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値上げをしたいと悩んでいる経営者へ

「値決めは経営」と言うように価格設定は、経営にとってかなり重要な要素です。
それにも関わらず多くの中小企業は価格設定について、そこまで深掘りをせずに行っているように見受けられます。価格設定は、マーケティングの4P(Product, Price, Place, Promotion)の要素の一つでもあります。
本記事では、値決めにはどういった方法があり、どのように考えるべきかを解説し、皆様の企業の値決めをする上でのヒントになれば幸いです。

目次

1 3つの値決めの方法

一つ目の方法は、市場価格(マーケットプライス)に基づく決め方です。 市場には競合がおり、競合の価格に合わせて売価が決まる考え方です。 競合と同じものを販売していれば、市場価格で売価が決定してしまいます。 市場価格でしか売れないのは、差別化された商品を販売していないことが原因です。 もし、自社の商品が市場価格で決まると思うのなら、付加価値型の経営が出来ていない、商品がコモディティ化しているのが原因です。 付加価値型経営をしなければ、売価は「市場価格」に左右されます。

二つ目の方法は、コストに利益をプラスして値決めを行うものです。 これをコストマークアップ方式と呼びます。 原価に利益をプラスして売価を決定する方法では、大きな利益を乗せることができません。原価に対して、良心的価格設定をしたくなるのが人間です。

三つ目の方法は、顧客が感じる価値に対して価格設定する方法です。 顧客がいくらまでなら払えるのかをベースに売価を設定する方法です。 例えば、美術品などオークション形式で売買される場合、買い手がこの金額までなら払ってもよいと思う金額で売価が決定されます。 差別化された商品で、競合がなく売り手側が有利な場合は、独占的価格で売価が決定できるのです。 「儲かる会社」を作るためには、徹底して製品を差別化し、自社の製品の特長を出すことが必要になります。
この方法を徹底して実施している会社が、高い営業利益率を誇るキーエンスです。
キーエンスはこの値決め方法により、粗利率が80%、営業利益率が50%超を達成しています。このような値決めが出来る理由は、顧客の顕在的ニーズには対応せず、潜在的な ニーズの掘り起こしに徹底しているからです。

2 どの様にして値上げをするか

日本は今まで他の国の類を見ないほどのデフレに陥っていました。そのため、物価も賃金も中々上がらなかったため、デフレの局面では、値下げをしやすい傾向にありました。しかし現在では、米国の金融政策やコモディティ商品の不足などが重なり、急激なインフレとなりました。こうなると今までの様に値下げの勝負では会社に利益が残らないため、値上げをする必要が出てきます。
値上げには以下3つの方法があります。

1 単純に今の商品の値段を上げる
2 商品の内容量を下げる
3 新商品を出して客単価を上げる

今回の記事では1の方法について掘り下げていきます。

3 まずは自社製品又はサービスの分析を行うこと

値上げをした時に誰もが一番怖いのが客離れです。自社製品が完全に差別化されており、大替品がない場合は心配ありませんが、成熟した市場において完全に差別化されているというケースはかなり少ないのではと思います。
そうすると冒頭に述べた3つの価格設定の方法のうち、一つ目(マーケットプライスに基づく決め方)の方法が最も主流かと思います。
考えるべきことは、需要と供給の間で最も売り上げを最大化できるポイントになります
。そのポイントを理解するには、「需要の価格弾力性」を理解する必要があります。

どの業界においてもビジネスというのは究極的には2種類しかありません。
薄利多売か、高マージンかになります。それぞれの価格弾力性の特徴は大きく異なります。

参照:伊藤 元重出版 ビジネス・エコノミクス

①の図は、価格が下がれば需要が大幅に増える(価格弾力性が大きい)ケースであり、②は、価格が下がってもそれほど需要が増えない(価格弾力性が小さい)ケースです。
一般的に生活必需品などは、価格弾力性が小さい傾向にあります。その理由は、例えば価格が安くなったからといって人々の消費量はさほど変わらないためです。トイレットペーパーが安くなったからといってトイレに行く回数は増えないということです。
一方で奢侈品は、価格弾力性が大きく例えば海外旅行などが典型です。
価格弾力性が小さい場合は、薄利多売を狙うことが効果的ですが、価格弾力性が大きい場合は、高マージンを狙う方が効果的になります。そのため、まずは自社の製品の価格弾力性を知る必要があります。

4 価格設定の有効な戦略事例

①ブランド価値を高めて差別化
ブランド価値を高めるためには様々な方法や工夫の仕方がありますが、すぐに出来ることは以下の3つではないかと思います。
1  あえて商品の不足の状態を作り希少性を出す
2  ストーリーマーケティング
3  セグメンテーションマーケティング(顧客を分類し、それぞれの顧客にあった製品を販売していく)

②価格差別
客層によって価格弾力性が異なるため、客層に合わせて価格を変えていく方法です。
例)・対象年齢に合わせて価格を変える
大人 →価格弾力性が低い
子供 →価格弾力性が高い
  ・対象者の所得に合わせて価格を変える
高所得 →価格弾力性が低い
低所得 →価格弾力性が高い

③ロスリーダー
コスト商品のために一つの目玉商品を作る方法です。目玉商品は、利益が出ないとしても他の商品を付随して購入してもらうことで売り上げと利益を上げるのです。

5 最後に

こだわりが強くなる分野ほど「自己選択メカニズム」が強くなり、価格差別をつけやすくなります。例えば車や化粧品など高級であっても原価コストはさほど変わりません。にも関わらず人によっては高くても購入し、人によっては安い方がいいという人もいます。特に毎日使用するものであれば、こだわりが強くなる傾向があります。

こちらは本日の参考図書です。価格設定についてもう少し深掘りしたいという方にはオススメの本です。

◆吉野家の牛丼の値付け戦略のねらいとは? なぜコンビニは日本で定着したのか? なぜコストコは会員制なのか? なぜユニクロとニトリは流行るのか? なぜサントリーはセサミンをネットで販売したのか? なぜ業界1位の企業をひっくり返すのが難しいのか? ドトールとスターバックスの違いの理由は?

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