小説『エミリーキャット』第38章・ニューヨークの憂鬱
『……』
窓枠に両腕を突いて凭(もた)れかかり、まるで光の吹き溜まりのような遠い街を、黙って見つめていたエミリーは窓外から視線をすべらせ、
彩の眼をじっと見据えた。
『ダルトン?それ、誰のこと?』
『…ビリー・C・ダルトンって画家、エミリー、知らない?
私、ダルトンの絵を観たことがあるの…ロイとそっくりの猫が描かれていて…それに…』
『それに?』
『……それに…その猫と一緒に描かれていた少女が…』
彩はうつ向いて夜風に揺らぐ漆黒の森の繁みが波濤のように続くのを、上から眺めてい