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第3回 柱状節理を観賞し、食べる(半田カメラ)

柱状節理が好きです。

柱状節理(ちゅうじょうせつり)とは何なのか、まずはその説明から始めなければなりません。節理とは、地殻変動やマグマ冷却の際に生じる、岩体の規則性のある割れ目。そのうち両側にズレのないもののことを言います。ちなみにズレがある場合は断層と呼ばれます。ですから端的に言えば柱状節理とは、柱状の岩体の割れ目のことです。

あ、ここまで読んで「興味ないわ」と、離脱しないでください!柱状節理が魅力的なものだという説明をこれからしていきます、もう少しお時間ください!冒頭に書いた辞書からそのまま抜き取ったような説明より、例をあげた方が解りやすいので、具体例で説明していきます。

たぶん日本で最も有名な柱状節理ってここなんじゃないでしょうか。写真は国の天然記念物にも指定される福井県の東尋坊です。2時間サスペンスのラストに出てきそうな断崖絶壁と例えられる東尋坊ですが、このそそり立つ柱状の岸壁がまさしく柱状節理です。例をあげると「ああ、見たことある」とグッと身近に感じるのではないでしょうか。

他にも柱状節理の名所は数多くありますが、私が特に推したいのは静岡県、伊豆半島にある爪木崎の俵磯です。

写真が爪木崎の俵磯。遠目に見てもこの柱のような無数の岩が連なる様子は不思議ですし、壮観です。この彫刻されたような地形が、人の手によるものでなく自然の力によるものだということに、単純に「どうしてこうなった」と驚きを感じます。爪木崎はこの不思議な地形を様々な角度から観賞することができ、かなり間近に、何ならその上を歩くこともできたりします。

もうひとつ柱状節理の大きな特徴に「玄武岩では柱は六角柱になることが多い」というのがあります。これがまた実に魅力的。蜂の巣や雪の結晶など、自然界に登場する六角形に私は妙にパーフェクトな美しさを感じます。爪木崎では、この隙間なく並ぶパーフェクトな六角形を心行くまで観賞できます。まさに柱状節理は「自然のつくった彫刻作品」だと、私は思うのです。

さらに話は深いところに入っていきます。この自然のつくった彫刻作品を、かなり強引に人工物にしちゃった案件があり、何とこれが息を飲むほど美しかったのです。

それは秋田県仙北郡の山の中に、人々に忘れ去られたようにひっそりと眠っていました。ご覧のように、柱状節理に穴を彫ってトンネルにしてしまったという、生保内林用手押軌道の隧道と呼ばれるトンネルです。生保内(おぼない)とは古い地名で、その昔この場所を木材を運ぶトロッコが走っていて、その際につくられたトンネルらしいです。

このトンネルに出会った時は感動しました。柱状節理そのものが美しいうえに、そこに穴を開けてしまうというトリッキーさ、それが森の奥にひっそりあるという神秘的な魅力、いろんなものが重なって私には特別でした。

柱状節理にガッツリ穴を開けるだなんて、なんて大胆なんでしょう。どうしてもここを彫らなければならなかったのでしょうか。柱状節理好きとしては神への冒涜的な勿体なさも感じるわけですが、この自然と人とのコラボ作品がなんとも言えず、美しい。そして、柱状節理の中をくぐるという経験も新鮮でした。

この秋田のトンネルを観たのはもう6年も前のことですが、トンネルの美しい佇まいと、柱状節理をブチ抜くという神をも恐れぬ所業は、私の脳裏にずっと焼き付いていました。そして今回この記事を書くにあたり、この神をも恐れぬ所業を実践してみよう、と思い至ったのです。と言っても、実際の地形をブチ抜けるわけがありません。そこで、なかり段違いにスケールの小さいことをやってみました。

「柱状節理ケーキをつくろう」これが私ができる範囲で、合法かつ楽しく美味しく柱状節理をブチ抜く方法です。ですが、あまりお菓子作りは得意ではなく、仕上がりは写実的でもありませんし、美しいとも言い難いものです。そのへんは薄目で見るぐらいな感じでご覧いただければ幸いです。

ではさっそく(お試しになる方はいないと思いますが)柱状節理ケーキの作り方をご紹介します。作り方は簡単。用意したプレーンとココアのスポンジを柱状にカットします。この時、できるだけ六角形に近づけたいところですが、正確でなくて大丈夫。薄目で見ましょう。そしてそれらをチョコクリームでくっ付ける。ただそれだけ。

出来上がった柱状節理ケーキがこちら。抹茶パウダーをかけるとか、スポンジをグラデーションにするとか、もっとビジュアルを近づける方法はあったと思いますが、技術が伴わず、シンプルにただ柱状節理な仕上がり。理想の図とは離れていますが、やりたかったことはだいたいこんな感じかな。

本来であればこのケーキを貫通させてトンネルにしたかったのですが、それにはそれなりの大きさが必要となり、明らかに食べきれないため断念。包丁で平にカットすることで、神をも恐れぬ所業とさせていただきます。カットしてみると爽快感があり、断面がうっすら六角形の連なりでちょっと小躍りしたくなる気分。再現度を上げるのは今後の課題としまして、ケーキは最後まで美味しくいただきました。

地形好きな方の中には、地形を食べ物で再現している方がチラホラいらっしゃいます。「巨人になりその場所を食べる感覚」なのだとか。その気分が少しだけ解った気がします。そして柱状節理の魅力を再確認しました。やっぱり柱状節理ってイイネ。

では、また次の巨なるものでお会いしましょう。


プロフィール
半田カメラ

大仏写真家。フリーカメラマンとして雑誌やWeb撮影の傍ら、大好きな大仏さまを求め西へ東へ。現在まで300尊をこえる大仏さまを撮影。「巨」なるものが好き。穴も好き。『夢みる巨大仏 東日本の大仏たち』(書肆侃侃房)が発売中!

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