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【青森県田子町】「にんにくとべごまつり」で牛の丸焼きに惹かれ、田子牛に心を奪われた

 青森県田子町 (たっこまち) では「にんにくとべごまつり」というイベントが毎年開催されている。
 べごとは牛のことであり、すなわち「にんにくと牛肉のまつり」だ。

「にんにく」「牛肉」「まつり」
 ハレのワードが並んでいる。なんと素敵な響きだろう。

 先日バーチャルYouTuberの今酒ハクノ氏とコラボしたことでご存じの方も多いと思うが、青森県田子町は古くからにんにく生産に取り組んでおり、町としても「にんにくの首都」を名乗っている。


 生産量こそ現在は隣の十和田市に譲っているが 、これについては田子町と十和田市で面積も人口も桁違いなのでしょうがない。田子町が面積242km^2で人口5000人未満に対して、十和田市は756km^2で人口6万人とまさに桁違いだ。

街の街灯がにんにく
町に入るなり「にんにく日本一」を誇る看板が目に入る
かかしの後ろにも
巨大なにんにくを掲げた看板がある

 そしてにんにくともう1つ、田子町の特産品となっているのが田子牛という和牛だ。

 そのPRのために田子町では7年前から「田子ガーリックステーキごはん」という田子産にんにくや田子牛を使ったメニューを町内の数店舗で提供している。 
 しかも毎年メニュー内容を変えるという徹底っぷりだ。

 そして特産品を気軽に楽しめるイベントとして毎年行われ、今回で第38回を数えているのが「にんにくとべごまつり」なのだ。

 そして今年のにんにくのべごまつりでは、ここ数年流行病を理由に中止していた牛の丸焼きが復活する
 牛の丸焼き、一生に一度は生で見てみたい光景だ。絶対に見たい、そしてあわよくば食べてみたい。


 なので行ってきた。

 会場となっているのは創遊村229スキーランド。基本的に雪の少ない青森県の南部地方では、唯一のスキー施設として営業している。
 田子町の中心部からやや離れた山の中にあり、八戸駅からは車で1時間ほどかかる場所だ。

229スキーランドのコース案内

 開場時刻より30分ほど早く到着していたのだが、会場はすでに大盛況。そして至る所から香り立つにんにくの香り。
 特にバーベキューセットの販売列は既に長蛇の列を作っていた。

数量は限られているものの、バーベキューセットの引換券は
青森県内の一部施設で事前の購入も可能だ
バーベキューセットの引換コーナー近くにあった
1人1つ原木から生えた椎茸をもいで持っていける
ウェルカムドリンクならぬウェルカム椎茸。
とれたての椎茸って本当に美味しいですよね

 歩いていて思ったのだが、近隣の三沢市にある米軍基地の関係者と思わしき外国人が多い。全体の1割程度は外国人ではないだろうか。
 実際にアナウンスは英語でも行われているほか、英語が堪能なスタッフが「困ったことはありませんか?Do you need any help?」と書かれた看板を持ち歩き回っている。
 和牛の魅力は、米国の人々にも通用するようだ。

 そして目玉のバーベキューや牛の丸焼き、にんにくの販売以外にも、会場内では様々なイベントが行われているほか、軽食などの屋台が多数出ている。

会場のマップ
地元の子供達が描いた
にんにくとべご祭りのイラスト
準備中の屋台。
にんにくや田子牛を使った屋台も多いが
それ以外の屋台もちゃんとある
栽培されたにんにくのサイズを競うイベント。
ジャンボニンニク (にんにくに似ているが全くの別種)ではなく
普通のにんにくだ。
最優秀賞のにんにく。
大きさもさることながら、どれも形も美しい

 数ある屋台の中で、特に強烈なオーラを放っていたのはこのちゃんこ鍋だ。
 写真では伝わらないのだが全体がにんにくの香りに包まれているこの会場においても、この鍋の周辺のにくにくの香りが一際強いのだ。

見た目は普通のちゃんこ鍋なのだが……

 食べてみて理由がわかった。
350ml程度のこのカップ1杯分の中に、それなりのサイズのにんにくの半玉分から1玉分程度のにんにくがゴロゴロと入っていた

 どう考えてもにんにく濃度がおかしい。ちゃんこを食べているのにんにくを食べているのかわからない。シュクメルリなど中央アジア料理でも流石にここまではやらないだろう。これがにんにくの首都の恐ろしさか。

 しかしそれでいて、ちゃんと美味しいのがまたわからない
 野菜やキノコの鶏肉の出汁がしっかり効いていて、この食べ物ににこういった表現を使うのが適当は不明であるが「滋味深い」という表現を使いたくなる。
 程よい塩味で甘味と旨みがまとめ上げられた、優しい味なのだ。匂いのパンチ力はとんでもないが。
 そして特徴的なとんでもない量のにんにくなのだが、程よく煮込まれたことで甘みが強く滑らかな、芋のような具材として機能している

 会場全体がにんにくの香りに包まれているので嗅覚が麻痺していることに助けられている部分も多そうだが、ふざけて作った料理ではないのは確かだ。

 それにしてもあの鍋の中に、いくつのにんにくが沈んでいるのだろうか……

写真で見えるのは上に浮いている野菜や練り物が中心だが
下には鶏肉もかなりの量沈んでいる

 さて、ここからが今回の大本命の牛の丸焼きだ。
 牛の丸焼きは先着順で数量限定。
 まずは10時に専用オーブンが開いて牛の丸焼きのお披露目が行われ、肉を削ぎ落として再び炭火で焼いた後に11時から販売が開始される。

牛の丸焼きの会場となっていた229ドーム

 10時のお披露目を前に、30人は軽く超える人々がカメラを片手に、今か今かと牛の丸焼きが姿を現す瞬間をカメラに捉えようとしている。

 そして10時、実況とともにオーブンが開かれる。

インディジョーンズの聖櫃が脳裏をよぎる
神聖ささえ (一部の人間には) 感じさせるオーブン
1つ1つの鋲が外されながら
1枚ずつパネルが外れていく
上のパネルが開放。
開けている人からは中身が見えているはずだが……
徐々に御神体 (牛の丸焼き) がその姿を表し始める
そ、そして……
遂に!

うわああああああああ!!!!!!

姿を現した!

ぎゃああああああああ!!!!!!

2カメ

に、に、に……

3カメ

肉だあ〜〜〜〜!!!!!

 正直「ダミアン・ハーストの作品にこういうのあったな」と一瞬思ってしまったが、あまりにも圧倒的な迫力を前にもはや拝みたくなる
 細やかな装飾が施されたウェディングケーキや、卓越したカッティング技術で飾り付けられた高級中華料理の大皿のような、先程まで確かに抱いていた食欲さえおいてけぼりになるほどの"凄み"がそこにあった。

 見るからに柔らかく、それでいてジューシーに焼き上げられた巨大で完璧な肉塊を前にした人間は、そこに一種の聖性さえ見出してしまう。
 私だけではない。周りの人々の口から漏れる言葉も皆一様に「すげえ」なのだ。

 そんな中、周りの人の数人が「今回のは○○さん (当然ながら恐らく近隣の畜産農家の方) とこの牛だって」などと会話しているのが耳に入る。○○さんありがとう。あなたのおかげで素晴らしいものが見れています。


 田子町に来て本当によかった。これを見れただけでも、心からそう思えた。

 とはいえ、本当にこれを見ただけで満足するわけにはいくまい。
 10:30からの歓迎セレモニーで田子町長や青森県知事、そして近隣の市町村の関係者からの挨拶を見届けた後の11時。私は再び229ドームに舞い戻っていた。

解体されつつある御神体 (牛の丸焼き)

 既に出来つつある長蛇の列にならぶこと約20分。牛の丸焼きの1皿がついに私の手元にやってきた。
 代金を支払い、傍に置いてあるタレをかけていそいそと会場を出る。

ロゼ色に焼き上がった肉。
焼きあがってなお分かるサシの美しさ

 いやあ、本当にもう、凄い。
 どこの部位かは分からないものの、とにかく柔らかい。なんとなく牛肉の脂=甘くて重いというイメージがあったのだがこの肉の脂に甘味はあまりなく、全体に入ったサシが口の中でサラリととろけるイメージだ。
 そして「牛の持ち味」とまで思っていた牛特有の匂いが殆どない。しかし力強い旨味はちゃんとそこにある。

 いい和牛ってこういう味なのか、それとも田子牛ってこういう味なのか。
 正直「美味い肉という概念」を食べている感覚はあっても、普段食べている牛肉と違いすぎて「牛肉」を食べている感じが薄い
 なんの肉が問われれば「旨みと繊維の感じからして牛……?」とはわかるのだが「『うまい肉』のイデアです」と言われれば納得してしまいそうだ。自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。とにかくそれくらいの衝撃だった。

 思ってた以上にシンプルな旨さ。
 そんな肉にタレが絡むとどうなるのか。大変なことになる。
 先ほど脂の甘みは控えめと書いたが、ゆえにこそ甘みの強いタレでより輝く。アミノ酸と脂に塩分と糖分が加わることで、人間の本能が求める味を完璧にカバーするのだ。
 どこのタレかは分からなかったが、少なくともスタミナ源たれではない。多分田子牛に合わせることが前提のタレだ。

 そして凄かったのは、写真では左端に写っているスジ部分。
 オーブンで焼かれて調理されたはずなのに、口に入れるとなぜか煮込まれたかのようにとろっとろなのだ
自分がこれまで食べた経験のある丸焼きはせいぜい鶏サイズだったので知らなかったが、牛サイズの肉をじっくりと丸焼きにすると、炙り焼きと煮込みといいとこ取りになるらしい
 そういえばプルドポークとか言われてみればそんな感じか。アメリカのバーベキューは数日単位で時間をかける理由がよくわかった。

バーベキュー会場はどのテーブルもほぼ満席だ

 さて、せっかく買ったバーベキューセットだが見てみるとどこの焼き台もファミリーサイズだ。
 1人で来た自分が1テーブルを独占するのも悪いし、だからと言ってどこかの席に「ちょっとスペース貸してもらえますか?」というのも図々しすぎる。

 私の探し方が悪かった可能性も高いが、量も1人で食べるには多かったのもあり実家に持ち帰り家族で夕飯のおかずにした。
 なおセットには田子牛と野菜とタレのほか、にんにくが丸々1個入っていた
 ちょっと油断するとすぐににんにくが紛れ込んでいる、これがにんにくの首都だ。

フライパンで焼かれる田子牛。
サシの入り方がすごい

 フライパンで焼いて食べても当然美味い。
 ジューシーな丸焼きとはまた違うアプローチだが、そもそも肉が美味いので焼いても美味い。
 高い肉は美味い、という半ば当たり前のことを家族で再確認した。

 以来、私は見事田子牛に心を奪われていた。
 そりゃ毎日食べるような代物ではない。しかしせめてタイミングが合えば、あわよくば口に出来たらいいなという思いが心の片隅に芽生えていた。

 そんな折、たまたま田子町に用事ができた上に時間的に町内で食事をする機会に恵まれた。
 これはもう、そういうことだろう。
 私は浮き足立ちながら、田子町内の田子牛を食べられるお店の1つである池田ファームに向かった。

 池田ファームは田子牛やニンニクなどを販売しているお店で、隣には焼肉店であるレストラン・フォーレが併設されている。
 田子町の中心街からはやや離れた場所にあるのだが、訪れた際は平日ながら盛況であった。

田子牛のほか、にんにくなども販売している。
またミルクちゃんという可愛い看板犬がいる
レストラン・フォーレは店の右側にある。

 レストランに入ってすぐのところに緑色のボタンがある。
 これを押して席に案内してもらった後に注文、最後の会計は隣の池田ファーム側で行うシステムになっている。

焼き台はチャッカマンで着火するタイプ。
正直戸惑ったが店員さんが点火してくれたので安心。
注文したのは田子牛カルビ定食1500円。
見よ、この美しいサシを。
なお、肉に目を奪われていて
セットのご飯や味噌汁などの写真が撮れていなかった。

 塩胡椒やわさびといった調味料はセルフサービスとなっているほか、注文した際にタレとにんにく醤油がついてくる。
 そう、ここはにんにくの首都 田子町。気を抜くとにんにくが介入する町だ。
 当然このにんにくはチューブではなく生にんにく。香りのパンチはチューブ品の比ではなく、写真の量となるととんでもないパンチ力がある。

左の皿がにんにく醤油。
鉄板で焼かれるいい肉と野菜。
官能的としか言えない絵面

 正直、にんにく醤油と田子牛の組み合わせについてはにんにくのあまりにもパンチ力が強すぎる。チューブにんにくならまだしも生にんにくともなると田子牛がかなり押されてしまっていた。
 ……のだがこのにんにく醤油は、厳密には田子牛の脂が浮いたにんにく醤油は野菜を前にした時その真価を発揮する。特にかぼちゃは強い甘味との相性がすこぶるいい。にんにくとかぼちゃってこんなに合うのか、と正直かなり驚いた。
 このにんにく醤油に焼けた田子牛を1切れつけた後、タレを白米でぬぐってパンチ力を軽減した状態の田子牛を喰らい、残りのにんにく醤油で野菜を食べる。それが私が思う理想の食べ方だ。

 そしてタレ、こちらは甘めの、先日のにんにくとべごまつりで丸焼きの横にあったものと多分同じもの。つまり田子牛にめちゃくちゃ合うやつだ
 これについては散々前述したので詳細は省くが、田子牛についてはこれしかないと思う。

 ふと店内を見回すと、年齢層の広さに驚いた。
 若者や中高年はもちろん、2歳になるかならないか程度の幼児や、70歳は越えていそうな高齢の老夫婦も田子牛に舌鼓を打っているのだ。

 サシが入った和牛の焼肉というと、まさに「食べ疲れしやすい食べ物」の代表格のイメージだった。
 しかし癖の少ない田子牛は、確かに脂は乗っているが一般的に想像されるであろう牛肉よりもはるかに食べやすい。
 ぜひ一度は食べてほしい逸品だ。

池田ファーム レストランフォーレ
住所:青森県三戸郡田子町大字田子池振外平11
定休日:不定休
営業時間:11:00〜15:00

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