社会課題解決とビジネスが繋がる「官民連携」を学ぼう-- 日本経済社 × 官民連携事業研究所 共同セミナー開催レポート(2023年2月15日)
少子高齢化に伴う社会経済活動の低下や自然災害の激甚化など「課題先進国」とされる日本。今、迅速かつ効果的な課題解決策のひとつとして「官民連携」が注目されています。
そんな「官民連携」に取り組む自治体・企業が増えつつある一方で、行政と企業間でどのように共創していけばいいのか、知見やノウハウの蓄積がまだまだ不足しています。「社会課題の解決とビジネスをどのように繋げていけば良いのか?」、「企業(自治体)にどのようなアプローチをしたら良いか分からない……」などといった声も高まってきています。
こうした現状を受け、2023年2月15日、(株)日本経済社と(株)官民連携事業研究所は、基本から実践者によるトークセッションまで、「官民連携」のポイントを学べるオンラインセミナーを開催しました。
当日は、100名を超える企業・自治体の官民連携担当者や経営者、大学関係者など幅広い層の参加者のみなさまにご参加いただきました。
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社会の潮流と官民連携実現に必要な2つのポイント(基調講演&第一部)
基調講演では、経済産業省経済産業政策局地域経済産業グループ地域産業基盤整備課長の向野陽一郎さんに登壇いただきました。
向野さんは今後、地域・社会課題の複雑化、財政の逼迫等により自治体が単独で従来のサービスを提供できる領域は縮小していくだろうと指摘。一方、民間事業者がデジタル技術等のテクノロジーを活用し、自治体のサービスを補完・拡張することによって、これまで収益を上げることが難しかった領域が新たなビジネスチャンスになる可能性があることなど、官民連携が必要とされる社会の潮流を解説しました。
また、自治体と民間事業者では、組織の意思決定の仕組みやスピード感等が異なることでうまく行かない例もあり、自治体と民間事業者の間に立ち互いの目線を合わせながら官民連携を推進する「中間支援団体」の重要性を強調されました。
次いで、第一部では、官民連携事業研究所の官民連携アクセラレータ加藤勝が登壇。『官民連携の基本のキ』と題した講義を行いました。
加藤は、官民連携の機運が高まる一方で、「前例主義の壁」や「実行主体の壁」、また「文化の壁」によって、健全なパートナーシップを組むことが阻まれている現状についてお話ししました。こうした壁は考え方やマインドセットの問題であり、今求められているのは、「対話」と「小さな成功体験」の積み重ねであると説明します。
行政・民間それぞれの実践者によるリアルな声(第二部)
第一部で官民連携の基本的な知識をインプットしたところで、聴く側としては、実践事例や先駆者のリアルな声が聴きたくなってくるところ。
そこで第二部では「連携成功者のトークセッション」と題して、ゲストの方々をお呼びし、最先端・最前線の声を届けました。
登壇者
徳島県阿南市 表原 立磨市長
宮崎県延岡市 読谷山 洋司市長
ピジョン株式会社 田島 誠也氏(ベビーケア事業本部「あかちゃんとそなえの輪 推進プロジェクト」プロジェクトリーダー)
株式会社ネクイノ 石井 健一氏(代表取締役)
株式会社日本経済社 足立 研(執行役員 新規事業開発室長)
ファシリテーター:官民連携事業研究所 晝田 浩一郎
官民連携・官民共創の意義は理解出来ても、多くの企業にとっては売上を確保していくという視点もないがしろに出来ないところ。
「営業」と「共創」の違いを理解して、官民ともに歩み寄りながら双方にメリットを生み出していくためにはどう連携していくべきなのか、熱い議論が交わされました。
先駆者に学ぶ ~事業を社会のインパクトへ~
育児・マタニティ用品などの製造・販売事業を展開するピジョンの田島さんは、「企業理念に掲げる、赤ちゃんに優しい場所を作るということは自社の商品やサービスだけじゃなく、自治体との連携により子育て支援施策を拡充することで実現可能となるもの。少子化は、市場のシュリンクに直接繋がってくるものであり、いち企業としても出来ることがあると考えている」と語りました。
また、「自治体と深く関わることで、新しい商品開発につながる知見が得られたり、プロモーションに使えたりすることも成果として考えている」と官民連携の意義についてお話しされました。
オンラインによる遠隔医療サービス事業を展開するネクイノの石井さんは、スタートアップの存在意義についてこうお話しされました。
「解決策がまだ分かっていないところに既存のマネタイズの仕組みを組み合わせて、新しい解決策を世の中に提案していくこと。また、解決策があってマネタイズが困難な領域に新しい持続可能な仕組みを提案すること」。
その上でネクイノとしては「産婦人科医のリソースに限界がある中で、オンラインによる診察に加えて、そのビフォーケア、アフターケアとなる医療相談の仕組みを社会に対して提案していかなければならないと考えている。当然収益は求めていかなければならないが、2~3年のスパンで事業を考えていくことがとても重要。民間企業にとってはマネタイズするための土壌づくりとレピュテーションの確保に、自治体との連携に意義がある」と伝えました。
先駆者に学ぶ~共創と営業の違い~
では、自治体側はどのように考えているのでしょうか?
公共施設の利活用への民間のアイディアの導入や複業人材の登用などで官民連携の実践に積極的に取り組んでいる阿南市の表原(おもてはら)市長は、「営業と共創の間に大きな隔たりがある。『営業』では公平性の問題などから乗り越えられない壁がたくさんあるが、同じ目的に向かって共に取り組んでいくという総論がしっかり議論されていると、そこから逆算して、この課題解決に対してはこの企業と一緒に取り組んでいくのだというロードマップが敷かれる」と語ります。
また、地域経済全般から、医療福祉、DX、GXまで60件以上の企業との連携協定を締結している延岡市の読谷山(よみやま)市長は、「市役所には市民生活に関わるさまざまな課題や悩みの情報が集まっている。市役所と連携することで、今社会で何が求められているかをリアルタイムで把握でき、そこからビジネスチャンスやイノベーションを生み出すことができるということが企業にとっての大きなメリットである。社会課題の解決にお互いができることをやっていこうという『共創』に取り組んでいきたい」とお話しされます。
4者の議論を振り返って、日本経済社の足立氏は「社会課題解決に持続可能なビジネススキームで取り組むということは本当に素晴らしいこと。官民連携は、結果だけでなくプロセスも重要であり、それが評価されていくことが大事である。そのためにも情報発信のあり方が極めて重要になる」と強調しました。
最後に、セミナー全体の総括として、官民連携事業研究所の鷲見(わしみ)英利が「社会課題の解決に向けて、これからは官民連携と合わせてしっかりとした大義の下での民民連携も重要になってくる。善き前例の創出に向けた自治体・企業のチャレンジに期待する」とまとめ、セミナーは盛況に終わりました。
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