不和の娘、ディスノミアーの愉しみ
暗い路地裏に、人が人を殴り殺す音が響いた。
聞き飽きるほど聞き続けてきたその音は、ベッドに横たわる私の耳に未だこびり付いていた。私は吐き気をこらえながら、携帯端末を覗き込む。任務完了の確認を知らせる、短いメール。それを一瞥し、私はようやく長い黒髪をほどき、端末を放り投げた。
右の奥歯に埋め込まれたスピーカーからは、不愉快な高音が響き続ける。
その音は、私が「ディスコルディアの娘」である証であった。くだらない。カルト教団の玩具として終わるなんてまっぴらだ。だから私は今の仕事をしている。離間専門の工作員。私にとっては簡単極まりない仕事。
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吐き気が収まってきたので、私は再度端末を拾いあげ、アプリを立ち上げる。女子の間で人気のアバターチャット。2頭身のアバターになった私と、いつものチャットルームの面々。たわいもない会話。飛び交う絵文字。
私は、その中の一人、金髪で青い眼の女の子に恋をしていた。
【続く】
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