どこの誰ともわからぬウォルラス
誰かのテーブルひっかきまわして
騒いで片付けはお願いします

いただきますの直前にお邪魔します
どこの誰ともわからぬウォルラス
誰かのテーブルひっかきまわして
騒いで片付けはお願いします

敵を作らなきゃ味方を作れない
そんな戦い方になんの意味もない
怒りに任せてスプーン曲げても
イリュージョンじゃないしおもんない
だからスプーンは曲がる真っ直ぐに
スプーンは曲がる真っ直ぐに
スプーンは曲がる真っ直ぐに
エンドロールを今巻き戻した

頭の中じゃもう完成してんだ もう完成してんだ
何万個もの電球が チカチカ眩しいな 閃いて光った
完成してんだ 満足しねえな 嗚呼、またひっかきまわす

いいこと思いついた

ひっかきまわす
________

「電球」を使って表したいこと

まずは

"何万個もの電球がチカチカ眩しいなひらめいて光った"

と歌っていたり、ぼくの監督したMVにも登場するこの電球について。

ひらめきのメタファーとしてよく使われる電球。漫画やカートゥーンの世界でキャラクターのひらめきを表す際に頭上に突然ピカーンと浮かび上がる電球。

頭の中がパッと明るくなるようなひらめきは創作をしている人間でなくとも経験があるはずだ。そもそもこの電球の演出はどこから来ているのだろうと調べてみた。するとなかなか興味深いことがたくさん知れた。それと同時に誰が何を持ってその表現に至ったのかは、多くの情報が交錯していて混乱したので、今回は自分なりの解釈として紹介します。

エジソンの電球

電球。つまり白熱電球は1879年10月21日に超有名な発明家トーマス・アルバ・エジソンが完成させたとされている。エジソンは他にも蓄音機、キネトスコープ(映写機)も発明した大天才で、ぼくの好きな音楽や映画というカルチャーの反映も彼の発明品の延長線に存在するんだなと考えたりした。

そんな天才発明家エジソンが発明した電球が「ひらめきのメタファー」として使われるというのはすごく納得がいく。それと同時に、エジソンの存在など知らない子どもの観るアニメや漫画にもこの演出が使われていて、それでも視聴者になんとなく「ひらめきの演出である」ということが伝わるのも不思議な感覚だ。

gettyimagesより引用

エジソンの残した「天才とは1%のひらめきと99%の努力」という言葉がある。あまりに有名な言葉ではあるが、本作の歌詞を書き上げた後に改めてこの名言が目に入り、「まさにそういう曲だ!」とエジソンにぼくの思考を先回りをされた気分であった。

『ひっかきまわす』の他曲との繋がり

『風立ちぬ』から受けた創作への追求

先述した「天才とは1%のひらめきと99%の努力」という言葉は至ってシンプルであるからこそ名言として世に受け継がれている。
ぼくが「99%の努力」の部分の大事さを心の底から感じた作品を紹介するね。

宮崎駿監督の長編映画『風立ちぬ』(2013)
こちらの映画は
大正から昭和にかけての日本。幼い頃から空に憧れを抱いていた青年、堀越二郎は、航空機の設計士となる。やがて関東大震災が起きて人々が混乱する中、彼は菜穂子と出会い、のちに結婚する。二郎は病弱な妻を支えながら、飛行機づくりに没頭する。というお話。

映画.comより引用

飛行機の設計家である堀越二郎は零戦という飛行機を設計した実在の人物をモデルに描かれている。彼の設計への情熱は監督である宮崎駿の映画作りへの情熱を表しているものであろう。

そんな主人公の堀越二郎が作中、テスト飛行を行うシーンがある。
だだっ広い滑走路を勢いよく走り始める機体。無事離陸までは成功したものの、上空で飛行のスピードによる空気圧に耐えられない機体が木っ端微塵に粉砕する。パイロットはパラシュートによって脱出。ポツリポツリと雨が降り始める。

立ち尽くす堀越に対して上司の黒川が避難するよう声をかける。しかし、堀越二郎は轟々と音を上げて燃え上がる機体を呆然と眺めながら自らが飛行機の設計を成功させることを確信したことを告げる。

そう。このテスト飛行失敗のタイミングで堀越二郎は零戦の完成を確信しているのだ。あとはやるだけ。だけど、それをやってのけるには相当の努力と時間と莫大なお金がかかる。その全てを一瞬にして感じ取ったのだろうとこのシーンからぼくは受け取る。完全に電球がピカーンと光った瞬間である。

作者の宮崎駿監督の『風立ちぬ』メイキングドキュメントの中にこのシーンを表す出来事が映されている。アニメーターたちの描いた絵を一枚一枚確認してはボツにしていく宮崎監督。そして自分自身が描き直していく。
「めんどくさい。あぁ、めんどくさい。」
と独り言をこぼしながら。カメラマンに、カメラの向こうのぼくたちに向かって続けてこう語る。
「めんどくさいことが一番大事なんですよ。そういうもんなんです。」

きっと宮崎監督の頭の中にはすでにそのシーンの完成系は出来ていて、その完成系のためにはこのめんどくさい作業が必要なのだろう。

ちなみに、『MIRACLE MILK』という曲の中にも

"「結局自分なんですよ」って宮さんも言ってる"

という歌詞があるが、ここの「宮さん」とは他でもない宮崎駿監督の事である。宮崎駿監督はぼくの最も憧れる人間のひとりである。

不思議な言葉の羅列

『ひっかきまわす』の歌詞の冒頭

"アバダケダブラビビディバビディブ
ハクナマタタリーテラトバリタウルス
アリアロスバルネトリール"

と世界中の不思議な言葉を羅列した部分がある。

「アバダケダブラ」はハリーポッターシリーズの死の呪文。「ビビディバビディブ」はシンデレラの魔法使いが使う魔法。「ハクナマタタ」はライオンキングのティモンとプンバァが唱える思想。「リーテラトバリタウルスアリアロスバルネトリール」は何を隠そう宮崎駿監督の長編映画『天空の城ラピュタ』に登場する飛行石を起動させる秘密の言葉である。

映画.comより引用

崩壊の呪文「バルス」の方が圧倒的に覚えやすいし、有名だよね。

まあ、この部分の歌詞はそういう言葉の羅列を頑張って記憶して"全部忘れそう!"と叫びたかったというぼくの変な趣味である。

スプーンは曲がる真っ直ぐに

最後に

"スプーンは曲がる真っ直ぐに"

という歌詞について。

『まじかるむじか』『MIRACLE MILK』の2曲にも登場するこの「スプーン」という言葉。

これは手品(Magic)に使われるスプーンのこと。いわゆるスプーン曲げのスプーン。"バレバレ薄っぺら"(『ケミカルカルマ』より)な手品としてもスプーン曲げは使われる。

"怒りに任せてスプーン曲げてもイリュージョンじゃないし、おもんない" "スプーンがひとりでに曲がり出すようなー"(『MIRACLE MILK』より)と歌ってるように念じるだけでスプーンを曲げるという奇跡(Miracle)を求めるメタファーである。

『ひっかきまわす』の中では
"スプーンは曲がる真っ直ぐに"
とトンチンカンなことを連呼している。

「真っ直ぐに曲がる」という物理を超えた話をしたかったんです。この場合のスプーンを敢えて何かに例えるなら「人の心」や「目の前に起こっている変えることのできない現実」と言ったところだろうか。

つまり『ひっかきまわす』は絶対に変えられるはずのないことを変えてしまうためのひらめきと努力について歌っているわけです。

このスプーンに関しては映画『マトリックス』(1999)の中に出てくるスプーンから着想を得ている。ちょいと文字数が多すぎるので過去に書いた映画コラムの記事を載せておきます。

↑こちらの記事も結構な文字数でぼくが書いてます。「マトリックスめっちゃ好き!」て人は読んでみてね。自信作の記事。スプーンについても深く掘ってます。

『ひっかきまわす』はこんな歌

つまり手品にはタネがあって魔法には儚い現実が付きまとう。どちらも「Magic」と訳すことができるがその答えを出すことが目的ではなく、こうやって考え続けている今この瞬間に意味があるのです。そして、そうやってアンテナを貼り続けた人にだけ捉えることのできるMIRACLE(奇跡)な出来事は訪れる。

ぼくがアルバム『MIRACLE MILK』という作品を通して一番伝えたかったことは地に足つけて頑張ってる時こそ魔法やSFのことを意識して動くべきだし、それによって奇跡の中にいるような経験をした時ほど明日の仕事や学校のことを考えてしまうよね。ということである。
そんな双方の思考をひっかきまわしてまだまだ考え続ける。それこそが答えなのだ!

現実的に「めんどくさいこと」をこなすために1%のひらめきを大事にする。その1%のひらめきの電球が光る瞬間は脳汁ビシャビシャだしあれはもう奇跡であるとぼくは考える。

あ〜。あと11曲もこんなブログ書くのか〜。もうめんどくさいわ。

愛はズボーンNEW ALBUM 『MIRACLE MILK』聴いてみてね!

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おまけ : 「ウォルラス」について

『ひっかきまわす』の中に突然現れる謎のセクション。(1:36あたり)

"いただきますの直前にお邪魔します
どこの誰ともわからぬウォルラス
誰かのテーブルひっかきまわして
騒いで片付けはお願いします"

ここに出てくる「ウォルラス(walrus)」は直訳で「セイウチ」。

The Beatlesの『アイ・アム・ザ・ウォルラス』(I Am the Walrus)からのサンプリングですね。

ジョン・レノンはこの曲を『鏡の国のアリス』(1871)に出てくる「セイウチと大工」という章のセイウチをモデルにしているそうです。
馴染みのあるところで言うとディズニー作品の『不思議の国のアリス』(1951)の中にも登場する章ですね。

セイウチと大工が牡蠣の赤ちゃんたちを食事に誘い、みんなでテーブルを囲んだ後に泣きながら(泣いてるフリ?)牡蠣たちを食べてしまうというなんともナンセンスでグロテスクなお話。

このシーンからインスピレーションを受けて『ひっかきまわす』の中で
"どこの誰ともわからぬウォルラス"
と表現しています。

その実態は、ひらめきも努力もせずに主人公がようやく「いただきます!」と言えるところまで作り上げたものを横からヒョイと現れて平らげるクソ野郎として書いてます。

どこの業界にもそう言う人っているよね。キモいよね。て話。まあ、歌の中で敢えて攻撃しなかったのはそう言うクソ野郎たちに怒りをぶつけること自体が「奇跡」から遠ざかる感情だから無駄だよ。と言うメッセージ。

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