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水没世界の蒼い鯨

 暖流が、少年の頬を撫でる。

 青々とした海底に降り立つと、そこは墓地の跡だった。古びた墓石に波影が覆いかぶさる。少年は思わず、左手に装着したマニピュレータを墓石へと伸ばした。

「こちらナルバロ号、通信状態の確認求む、どうぞ」無線機からの声に、我に返る。「こちらベルーガ、通信状態良好、どうぞ」通信を返しつつ、少年はその場を跳び離れた。脚部のモーターが、少年の機械化された体躯を十数m上昇させる。

 眼下の村が海に呑み込まれたのは、少年の生まれるよりもずっと前のことだった。少年は、村はずれの白い廃墟を目指す。それは、数十年前に村と運命を共にした原子力発電所の跡であった。水没した原子炉から採取される燃料ペレットは、この世界での貴重なエネルギー源となっていた。

 少年は建屋の天井から内部へ侵入する。今回もきっとうまくいくだろう。少年は人工肺からゆっくりと息を吐きだすと、未改造の藍色の瞳を興奮に瞬かせた。

【続く】

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