見出し画像

回転花火銀河M101と超新星の観測  (2023年5月24日夜)

 梅雨空になる直前に、板垣公一氏が5月19日(木)に発見なさった超新星SN 2023ixfを観測することが出来たのでご報告します。写真左は、超新星が出現する前の約2か月間に、東京都武蔵野市の自宅(マンション)の北側ベランダから撮影したM101の画像を積算したものです。中心部から伸びる数本の「腕」の形も色も美しいので、春先から晴れた夜の主な観測ターゲットにしていました。
 5月19日の超新星発見のニュース、「北斗七星の近くに超新星出現、日本のアマチュア天文家が発見(Forbes Japan)」;

の後、最初の晴天の夜の観測結果が右の写真です。矢印の先に、左の写真にはなかった明るい星がありますが、これが超新星です。5月19日よりも大きく(明るく)見えているように思います。次に観測出来るときに、果たして、もっと明るくなっているのか、暗くなっているのか、楽しみでもあり心配でもあります。

デジタル望遠鏡eVscope2による5月24日(水)夜の観測

 観測には、Unistellar社のeVscope2を用いました。このデジタル望遠鏡については、eVscopeについての「超高感度望遠鏡 eVscope 活用ハンドブック」(大阪市立科学館);

http://www.sci-museum.kita.osaka.jp/~yoshiya/eVscopeHB_OL.pdf

を参考にして下さい。
 暗くなると共にマンション北側のベランダに望遠鏡をセットして、北斗七星の柄の近くにあるM101をカタログで選び、高度が62度程度であることを確かめて20時頃から観測を始めました。この日は薄雲が横切ったため、雲を避けながら1時間の間に19分、7分、5分の3回の観測を行いましたが、その後、北風のために望遠鏡が振動して観測が困難になりました。
 そこで、三脚の足を思いっきり短くして、ベランダのフェンスより低い位置に望遠鏡をセットして、ベランダの庇とフェンスの手すりの間から観測することにしました。21時30分過ぎにはM101の高度が66度になり、その後72度まで上がる間に70分の観測時間を確保できました。右の画像は3回目の観測結果を、天体画像処理ソフト「ステライメージ9」によって処理したものです。左側の画像は、2月27日、2月28日、3月31日の5回の計204分の観測結果をステライメージ9によって重ね合わせたものです。

M101での超新星爆発の情報

 5月19日(木)の週、武蔵野市では16日(火)に観測日和がありましたが、用事があったため観測を行いませんでした。17日(水)も観測は可能だったと思いますが、観測していなかったので、超新星発見のニュースを聞いたときは悔しくて仕方がありませんでした。ただ、富山にお住まいの方の「ほしぞloveログ」2023年5月26日の記事、「M101での超新星爆発」;

を拝見すると、5月17日(水)には、まだ超新星は観測されていなかったとのことで、ほっとしました。健康に配慮した私の観測タイムである20時~24時に最初に晴天になったのが5月24日(水)だったので、私にとっての唯一のチャンスをとらえたということになります。次のチャンスはしばらく来ないようです。
 さて、「ほしぞLoveログ」さんに紹介されている「Supernovae 2023ixf in M101」のページ;

の下の方にある「AAVSO light curve」;

AAVSO data showing supernova 2023ixf might have peaked at mag 11 +/- 0.2

によると、5月24日(水)あたりで明るさは最大(11等級)に達しているようなので、「明るくなーれ」と祈ってもあまり期待できないかも知れません。何か月この明るさが続くのか、明るさが変動するのか、見守りたいと思います。

回転花火銀河M101の魅力

 M101は回転花火銀河や風車銀河(Pinwheel Galaxy)と呼ばれる渦巻銀河で、その美しい渦巻構造を地球から観測できる比較的近く(約2,000万光年)にある銀河です(AstroArts「メシエ天体ガイド」の「M101
(おおぐま座の銀河:回転花火銀河)」:

 上記の解説によると、北斗七星のひしゃくの柄の近くにある、見かけの明るさが8.2等級の銀河で、20cm~の口径の望遠鏡によって渦巻銀河の「腕」の構造が分かるようになるような淡い銀河ということになっています。過去に4つの超新星(1909A、1951H、1970G、2011fe)が出現しているとのことです。北極星の近くですから、いつも北の方向に見えます。空のきれいなのは北西の風が強い時ですので、風による振動を避ける対策ができれば観測の機会は比較的多い銀河の一つです。近くにM51「子持ち銀河」もあり、これも観測しやすい魅力的な銀河です。
 「ほしぞLoveログ」さんの望遠鏡も26cmの口径があるとのことですが、私が使っているeVscope2の口径は11cmですし、それなりに空の明るい東京都内郊外ですので、「よくぞこんなきれいな銀河を観測できるなあ」と感動して、主なターゲットにしています。「何千万もの星の座標データベースと比較することで、視野内の天体を瞬時に認識」して星を追尾することによって天体の画像を長時間積算してノイズの少ないが天体画像が得られるeVscope/eVscope2の特長が発揮されています。アマチュア用天体望遠鏡のDX(デジタルトランスフォーメーション)のお陰で、M101回転花火銀河や超新星を都市郊外(多分都市部でも)、シニアが健康に気を付けながら楽しめます。


超新星と私たち

 超新星は天文学者やアマチュア天文家の好奇心の対象だけではない、ということについて少し触れたいと思います。宇宙物理学的な意義について分かりやすい記事が「JBpress」に掲載されていました:
「地球の『近く』で出現した超新星、世界が注視する理由は
宇宙物理学的に重要な意義を持つ、超新星ハンターの172個目の獲物」
2023.5.27(土)小谷 太郎

 超新星爆発は、宇宙物理学的意義だけでなく、「人間の材料はどこから来たのか?」、「元素をばらまく、星の大爆発-宇宙の錬金術、超新星爆発」という観点からも重要という認識で研究されているとのことです。私たちとも無関係な現象ではないということになります。以下の二つの情報が参考になります。

https://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/2013_106_09/106_596.pdf


これからも無理せずに星空を楽しみたい

 星空とのお付き合いのチャンスは30年近く前にもありました。北海道陸別町の「銀河の森天文台 りくべつ宇宙地球科学館」;

の計画が持ち上がった頃から、「宇宙地球科学館」の「地球」の部分の立ち上げから長期観測に関わってたからです。その経緯は、「国立環境研究所 地球環境研究センターニュース」、「アーカイブ 陸別成層圏総合観測室 
観測10周年」の「日本一寒い町の熱いモニタリング」;

https://cger.nies.go.jp/publications/news/vol19/vol19-9.pdf#page=2

や、「地球環境研究センターによる陸別観測10周年-日本一寒い町で国立環境研究所との共同観測事業-陸別観測10周年記念『太陽から地球までシンポジウム』-」;

https://cger.nies.go.jp/publications/news/vol19/vol19-10.pdf#page=2

に詳しく紹介されています。
 そのようなご縁があったにも拘わらず、銀河の森の口径115cmの望遠鏡で遠くの銀河や星雲を観測するという楽しみを経験することもなく定年退職し、さらに2回目の定年退職をした後、2020年代に入ってしまいました。当時は前方しか見ないで走る競馬馬のように、成層圏を見てもその先の宇宙を見ていなかった、いや、見ないようにしていたのですね。電波天文学や太陽活動の研究者と共同研究していたにも拘わらず。
 しかし、最近ちょっとしたきっかけで、「空を見ても星は見ていなかった」、「野原や林を見ても花や鳥を見ていなかった」ことに気が付きました。幸い、望遠鏡もカメラも進歩し、必要な情報にも手軽にアクセスできるようになりました。これからも、「武蔵野のベランダ天文台」で、睡眠を十分にとりながら銀河や星雲や星々を楽しんで行きたいと思います。まずは、M101超新星の今後を「この目で」見届けたいものです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?