書肆侃侃房

出版社の書肆侃侃房のウェブ連載「web侃づめ」です。 http://www.kankanbou.com/

第23回 FATをめぐるものがたり(3)――『飢える私』と「残酷な」世界(日野原慶)

※「FATをめぐるものがたり――『ダイエットランド』と、あるひとつの解放宣言」はこちら、「FATをめぐるものがたり(2)――ふとっていることの語源学(エティモロジー)と物語学(ナラトロジー)」はこちら

ファット・リベレーション・ナラティブの系譜

 私の体の物語は勝利の物語ではない(6ページ)

 ロクサーヌ・ゲイが『飢える私:ままならない心と体(Hunger: A Memoir of (My)

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第6回 終電2本前の雷鳴(くどうれいん)

夜にものすごい雷雨だと、そわそわしてしまう。こわいのではなく興奮するのだ。わたしは大きなものほど好きなので、激しい天気のことをかっこいいと思う。会社の窓にときおり紫のひかりが破裂するように走る。雨の音が途切れることなく続く。上司から危ないから早めに帰れと電話がかかってきて、切り上げられない仕事を持ち帰ることにして帰路に着く。

 電車の待ち時間を考えずに会社を出てしまったので次の電車まではあと20

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第22回 君、バズりたまふことなかれ──沈黙を取り戻すグラフィック・ノベル『サブリナ』(矢倉喬士)

バズる。ブンブンとうなる虫の羽音。多くの人々の間で話題になって注目を集めること。

 もし、バズることによって売上を伸ばし、作者を含む出版関係者の利益に貢献する作品を成功作とみる判断基準があるならば、ニック・ドルナソ (Nick Drnaso)のグラフィック・ノベル『サブリナ(Sabrina)』(2018年、藤井光訳で早川書房より9月以降に刊行の見込み)は 間違いなく成功作であった。

 2018

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第3回 柱状節理を観賞し、食べる(半田カメラ)

柱状節理が好きです。

柱状節理(ちゅうじょうせつり)とは何なのか、まずはその説明から始めなければなりません。節理とは、地殻変動やマグマ冷却の際に生じる、岩体の規則性のある割れ目。そのうち両側にズレのないもののことを言います。ちなみにズレがある場合は断層と呼ばれます。ですから端的に言えば柱状節理とは、柱状の岩体の割れ目のことです。

あ、ここまで読んで「興味ないわ」と、離脱しないでください!柱状節

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第21回 「素描」を書く者、「素描」を読む者(藤井光)

2010年代は、アジア発の英語文学というものがじわじわと存在感を増している時期でもある。もちろん、アジア系アメリカ人作家による創作も実に多彩であり、多くの名作が生み出されている。それとはまた異なった文脈で、フィリピンやタイ、パキスタンなどをはじめとする地域から、英語話者層と英語という言語が持つ力学を背負って登場する現代作家に漂う、きわめて自省的な作風が、僕にはいろいろと身に沁みて感じられる。

 

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