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第6回 邪鬼の頑張りを見てほしい(半田カメラ)

邪鬼が好きです。

ここで私の言う「邪鬼」とは仏教の世界に登場する鬼のこと。主に四天王(多聞天・広目天・持国天・増長天)の足の下に踏みつけられる姿で現されます。四天王は東西南北を守るガードマンのような存在で、お寺の門によく見られます。基本は4人のチーム編成ですがコンビで活動することもあります。チームで1番強い戦隊ヒーローで言えばレッドのポジションにあたるのが多聞天で、多聞天はソロ活動も行います。そしてソロになると毘沙門天と名乗るのです。

チーム、コンビ、ソロと形態は違えど、いずれも足の下には邪鬼が踏みつけられ、この邪鬼がよく見れば可愛い。なのに常に踏まれて低い位置にいるためなかなかスポットが当たりません。私はそれが悲しい。「頑張ってるんだから皆んなもっと邪鬼を見てあげて!」といつも思ってしまうのです。

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そんな縁の下の力持ち的な邪鬼を、私が勝手に考案したタイプ別に分類し、いくつかご紹介させていただきたい。きっとあなたも最後には邪鬼を応援したくなるはず。

上の写真は茨城県那珂市の一乗院にある「日本一の毘沙門天」という名の毘沙門天像。高さは16メートル、両サイドに妻子を従えビシッとポーズを決めたなかなかのヒーローっぷりです。ここで完全に悪役に徹しヒーローの足に踏まれている邪鬼、私が考案した邪鬼の分類としては、

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● Aタイプ えげつない踏まれ方をされ苦悶の表情を浮かべる邪鬼

と言っていいでしょう。首がややおかしな方向に曲がっているように見え、応援を通り越してもはや救助に行きたいレベル。厄災を振りまく邪鬼が懲らしめられている姿です。これぐらいリアルな表現でいいのかもしれません。ですが私にはあまりに健気な姿に映ります。頑張れ邪鬼、負けるな邪鬼。

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つづいてご紹介するのは埼玉県の寄居町にある寄居七福神のひとつ、極楽寺の毘沙門天像。そうです、毘沙門天は四天王というチームの他に、七福神というチームにも掛け持ちで所属する人気ヒーロー。複数のユニットで活動するアイドルを彷彿とさせます。さて、こちらのヒーローに踏まれている邪鬼はタイプでいうと、

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● Bタイプ なぜか恍惚の表情を浮かべM気を感じてしまう邪鬼

と言っていいのではないでしょうか。仕事で背中がバキバキにこってしまったお父さんが子どもを背中に乗せツボを刺激してもらっているような。「あ〜ソコだよソコ」という声が聞こえてきそうな、痛気持ちいい表情にも見えます。これぞまさに踏まれ上手。

もうひとつ、このA、Bどちらでもないタイプの邪鬼がいます。

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写真は岡山県倉敷市にある毘沙門天信仰のお寺、安養寺の門の上に鎮座する開運大毘沙門天像。座った姿ながら高さが8メートルもあるカッコイイ毘沙門天です。足元にはやはり邪鬼を踏みつけているらしいのですが、木々に覆われ邪鬼の姿は見ることができません。ですがこの毘沙門天が座る門の下に、なんと阿吽(あ・うん)の邪鬼がいるのです。この阿吽の邪鬼は、

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● Cタイプ 己の不幸を笑に変える関西芸人タイプのユーモラス邪鬼

踏まれていないので例外ではあるものの、ユーモラスなタイプに分類されるでしょう。悪役でありながらユーモラスな仕草や表情で踏まれているこのタイプの邪鬼はとても多く見られます。どことなく憎めないキャラクターでついつい応援したくなる邪鬼の典型と言えると思います。

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さて、そんな様々なタイプの毘沙門天と愛すべき邪鬼がいるものの、足元で絶えながら頑張っている邪鬼の姿はよく見えないこともしばしば。例えば上の写真は徳島県と香川県の県境にある山にそびえ立つ毘沙門天展望館です。15メートルの展望館の上に10メートルの毘沙門天像が立っている、私の知る限り最も高いところに立つ、最も高い毘沙門天です。

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展望台にのぼり上を見上げても、踏まれている邪鬼の姿はよく見えません。この写真の右下にかすかに写るのが邪鬼の手の指だろうと思われます。この展望館は雲辺寺というお寺の重要文化財の毘沙門天像を模したもので、その重文の毘沙門天の御開帳時にはもちろん邪鬼も拝めるのですが、この展望館で踏まれている邪鬼の頑張りはおそらく永遠に見られぬままです。

仏像が作られたときからずっと踏まれ続けている邪鬼。その頑張る姿にスポットが当らないことは、日々働き家事育児をしても誰からも褒められることのない自分の姿と重なります。そして大げさかもしれませんが「もっと邪鬼を見てあげて!」という冒頭の想いにつながるというわけです。

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そこでこんなものをつくってみました。踏まれる担当の赤邪鬼くんと青邪鬼くん。まず粘土で邪鬼くんたちの形を作り、そこから型紙をおこしてフェルトで人形に整形。同様にして踏む担当の毘沙門天くんもつくりました。

なんとこの毘沙門天くんは、

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邪鬼を踏みつけながら自転車に乗るのです。左右のペダルをこぐたびに赤邪鬼くんと青邪鬼くんが交互に動きます。おわかりでしょうか、つまり邪鬼くんたちが健気に一生懸命ペダルをこぎ進む様子を永遠に見ていられる装置、をつくったのです。その名も「サイクリング毘沙門天くん」です。

実際に動かしてみましょう。

サイクリング毘沙門天くん

どうですか、邪鬼くんを応援したくなってきませんか?今度お寺に行ったなら、山門で四天王を探してみよう。そしてその足元に踏まれている邪鬼を格子越しに見てみよう、と思っていただけたのではないでしょうか。そんな風に思っていただけたのなら邪鬼も救われるかもしれません。例え誰も見ていないとしても私はいつも見てるよ、頑張れ邪鬼、負けるな邪鬼!

最後に邪鬼にエールを送り、また次の巨なるものでお会いしましょう。


プロフィール
半田カメラ

大仏写真家。フリーカメラマンとして雑誌やWeb撮影の傍ら、大好きな大仏さまを求め西へ東へ。現在まで300尊をこえる大仏さまを撮影。「巨」なるものが好き。穴も好き。『夢みる巨大仏 東日本の大仏たち』『遥かな巨大仏 西日本の大仏たち』(書肆侃侃房)が発売中!

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