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第2回 巨大涅槃像の魅力を考える(半田カメラ)

巨大仏が好きです。

巨大な仏像、略して巨大仏。それは見紛うことなき仏像なのですが、同時に建造物でもあります。ですからその多くは仏像の胎内、つまり内部に入ることができる。外からも中からも参拝できる、それが巨大仏の魅力です。

巨大な建造物、例えばダムやタワーを目の前にしたとき、人はそのスケール感に圧倒されます。それが人型をしている。この感覚は他では得難いものです。巨大仏を目の前にすると、私は何かが揺さぶられるような感覚をおぼえます。スケール感が狂わされ、脳が軽く誤作動を起こすような。これが巨大仏の醍醐味だと思います。

巨大仏とひと言で言っても、座っている坐像、立っている立像と様々ですが、今回は寝ている「涅槃像」を取り上げたい。なぜなら涅槃像というとタイなど国外のものを思い浮かべる人が多く、日本ではあまり一般的ではないから。でも実は日本にもあるんです。寝ている巨大な仏様が。

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その寝ている巨大仏は九州、福岡にあります。篠栗四国霊場の総本寺である南蔵院というお寺です。七福神の祀られた長いトンネルがあったり、写真の11メートルほどの不動明王像が睨みをきかせていたりと、お寺の広い敷地には見るべき所が随所に散りばめられています。

ですが、参拝の最後に現れる涅槃像がそれまでの全てを霞ませてしまうほどに、実像もインパクトも巨大なのです。

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最初、涅槃像はこんな風にポツポツとした頭、螺髪(らほつと言います)だけが建家の上にチラリと見えて「あれだ!」となります。ここが一番のドキドキポイントです。見えない部分がどうなっているのか想像はできますが、巨大仏との初遭遇はほぼ例外なく、この後、その想像を超える強烈なインパクトがやって来ます。

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階段を上り左手に現れたのはお身丈41メートル、高さ11メートル、重さ300トンの巨大な釈迦涅槃像!これはブロンズの涅槃像として世界最大です。

あまりに大きすぎて二度見、そしてしばらく目を逸らすことができなくなります。これが現実のものなのかと、目と脳との間でいつもより長く情報交換がなされているような。これが私が言うところの脳の誤作動的感覚です。

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涅槃像全体を正面から写真におさめようとすると、カメラを構えたまま最後尾まで後に下がることになります。写真でこのスケール感が伝わるでしょうか。いつもこうして巨大仏のインパクトを伝えようとしますが、どう頑張っても伝えきれません。本当のところは、実際にこの場に立っていただく他ないのです。

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この涅槃像、ただ大きいだけではありません。冒頭で書いたとおり胎内に入ることができます。内部にはミャンマーより贈呈された三尊仏舎利があり、四国八十八カ所のお砂踏みができます。ちなみに胎内は撮影禁止です。

胎内から出ると、仏様の大きな足の裏が待ち受けていて、触れることができるという有り難い流れになっています。まさに仏様を頭の先から足の先、果ては胎内まで拝ませていただいたという感じです。

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ここまでご紹介してきましたが、そもそも涅槃像(涅槃仏)とは何なのか。この横たわるお姿は、お釈迦様が入滅する(お亡くなりになる)ときの様を模したものとされます。右手を枕にするか頭を支える姿で、基本的に頭は北向き、顔は西向き。これが後に「北枕」の由縁になったと言われます。

そんなお姿なのに、いや、だからなのか、私はこの涅槃像を見るにつけ「なんて気持ち良さそうなんだ」と憧れにも近い感情を抱くのです。このまま小さくして自宅にお連れしたい、とも思います。だって、リビングにこんな気持ち良さげに横たわるお釈迦様がいたらちょっと嬉しくなりませんか?

ですから、恐れ多くも自ら作ることにしました。リビングに横たわるマイ涅槃仏を。

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まずは(安価で大変恐縮なのですが)100均にてクッションの中身をふたつ購入します。モデルはもちろん南蔵院の釈迦涅槃像。ふたつをつなぎあわせて、この形にしようというわけです。

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どことなく魚っぽい形になったクッションふたつをつなぎあわせたものに、別で制作した自作の涅槃仏を縫い付けます。着衣のヒダヒダなど、私なりに再現したいとやや凝ってしまい、思っていたより時間がかかりました。気付けばトータルで3日間もチクチクやっていたという……そんな格闘の末に出来上がったマイ涅槃仏がこちら。

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後光を放つように光を浴びて、我が家のソファーに気持ち良さげに寝そべる、名付けて「涅槃仏クッション」。他のクッションと同等に扱うことができず、新参者にもかかわらず古株のクッションたちを台座にするという、超VIP級の特別待遇。それも当然と言えば当然の、堂々たるお身丈68センチ。

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外に連れ出してみたところ、そこは一瞬にして楽園に変わりました(少々言い過ぎか)。とにかく実に気持ち良さそうで、つい横に添い寝したくなり、仕事場に置いておくと作業に遅れをまねきそうです。

楽園のように涅槃仏が緑に囲まれるこの絵は、以前にも観たことがありました。そう、あの光景にソックリ。

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南蔵院の涅槃像を対面する山の中腹から観ると、こんな感じでした。あまりの大きさに特撮のジオラマのように見える驚きの光景なのですが、気持ち良さげに緑の中に寝そべるお姿は、それとは裏腹にほのぼのとして見えました。私が巨大涅槃像に惹かれるのは、巨大なインパクトと、ほのぼのする優しげな表情という、相対する二面性、つまりギャップ萌えにあるのかもしれません。いま初めて気付きました。

「ほのぼの要素」のみ抽出した「涅槃仏クッション」これは私だけでなく、他にも需要がありそうです。そして最後に、驚愕のインパクトと癒しとを同時に得られる南蔵院にぜひ一度参拝すべき!と強く推させていただきまして、また次の巨なるものでお会いしましょう。

プロフィール
半田カメラ
大仏写真家。フリーカメラマンとして雑誌やWeb撮影の傍ら、大好きな大仏さまを求め西へ東へ。現在まで300尊をこえる大仏さまを撮影。「巨」なるものが好き。穴も好き。『夢みる巨大仏 東日本の大仏たち』(書肆侃侃房)が発売中!

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